第49話/四章-⑪
「この……ウンコ製造機がぁぁぁぁぁあ!」
薄暗い教室に銀髪少女の怒号が響き渡る――
純文学作家を目指すも挫折し、国内でも珍しい文学科を備えた高等学校『高村学園』に就職した和久井耀は、文芸部の顧問を任される。しかし、待っていたのは通称『ラノベ窟』。ライトノベルをこよなく愛する変人の巣窟だった。
新進気鋭の女子高生プロライトノベル作家に囲まれ、『ラノベ窟』の非常識な活動に翻弄されながら、耀は至高の作品を書き上げることができるのか――!?
【登場人物】
和久井耀 高村学園常勤講師
那津川紗里緒 執筆ジャンル:王道ファンタジー
紺野響 執筆ジャンル:男性向けラブコメ
ユピテル 執筆ジャンル:MMORPG中心
卍風理 執筆ジャンル:異世界転生モノ
小早川優奈 執筆ジャンル:女性向け恋愛小説
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カーテンの隙間から差し込む蒼白い光が、もうすぐ夜明けだと告げている。
パソコンの画面から視線を外し、大きく腕を振り上げて背伸びする。
書き殴った駄文を理路整然と清書する作業は、体力と忍耐の無駄遣いに他ならない。一息つこうと立ち上がった所で、呼び鈴の連打が来客を知らせる。
朝っぱらから……こんな幼稚な事をする知人を俺は一人しか知らない。
「おい、紗里緒……!」
ドアを開けると意外な人物が俺を見上げていた。
「……じゃなくて、ユピさんか……」
ゆるふわカールの栗毛と無機質な表情は普段のまま、いつもと違う装いに言葉を失う。
白のフリルが映えるダークグレーのワンピースに、ビロードの黒靴。手には色とりどりのグラジオラスが鮮やかに映える花束を抱えている。
「……車を……出して……」
「葬式にでも……行くのか……?」
いつもの眠そうな声で一言……お墓参りよ……とだけ、返ってきた。
ただならぬ雰囲気に慌てて着替えて駐車場へ出ると、紗里緒が大きく手を振っている。
「急いで! ……ったく、風理が起きないのよ」
優奈と響の押す台車にはコンテナではなく、器用に寝こける風理が積まれている。
「なんで墓参りをそんなに急ぐ必要があるんだ?」
「行けばわかる! 早く車を出して!」
訳も分からずバトンタッチされた俺は、薄くいびきをかく風理を後部座席へ放り込んだ。
助手席に乗りこんだユピテルは、あっちこっちと端的に指示を出す。それ以外は俯いて、じっと押し黙っている。この少女がゲーム機器を手にしていない姿を、初めて見たかもしれない。
「誰の墓なんだ?」
「……父と……母……」
気の利いた言葉を探すも見つけられなかった俺は、何も答えなかった。
山道を十五分ほど走ると、車は入り江を見下ろす岬の先端へ辿り着く。
「……ここでいい……」
車を降りたユピテルは、赤茶けた地面がわずかに顔を覗かせる獣道を、躊躇いなく進んでいった。鬱蒼とした木々の中へ野道は続いている。まるで冥界へと誘われるように一本道を歩く小柄な少女に、漠然とした不安を感じずにはいられない。前を行くユピテルの背後にぴたりと付き従い、しばらく歩くと、木々の暗がりを割いて視界が突然、開けた。
眼前には明けたばかりの空と果てしない海が広がり、ぽつんと一基、墓石が建っている。
その前に一人のうら若い青年が佇んでいた。仕立ての良さそうなネイビーのスーツに、シルバーのナロータイ。手には、グラジオラスの花束……。
「やぁ、久しぶりだね」
写真で見た金髪の青年は振り返ると、柔らかく微笑んだ。
「……兄さん……」
「やっと見つけた!」
ユピテルの呟きを掻き消すように紗里緒が叫び、青年に詰め寄る。
「一体全体、今までどこをほっつき歩いてたのよ! 雲雀! いい加減、携帯電話くらい持ちなさいよね!」
「……携帯電話は苦手なんだ」
紗里緒の詰問に雲雀と呼ばれた青年は苦笑いで誤魔化した。
「よくここがわかったね」
「律儀なアンタの事だから、命日には必ずお墓参りに来るってわかってた。去年は一足遅かったけど……今年はドンピシャ、ね」
紗里緒が細やかな胸を張る。
「……線香……」
「……なるほど。線香の燃え具合で時間を測ったのか」
ユピテルの呟きを聞いた雲雀は、感心したように少女の頭を慈しみの眼差しとともに撫でた。
「おい……待て。じゃあ、闇雲に探す必要なんてなかったじゃないか⁉」
昨日一日振り回された俺のパラダイスを返せ!
「それは……その……アンタがいると、響も優奈も……私に構ってくれないじゃない……」
そんな理由で……。とは思ったが、頬を膨らませる紗里緒に不覚にもドキリとした俺は、話題を変える事しかできなかった。
「……で、その人がお前の師匠? それに今、兄さんって……」
「これは雲雀。私にライトノベルを教えてくれた……師匠にして、ユピさんの兄。そして……」
その時、ふと墓石が目に入り、俺は息を呑む。
『雷電家之墓』
雷電……高村学園の礎、高村十座の妻が確か……、雷電倫子……!
「高村学園の学園長よ」
海風になびく銀髪を掻き上げながら、紗里緒が衝撃の真実を告げる。
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