第46話/四章-⑧
「この……ウンコ製造機がぁぁぁぁぁあ!」
薄暗い教室に銀髪少女の怒号が響き渡る――
純文学作家を目指すも挫折し、国内でも珍しい文学科を備えた高等学校『高村学園』に就職した和久井耀は、文芸部の顧問を任される。しかし、待っていたのは通称『ラノベ窟』。ライトノベルをこよなく愛する変人の巣窟だった。
新進気鋭の女子高生プロライトノベル作家に囲まれ、『ラノベ窟』の非常識な活動に翻弄されながら、耀は至高の作品を書き上げることができるのか――!?
【登場人物】
和久井耀 高村学園常勤講師
那津川紗里緒 執筆ジャンル:王道ファンタジー
紺野響 執筆ジャンル:男性向けラブコメ
ユピテル 執筆ジャンル:MMORPG中心
卍風理 執筆ジャンル:異世界転生モノ
小早川優奈 執筆ジャンル:女性向け恋愛小説
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
☆一日一話、朝11時に定期更新☆
↓完結済みの過去作品もどうぞ↓
『国宝級イケメンの俺様が幼馴染彼女のストーカーに襲撃されたら、稀代のブサメンに生まれ変わっていた件 ~かくも人生は美しい…… ※ただし、イケメンに限る~』
https://ncode.syosetu.com/n0781ha/
『JK空海、吉備路を駆ける』
https://ncode.syosetu.com/n2890gw/
「……風理……? ……何故……ここに……」
パラソルへ戻った俺たちを、ユピテルが驚きの瞳で迎える。一方的にユピテルを抱きしめた風理は、相変わらずの軽口で懇々と事情を説明している。
「待たせて悪かったな。これ、お詫びにやるよ」
俺の差し出したかき氷に、ユピテルは飛びついた。
一心不乱に食らいついたかと思えば、苦悶の表情で頭を抱える。
かき氷だが、アイスクリーム頭痛ってやつだ。
「さーて、そろそろ……」
ひと泳ぎ……なんて言い出す俺の声を遮って、
「風理も泊まれるように手配しなくっちゃ……ホテルへ戻りましょう。じきに、チェックインの時間になるはずよ。じゃ、パラソルの片付けよろしく」
吐き捨てるように言い残した紗里緒は、心配そうに見つめる響と優奈の手を取って、ズンズンとホテルへ消えていった。
「……コンテナは……客室へ……」
擦れ違いざまに呟いたユピテルは、かき氷を頬張りながら後を追う。
「ドンマウィッチ、先生……」
謎の励ましとともに軽く俺の肩を小突いた風理は、足取り軽くホテルへ去っていった。
パラソルを解体、返却し、コンテナを全て玄関へ運び終えると、俺以外のラノベ窟御一行様は、フロント横の休憩所で寛いでいた。ウェルカムドリンクらしき茶を、優雅にすすっている。
「お揃いでしたら、お部屋へご案内します」
見計らったように女将が現れ、柔らかな笑顔で先導をはじめる。
廊下の袋小路に備えられたエレベーターで三階へ上がる。真っすぐな廊下の突き当り、玄関脇の松を見下ろす位置にひっそりと、客室の入口である木目調の引き戸が設えられている。女将が慣れた手つきでカードキーを翳すと、電気仕掛けの扉がそっと開く。土間で靴を脱ぎ、前室の襖を開けると、そこには絶景が広がっていた。
「わぁ……」
人は何かに魅入られた時、短い吐息しか出ない。
それを今、俺たちが体現している。
目の前は見渡す限りの青……水天一碧とは正にこの光景。遠くに望む岬の端から延々と続く水平線は、強烈な陽光といかにも夏らしい湧き上がるような入道雲に遮られ、空と海との境界をあやふやにしている。和モダンな室内を抜けベランダへ出ると、片隅に露天風呂まで設えられた豪華な造り。眼下には砂浜が広がり、潮騒が止め処なく鳴っている。
「こんな部屋に泊まれるなんて……」
俺の夢見心地を、
「なに言ってんの? アンタは下よ、下。二階のシングルルームよ」
紗里緒が容易く打ち砕いた。
「なにぃ⁉」
「当たり前でしょ! 女子高生と同じ部屋なんて無理に決まってるじゃない! ホントは近くの格安民宿にしてやろうかと思ったけど、可哀そうだから同じ宿にしてあげたのよ! ……パシらせやすいし……」
「最後が本音だろ!」
「嫌ならキャンセルするわ! 部用車の中ででも寝なさい!」
「……ありがたく、二階で寝させて頂きます……」
俺は三つ指をついて、感謝の念を述べる。
「……あのー、お夕食はお部屋でなさいますか? 一階の広間もご利用いただけますが……」
俺たちのやり取りを引きつった苦笑いで観察していた女将が、おずおずと声を掛ける。
「この部屋でお願いします!」
他人の困惑など意に介さず明るく応じる紗里緒に対し、すぐに冷静な営業スマイルを取り戻した女将にプロ根性を感じる。
これだけ広ければ食事には充分だろうという畳敷きの客間の奥には襖を隔てて寝室があり、背の低いダブルサイズのベッドが二つ並ぶ。一つには早速ユピテルが転がっている。
「お時間は何時からになさいましょう?」
「んー、六時からで。いい? みんな」
異論は出ない。
食事までの一時間あまり。俺はやっと自由を得た。暇を与えられたともいう。克明に記すならば、「着替えるから出ていけ!」だった。
風呂でも行くか……。宛がわれた一人部屋へ戻り、荷物を解く。着替えを用意し、出番のないまま寂しげに佇む海パンを一撫ですると、畳み直し、スーツケースへそっと仕舞いなおした。
「ごめんな……」
もの言わぬ海パンに一言詫びて、大浴場を目指す。ゆっくり汗を流し終えて時計を見れば、丁度いい頃合い。
三階の女子部屋へ戻ると、既に夕餉の支度が整っていた。
お読みいただき、ありがとうございます。
皆様の応援が執筆の糧です。
「☆☆☆☆☆」を押して評価をお願いします。




