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ラノベ窟のヘヴィーな廃人  作者: 広江宇一
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第44話/四章-⑥

「この……ウンコ製造機がぁぁぁぁぁあ!」

薄暗い教室に銀髪少女の怒号が響き渡る――


純文学作家を目指すも挫折し、国内でも珍しい文学科を備えた高等学校『高村学園』に就職した和久井耀は、文芸部の顧問を任される。しかし、待っていたのは通称『ラノベ窟』。ライトノベルをこよなく愛する変人の巣窟だった。


新進気鋭の女子高生プロライトノベル作家に囲まれ、『ラノベ窟』の非常識な活動に翻弄されながら、耀は至高の作品を書き上げることができるのか――!?


【登場人物】

和久井耀わくいよう     高村学園常勤講師

那津川紗里緒なつかわしゃりお  執筆ジャンル:王道ファンタジー

紺野響こんのひびく     執筆ジャンル:男性向けラブコメ

ユピテル      執筆ジャンル:MMORPG中心

卍風理まんじふうり     執筆ジャンル:異世界転生モノ

小早川優奈こばやかわゆうな  執筆ジャンル:女性向け恋愛小説


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


☆一日一話、朝11時に定期更新☆


↓完結済みの過去作品もどうぞ↓

『国宝級イケメンの俺様が幼馴染彼女のストーカーに襲撃されたら、稀代のブサメンに生まれ変わっていた件 ~かくも人生は美しい…… ※ただし、イケメンに限る~』

https://ncode.syosetu.com/n0781ha/

『JK空海、吉備路を駆ける』

https://ncode.syosetu.com/n2890gw/


 時が止まったかのように、場の空気が凍る。


「……えぇーっと、じゃ、他の二人は? 彼女持ちと一緒だと暇でしょ? 一緒に遊ぼうよ!」

 ナンパ男はなおも笑顔を絶やさない。


「私は……許嫁です!」

 優奈がもう一方の腕へ身体を寄せる。スクール水着特有のさらりとした生地が肌を撫でる。


「私は愛人です!」

 今度は響が胸に飛び込んでくる。


「い、許嫁に……愛人……? そんな恋愛してても不幸なだけだよ。今日は俺たちと遊ぼうよ!」

 なおも食い下がるナンパ男。その根性には尊敬の念が堪えない。


「……私は……一緒にいるだけで幸せなんです! 皆さんとは遊べません!」

 目を閉じた優奈は、その肢体を小さく震わせながら言い放った。目を丸くした響が、ヒュウと短く口笛を吹いて、感嘆を吐露する。


 俺はこの瞬間のために産まれてきたのかもしれない……ありがとう! 父よ! 母よ!


「えぇーっと、そうなんだ……それは……お幸せに……」

 ナンパ男は固まった苦笑いのまま踵を返す。


「ありゃあ、イタイ女だ……」

 去り際、ナンパ男の二人組は聞えよがしに笑い合った。


「……イタイ女だってさ」

 俺は紗里緒を見た。


「あ、愛人なんて言うから!」

 紗里緒は響を見る。


「スクール水着がいけないんじゃ……」

 響は優奈を見た。


「いつから紗里緒さんは先生の彼女になったんですか!」

 優奈は紗里緒に対し、憤然と抗議した。その掛け合いに笑いが込み上げてくる。


「……ククク……ハハハハハ……」

 噛み殺しそこなった笑いが、思わず湧きだした。


「なによ! 失礼ね!」

 突き飛ばすように離れた紗里緒が叫ぶ。


「ゴメンゴメン……ナンパ失敗の負け惜しみだ。気にすんなよ」


「別に! イタイ女で結構ですから!」

 紗里緒は腕を組み、そっぽを向くと、


「行くわよ!」

 恥ずかしさを振り払うように、ズンズンと歩きはじめた。




 岩場は相変わらず、静かだった。

 波が岩をうがつ音だけが、寂しげに響いている。


「何よ……いないじゃない⁉」


「そりゃ、そう簡単に見つかる訳がないだろう。ここを起点にして、もう一度……」


「さっきは、どーも」


 あてもなく作戦会議を繰り返す俺たちに声を掛けたのは、さっきのナンパ男二人組だった。


「また、アンタたち……」

 紗里緒が呆れるように頭を抱える。


「人気のない所に来て、イイコトするつもりなんでしょ? 俺たちも混ぜてよ」

 ナンパ男たちは下品な笑いを隠すことなく、近づいてくる。


「するわけないでしょ!」

 捕まえるようにゆっくりと伸びた男の腕を、紗里緒は毅然と振り払った。


「またまたぁ。オニーサンもいいよなぁ? 独り占めは良くないよ……幸せはみんなで平等に分け合わないと……。嫌だってんなら、力づくでもいいんだぜ……」

 欲望と狂暴に染まる瞳が、俺を射抜く。

 相手は二人、か……。


「みんな! 俺の後ろへ!」

 我に返ったように、響と優奈が俺の背中へ集まる。二人とも、小刻みに震えている。

 警察へ連絡しろ……俺は小さく紗里緒の耳元へ囁いた。


「どうやら、力づくの方がいいみたいだなぁ?」

 男が拳を握り込む。


「まぁ、待て……待ってくれ。君たちの気持ちはわかる。俺の生まれた田舎の話なんだが……」

 時間稼ぎの身の上話が始まるより先に、男の拳が眼前に迫る。


 かわしたつもりだったが、鼻の先に熱を感じる。拭うと、鼻血で腕が赤く濡れた。


「ゴタクはいらねぇよ。次は本気でいくからな」


「待ちなさい! 警察を呼んだわ! 早く逃げた方がいいわよ!」

 考えなしの紗里緒は、スマホを高々と掲げて叫ぶ。


「バカ! 挑発するな! こいつらにはそんなの……」

 俺の懸案は、瞬く間に現実のものとなった。


「はぁっ⁉ ふざけんな! 調子に乗ってんじゃねぇぞ!」

 逆上した男は、スマホを振りかざす紗里緒めがけて掴みかかる。


「うぉおおおおお!」

 気合いを入れるため、腹の底から声を吐き出す。


 最早、時間稼ぎの余地はない。俺は男たち目掛けて駆け出すと、思いっきり体当たりした。大きく腕を広げ、もう一人の男も巻き添えに、全体重をかけて倒れ込む。


「おまえら! 早く逃げろ! とにかく! 走れ!」

 俺は叫び続ける。


 何度も殴られ、蹴られながらも、昂奮で痛みは感じない。周りも見えていない。ただただ無心で、男たちを抑え込みにかかる。


「どけやぁっ! ごらぁっ!」

 男二人の抵抗は尋常ではなく、今にも吹っ飛ばされそうだ。このまま抑え続けることはできそうにない。皆、逃げ延びただろうか……。振り向いてみたものの、背後に紗里緒の唖然とした表情を見る。その傍らに、響と優奈の姿もある。なぜ……なぜ逃げない⁉


「……アンタ……」

 引きつった声を絞り出す紗里緒の視線は俺ではなく、岩場の入口へ向けられている。


「相変わらず……騒がしいですねぇ……」


 聞き覚えのあるくぐもった甘い声……。


 咄嗟に俺は声の主を見た。逆光で、その姿は定かでない。

 しかし、大きなとんがり帽子と黒マントのシルエットが、その正体を明かしている……。


お読みいただき、ありがとうございます。

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