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ラノベ窟のヘヴィーな廃人  作者: 広江宇一
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第48話/四章-⑩

「この……ウンコ製造機がぁぁぁぁぁあ!」

薄暗い教室に銀髪少女の怒号が響き渡る――


純文学作家を目指すも挫折し、国内でも珍しい文学科を備えた高等学校『高村学園』に就職した和久井耀は、文芸部の顧問を任される。しかし、待っていたのは通称『ラノベ窟』。ライトノベルをこよなく愛する変人の巣窟だった。


新進気鋭の女子高生プロライトノベル作家に囲まれ、『ラノベ窟』の非常識な活動に翻弄されながら、耀は至高の作品を書き上げることができるのか――!?


【登場人物】

和久井耀わくいよう     高村学園常勤講師

那津川紗里緒なつかわしゃりお  執筆ジャンル:王道ファンタジー

紺野響こんのひびく     執筆ジャンル:男性向けラブコメ

ユピテル      執筆ジャンル:MMORPG中心

卍風理まんじふうり     執筆ジャンル:異世界転生モノ

小早川優奈こばやかわゆうな  執筆ジャンル:女性向け恋愛小説


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


☆一日一話、朝11時に定期更新☆


↓完結済みの過去作品もどうぞ↓

『国宝級イケメンの俺様が幼馴染彼女のストーカーに襲撃されたら、稀代のブサメンに生まれ変わっていた件 ~かくも人生は美しい…… ※ただし、イケメンに限る~』

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『JK空海、吉備路を駆ける』

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「……書きたい……」


 自らの意思を無視して、口から言葉が洩れる。


「へ?」

 紗里緒が間抜けな声を上げる。


 呆然と見守られ続けるその間も、一心不乱に箸を動かし、一気にビールを呷る。

 あっという間に膳の上は食器を残して空になった。


「……なんか触発された……書いてくる……」

 静かに席を立つ俺の背中に、


「アンタ、酔っぱらってるだけでしょ?」

 紗里緒のからかうような声が突き刺さる。


「……違う。書きたい気持ちが湧き上がってくるんだ。今なら、書ける!」


「ちょ、ちょっと、センセ……」

 響の制止も聞かず、俺は部屋を飛び出した。


 脇目も振らず自室へ戻る。この焦りはなんだろう。今は無性に書きたくて、書きたくて仕方がない。スーツケースからパソコンを取り出して、電源を入れる。起動する時間すらもどかしい。

 書きかけの原稿を立ち上げると、一心不乱にキーボードを叩く。電気もつけずシングルルームの床へ座り込むと、酔いに任せて打鍵し続けた。おおよそ異様な光景だっただろう。言の葉は泉のように湧いてくる。

 どうだ! 見てみろ! 俺は書ける! 書けるんだ! そこまでは良かった……。


 ……気がつくと、床に突っ伏して眠っていた。

 言い訳するならば、疲れていたとしか言いようがない。昨日の夜更かしに早朝からの運転、荷物運び、パラソルの設置、慣れない人探し、ナンパ男の襲撃……普段以上に酔いが回り、気を失うように寝落ちしていた。書いた内容を確認すると、支離滅裂……。血の気が引くとは、まさにこの事。朝の紗里緒の声が脳内を過ぎる。


『アンタにとって酒は百害あって一利なし! よ!』


 全くその通りだった。深く溜息を吐いた俺は、外の空気を吸うべくベランダへ出る。紗里緒のストイックさに触発されたものの、完全に空回り……自爆だ。


 小さなベランダに寂しく置かれたデッキチェアに腰を下ろす。

 頭上には満天の星、波が砂浜をすすぐ音だけが絶え間なく響き渡っている。


 恥ずかしい!


 皆の前で盛大に大見得を切っておいて、この有様……思い返すだけで、鳥肌が立つ。

 思わず両手で顔を覆うと、狭いデッキチェアの上でジタバタと身悶えた。


「眠れないの?」

 聞き知った声が上の階から聞こえ、咄嗟に息を呑む。


 そうか。この真上は女子部屋か……。どうやら声の主は響で間違いない。

 しかし、俺に向けられた言葉ではなかった。


「えぇ、まぁ。寝ようと思うと書きたい事がいっぱい湧いてきて……」

 そう応じた優奈は、


「……もったいないので、メモってました」

 恥ずかしそうに笑った。


「あるある。寝ようとすると、アイディアが出るよねー。あれってなんだろうね。私の場合は、夢の中でも度々、思いつく。だから、いつも枕元に紙とペンを置いてるの」


「わかります! 夢ってすぐに忘れちゃうから……」

 姿は見えずとも、ベランダで海風に吹かれる浴衣姿の二人が鮮明に脳内へ描き出される。


「忘れちゃったこと程、いいアイディアだったなぁ、とか思っちゃう」


「そうですよね! いつまでも頭の片隅に残っちゃいますよね!」

 この子たちは寝ても覚めても書く事を忘れない。

 いや、忘れることができない……。


「今日は特に、濃い一日だったから……夢に見そう」


「……怖かったけど、いい経験になりました。先生に守ってもらって、幸せでした……」


「結局、役に立ってなかったけどね……」

 そう言って、二人は笑い合った。役立たずで悪かったな。


「それにしても、紗里緒さんが先生のか、か、か、彼女だなんて言いはじめた時は驚きました……。あの沸き上がるような心の熱を、『嫉妬』って言うんですね……勉強になりました。でも、紗里緒さんの冗談だったみたいでひと安心です」

 恥ずかしそうに早口で気持ちを吐露する優奈の顔はきっと、真っ赤に違いない。


「……いや、満更でもない、かも……今回、私たちを遠ざけようとしたのだって……」

 答える響の声は頭上に広がる夜空のように静かで、


「え……」

 妙な冷ややかさを感じ取ったのであろう優奈が小さく息を呑む。


「……ま、私は4Pでもいいんだけどね!」

 気持ちを切り替えるように明るく、不穏なワードを放った響に対し、


「……よんぴー? チーズ?」

 優奈の受け答えは見当違いも甚だしい。


 俺はというと、叫び出しそうな自分を抑えるのに必死だった。

 ……紗里緒が俺を? そんな訳ないだろ……。俺の事なんて雑用以下としか思っていない。男としてどころか、人として認識されているのかも疑わしい。

 同じ土俵にすら、上がっていないんだよ……。


 それは俺が一番、痛いほどに自覚している。才能も、熱量も、努力も、全く足りていない。こんな俺が隣にいることすら、おこがましい……。


「……センセイ、今頃何してるんだろうね?」

 響の澄んだ声が、不意に訪れた自己嫌悪から現実へと引き戻す。


「あれだけ言って、寝てたら面白いですけどね」


「まさかぁ。きっと徹夜で書いてるよ……明日が楽しみ。じゃ、私は寝るね。おやすみ」


「あ、私も書き終わったので寝ます」

 引き戸の閉まる音が響く。そして、血の気が引く。身悶えてる場合じゃない。


 書かねば!


 気配を消しつつ部屋に戻った俺は、再びパソコンに向き合った。


お読みいただき、ありがとうございます。

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