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ラノベ窟のヘヴィーな廃人  作者: 広江宇一
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第51話/四章-⑬

「この……ウンコ製造機がぁぁぁぁぁあ!」

薄暗い教室に銀髪少女の怒号が響き渡る――


純文学作家を目指すも挫折し、国内でも珍しい文学科を備えた高等学校『高村学園』に就職した和久井耀は、文芸部の顧問を任される。しかし、待っていたのは通称『ラノベ窟』。ライトノベルをこよなく愛する変人の巣窟だった。


新進気鋭の女子高生プロライトノベル作家に囲まれ、『ラノベ窟』の非常識な活動に翻弄されながら、耀は至高の作品を書き上げることができるのか――!?


【登場人物】

和久井耀わくいよう     高村学園常勤講師

那津川紗里緒なつかわしゃりお  執筆ジャンル:王道ファンタジー

紺野響こんのひびく     執筆ジャンル:男性向けラブコメ

ユピテル      執筆ジャンル:MMORPG中心

卍風理まんじふうり     執筆ジャンル:異世界転生モノ

小早川優奈こばやかわゆうな  執筆ジャンル:女性向け恋愛小説


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


☆一日一話、朝11時に定期更新☆


↓完結済みの過去作品もどうぞ↓

『国宝級イケメンの俺様が幼馴染彼女のストーカーに襲撃されたら、稀代のブサメンに生まれ変わっていた件 ~かくも人生は美しい…… ※ただし、イケメンに限る~』

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『JK空海、吉備路を駆ける』

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「直木賞⁉ ……そ、そんな事、不可能に決まってる!」


 神々しいほどの威圧感を放つ目の前の少女に対し、俺は無意識に一歩、後退あとずさった。


「どうして、そんな事が言えるの?」

 剣呑とした雰囲気とは裏腹に、無邪気な口調が素っ気なく問う。


「直木賞にライトノベルがノミネートした事は、無い……」

 問われた俺は狼狽うろたえた。

 この事実を紗里緒が知らないはずはない。


「だからこそ、こうしてみんなを集めたのよ。文壇の賞レースを戦いうる素養ある作家を集め、質の高いライトノベルを送り出し、この作品が受賞しないなんておかしいって風潮をつくる……絶対に直木賞を獲ってみせる! だって、編集長は、わ・た・し、なんだから……」


 以前、響が紗里緒を編集長と呼んだ理由が、やっと今、わかった。

 部誌の発行だとか、部活のごっこ遊びなんかじゃ、なかった。

 それは二人の誓約であり、壮大な計画の一端だった。


「我々は、今までのライトノベルと決別するの! 新しいレーベルの名は、ライトノベルに『別離』の接頭語、deを付けて、歓喜のディライト novel……『DNP』……Delight Novel Party……それが私たちの計画の名よ!」


「……高校生の部活如きで、そんな都合よく進むはずがないだろう」

 俺の引きつった声に、紗里緒は首を左右にゆっくりと振り、否を示した。


「だからこそ学園長の許可が必要なの。はい、これ。産官学連携事業『DNP』の企画書」

 紗里緒は書類の束を突き出した。受け取った雲雀は、一枚一枚ページを繰って、丁寧に内容を把握していく。


「お題目は文芸文化の向上と読書離れの抑制……しかして、真の目的はライトノベルの地位向上。すでにユピさんが動いて、文科省と版元へ話はついてる……誰が最初に直木賞を獲れるか、競争ね! さぁ、雲雀! この承認書に署名しなさい!」

 企画書の束と引き換えに一枚の紙を受け取った雲雀は、懐から取り出した万年筆であっさりと署名すると、薄く笑った。


「フフ……でも、君の本当の目的は……あの人に反抗したいだけじゃないのかい?」


「……」

 紗里緒は無言で雲雀を睨みつける。


「やれやれ……。しかし、今の君になら……いや、今の君たちだからこそ、成し遂げられるのかもしれない……な」


「あら? 直木賞のノミネートを蹴った人に言われると、説得力があるわね」

 直木賞のノミネートを……蹴った……? まさか……


「……気付いていたのかい?」

 紗里緒の遠回しな言い草が、温和な微笑みを僅かに引きつらせる。


「どれだけ文調を変えても、読んだらわかるわよ……師匠の文は……ⅰAIアイエイアイ

 ⅰAI……だと⁉ 俺の尊敬する覆面作家が……雲雀、なのか?


「アイエイアイ……らいでひばり……RAIDEHIBARI……母音だけ残すと、AIEIAI……アイエイアイ、でしょ?」


「そこまで分かっているなんて……流石だよ」

 観念したように雲雀は肩を竦める。


「師匠の事ですもの……両親から貰った名前を大切にしているのね……私と違って」

 承認書をひったくった紗里緒は、茶化すようにニヤリと笑った。


「……君たちの青春だ。精一杯、やってみるといい。応援するよ」

 柔らかく告げる雲雀の隣を、ツグミが静かに通り過ぎる。そうだ、忘れていた。ここは……


「……お父さん……お母さん……今年も、来たよ……」

 虚空へ向かって声を掛けると、抱えていた花束を墓石の上へ置く。


 笑ってる……覗き見たツグミは見たことのない穏やかな表情で、優しく微笑んでいた。


「……うん……元気だよ……」

 ポツリポツリと言葉が洩れる。ツグミは墓標と対話している。


「そんなんじゃ、ないよ……これは……和久井……ただの……下僕……」

 おい! 下僕として紹介すんな! 親御さんが心配するだろ!


「……どうか……安らかに……」

 膝を屈し、ただ静かに祈りを捧げる。


 俺には残された子供の気持ちは、到底わからない。ましてや、子供を残して逝った親の気持ちなんて……。この兄妹は残酷な運命と今も闘っている。しかし、表情のバリエーションが少ないツグミの薄い微笑みは、親が子へ残した愛の大きさを物語っているのだと感じた。


「……和久井先生……鶫の事を頼みます」

 墓標と対話する妹の姿を慈しむように眺めながら、雲雀は真剣な声音で呟く。


「学園長が助けてあげればいいでしょう」

 俺の軽口に、雲雀は悲し気な眼差しで応じた。


「今の僕にはやるべきことがあるのです……勝手を言って申し訳ありませんが、頼みます」




 雲雀と別れ、宿に戻ってきた紗里緒は終始、上機嫌である。

 海水浴を許可された俺は、やっと出番の回ってきた海パンに着替えたものの、上の空だった。波打ち際ではしゃぐ少女たちの声も、どこか遠い存在のように感じる……。


 プロとしての矜持を全うする紗里緒、生まれながらの定めを背負った響、書けない呪いに抗う優奈、理性を越えた風理、そして、逃れようのない現実と闘い続けているツグミ……。


 傷つき、七転八倒を繰り返しながら、それでも書くことを止めず、自らの糧にして、作品を作り上げる。

 そうして、彼女たちはかけがえのない場所を手に入れた。それに引き換え、俺の何と情けないこと……。自分に嘘を吐いて逃げ、大言壮語を吐いてなお、原稿は未だ完成していない……。DNPの話を聞いた時、口では無理だなんて言っておきながら、心の中では確かに、こいつらならやる! と直感していた。しかし、そこに今の俺がいる資格はない。


 今こそ、廃人になれ! やり遂げろ!


 そして、本当の仲間になるんだ! こいつらと……。


お読みいただき、ありがとうございます。

皆様の応援が執筆の糧です。


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