第50話/四章-⑫
「この……ウンコ製造機がぁぁぁぁぁあ!」
薄暗い教室に銀髪少女の怒号が響き渡る――
純文学作家を目指すも挫折し、国内でも珍しい文学科を備えた高等学校『高村学園』に就職した和久井耀は、文芸部の顧問を任される。しかし、待っていたのは通称『ラノベ窟』。ライトノベルをこよなく愛する変人の巣窟だった。
新進気鋭の女子高生プロライトノベル作家に囲まれ、『ラノベ窟』の非常識な活動に翻弄されながら、耀は至高の作品を書き上げることができるのか――!?
【登場人物】
和久井耀 高村学園常勤講師
那津川紗里緒 執筆ジャンル:王道ファンタジー
紺野響 執筆ジャンル:男性向けラブコメ
ユピテル 執筆ジャンル:MMORPG中心
卍風理 執筆ジャンル:異世界転生モノ
小早川優奈 執筆ジャンル:女性向け恋愛小説
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「はぁあ⁉」
この成人したかどうかという年頃の、金髪の柔和な青年が高村学園の学園長だと⁉
「……ということは」
雷電……。
俺は、黒服に身を包む少女を振り仰いだ。
「ユピさんは理事長。この放蕩癖の学園長に代わって、学園運営の全権を担っているのよ。……って、知らなかった?」
無学な子供を諭すように、深刻な真実を紗里緒は呆気なく明かす。
「知るわけがないだろう! だいいち、高校生が学園運営だって⁉ そんな馬鹿な!」
「いや、お恥ずかしい。鶫はよくやってくれていますよ」
ツグミ……雷電鶫。それがユピさんの本当の名前。
「……つまらない話ですよ。文学研究にしか興味を示さなかった高村十座は、学園運営の全てを妻であり女性教育の旗頭たる雷電倫子へ委ねていました。二人が離婚した後も、その体制は変わらなかった。学園の全ての権利は雷電一族によって連綿と継がれてきたのです。学園長だった父と理事長だった母が事故死して以降、僕と鶫がその責務を負っているんです……ところで、あなたは誰、ですか?」
ツグミと同じ緋色の瞳をパチクリさせながら、雲雀は小首を傾げる。
「俺は和久井耀。高村学園高等部の常勤講師……」
となると、この歳下らしい青年は俺の雇い主という事になるのか……。
「そして、総合文芸部の雑用よ!」
俺の説明に割り込むように、紗里緒は言い放った。
「毎度毎度、雑用を強調するな!」
「事実でしょうが!」
雲雀は俺たちのやり取りを微笑まし気に眺め、
「ご苦労をお察しします。和久井先生」上辺だけの労いを掛けた。
話の分かる学園長ならば、特別ボーナスくらい出してもらいたいものだ。
「……さて、僕を探していたという事は、なにかしら用事でもあったのかな?」
雲雀は文句言いたげな紗里緒を見据えて問うた。
「紹介しておくわ。こっちが紺野響。そっちの和久井の後ろにいるのが、小早川優奈。優奈はデビューこそまだだけど、私を凌ぐ逸材よ」
「あの件か……揃ったんだね」
そう呟いた雲雀は二人の顔を代わる代わる見て、改めて名乗り、頭を下げた。
「これで約束の部員が揃ったわ。学園長……例の計画を承認してもらえるかしら?」
意味不明なやり取りを唖然と見つめる俺の顔を見て、雲雀は言う。
「……紗里緒ちゃん。皆に説明は済んでいるのかな?」
「あ……。そういえば、響には伝えてあるけど、優奈にはまだ説明してなかったわね」
「おい! 俺も聞いてないぞ」
「アンタはいいのよ。数に含めていないから。今から大切な話をするから、耳を塞いでなさい」
「泣くぞ!」
「泣けば? 人にものを頼む方法は教えたと思うけど」
コイツは本当に容赦ない。
「……お願いします。俺にも聞かせてください」
俺は本当に情けない。
「ま、いいでしょ。総合文芸部は雲雀の作った部活なの」
「僕と風理が一年生の頃に作った部活だね。四年前に……」
四年前で高一なんだから、雲雀は二十歳くらいか……。って……
「それなら何故、風理はまだ高校にいる⁉」
「私、サボり過ぎて、二回ほど留年してるんで☆」
やおら寝起きでパジャマ姿の風理は、自らの頭を小突いて、ペロリと舌を出してみせる。
「……お前というヤツは……」
反省の色が薄い態度に、溜息も出ない。
「はいはい! 茶々入れずに聞きなさい! 雲雀と私の約束……ラノベ窟の真の目的を……」
「真の……目的……」
無意識に自らの口が言葉を反芻する。
クルリと背を向けた紗里緒は胸に手を当て、薄く長く息を吐いた。纏う雰囲気は色を変え、取り巻く空気がピンと張り詰める。
「今、純文学とライトノベルの間には曖昧だけど、決して越えられない壁がある……」
紗里緒は頭上で煌めく、今にも消えそうな星を撫でるように柔らかく右手を掲げ、
「私はそれをぶっ壊す!」
天を掴み取るかの如く拳を握った。
振り返った琥珀の瞳には覚悟が燦燦と輝いていた。それは燃え盛る怒りに似ている。
「ライトノベル……その歴史はあまりに不遇だった。人々の生活に寄り添い、文学の間口を広げ、読者の心を揺り動かす力を有しながらも、若年層向けの小説という、ただそれだけの理由で、一部の読書家から内容のない軽い小説だと決めつけられてきた……」
噛みしめるように言葉を紡ぐ紗里緒の、
「絵本の親戚なんて言う輩もいた……」
刺すような鋭い視線に、思わず目を逸らす。
誰の事を指しているのかは明らかだった。
「ライトノベルである、ただそれだけで賞レースから除外されてきた……」
一拍置いた紗里緒は、ゆっくりと深呼吸を差し挟む。
「私は今、ここに宣言します……ライトノベルで賞を獲る! まずは、直木三十五賞よ!」
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