第44話/四章-⑥
「この……ウンコ製造機がぁぁぁぁぁあ!」
薄暗い教室に銀髪少女の怒号が響き渡る――
純文学作家を目指すも挫折し、国内でも珍しい文学科を備えた高等学校『高村学園』に就職した和久井耀は、文芸部の顧問を任される。しかし、待っていたのは通称『ラノベ窟』。ライトノベルをこよなく愛する変人の巣窟だった。
新進気鋭の女子高生プロライトノベル作家に囲まれ、『ラノベ窟』の非常識な活動に翻弄されながら、耀は至高の作品を書き上げることができるのか――!?
【登場人物】
和久井耀 高村学園常勤講師
那津川紗里緒 執筆ジャンル:王道ファンタジー
紺野響 執筆ジャンル:男性向けラブコメ
ユピテル 執筆ジャンル:MMORPG中心
卍風理 執筆ジャンル:異世界転生モノ
小早川優奈 執筆ジャンル:女性向け恋愛小説
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時が止まったかのように、場の空気が凍る。
「……えぇーっと、じゃ、他の二人は? 彼女持ちと一緒だと暇でしょ? 一緒に遊ぼうよ!」
ナンパ男はなおも笑顔を絶やさない。
「私は……許嫁です!」
優奈がもう一方の腕へ身体を寄せる。スクール水着特有のさらりとした生地が肌を撫でる。
「私は愛人です!」
今度は響が胸に飛び込んでくる。
「い、許嫁に……愛人……? そんな恋愛してても不幸なだけだよ。今日は俺たちと遊ぼうよ!」
なおも食い下がるナンパ男。その根性には尊敬の念が堪えない。
「……私は……一緒にいるだけで幸せなんです! 皆さんとは遊べません!」
目を閉じた優奈は、その肢体を小さく震わせながら言い放った。目を丸くした響が、ヒュウと短く口笛を吹いて、感嘆を吐露する。
俺はこの瞬間のために産まれてきたのかもしれない……ありがとう! 父よ! 母よ!
「えぇーっと、そうなんだ……それは……お幸せに……」
ナンパ男は固まった苦笑いのまま踵を返す。
「ありゃあ、イタイ女だ……」
去り際、ナンパ男の二人組は聞えよがしに笑い合った。
「……イタイ女だってさ」
俺は紗里緒を見た。
「あ、愛人なんて言うから!」
紗里緒は響を見る。
「スクール水着がいけないんじゃ……」
響は優奈を見た。
「いつから紗里緒さんは先生の彼女になったんですか!」
優奈は紗里緒に対し、憤然と抗議した。その掛け合いに笑いが込み上げてくる。
「……ククク……ハハハハハ……」
噛み殺しそこなった笑いが、思わず湧きだした。
「なによ! 失礼ね!」
突き飛ばすように離れた紗里緒が叫ぶ。
「ゴメンゴメン……ナンパ失敗の負け惜しみだ。気にすんなよ」
「別に! イタイ女で結構ですから!」
紗里緒は腕を組み、そっぽを向くと、
「行くわよ!」
恥ずかしさを振り払うように、ズンズンと歩きはじめた。
岩場は相変わらず、静かだった。
波が岩をうがつ音だけが、寂しげに響いている。
「何よ……いないじゃない⁉」
「そりゃ、そう簡単に見つかる訳がないだろう。ここを起点にして、もう一度……」
「さっきは、どーも」
あてもなく作戦会議を繰り返す俺たちに声を掛けたのは、さっきのナンパ男二人組だった。
「また、アンタたち……」
紗里緒が呆れるように頭を抱える。
「人気のない所に来て、イイコトするつもりなんでしょ? 俺たちも混ぜてよ」
ナンパ男たちは下品な笑いを隠すことなく、近づいてくる。
「するわけないでしょ!」
捕まえるようにゆっくりと伸びた男の腕を、紗里緒は毅然と振り払った。
「またまたぁ。オニーサンもいいよなぁ? 独り占めは良くないよ……幸せはみんなで平等に分け合わないと……。嫌だってんなら、力づくでもいいんだぜ……」
欲望と狂暴に染まる瞳が、俺を射抜く。
相手は二人、か……。
「みんな! 俺の後ろへ!」
我に返ったように、響と優奈が俺の背中へ集まる。二人とも、小刻みに震えている。
警察へ連絡しろ……俺は小さく紗里緒の耳元へ囁いた。
「どうやら、力づくの方がいいみたいだなぁ?」
男が拳を握り込む。
「まぁ、待て……待ってくれ。君たちの気持ちはわかる。俺の生まれた田舎の話なんだが……」
時間稼ぎの身の上話が始まるより先に、男の拳が眼前に迫る。
かわしたつもりだったが、鼻の先に熱を感じる。拭うと、鼻血で腕が赤く濡れた。
「ゴタクはいらねぇよ。次は本気でいくからな」
「待ちなさい! 警察を呼んだわ! 早く逃げた方がいいわよ!」
考えなしの紗里緒は、スマホを高々と掲げて叫ぶ。
「バカ! 挑発するな! こいつらにはそんなの……」
俺の懸案は、瞬く間に現実のものとなった。
「はぁっ⁉ ふざけんな! 調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
逆上した男は、スマホを振りかざす紗里緒めがけて掴みかかる。
「うぉおおおおお!」
気合いを入れるため、腹の底から声を吐き出す。
最早、時間稼ぎの余地はない。俺は男たち目掛けて駆け出すと、思いっきり体当たりした。大きく腕を広げ、もう一人の男も巻き添えに、全体重をかけて倒れ込む。
「おまえら! 早く逃げろ! とにかく! 走れ!」
俺は叫び続ける。
何度も殴られ、蹴られながらも、昂奮で痛みは感じない。周りも見えていない。ただただ無心で、男たちを抑え込みにかかる。
「どけやぁっ! ごらぁっ!」
男二人の抵抗は尋常ではなく、今にも吹っ飛ばされそうだ。このまま抑え続けることはできそうにない。皆、逃げ延びただろうか……。振り向いてみたものの、背後に紗里緒の唖然とした表情を見る。その傍らに、響と優奈の姿もある。なぜ……なぜ逃げない⁉
「……アンタ……」
引きつった声を絞り出す紗里緒の視線は俺ではなく、岩場の入口へ向けられている。
「相変わらず……騒がしいですねぇ……」
聞き覚えのあるくぐもった甘い声……。
咄嗟に俺は声の主を見た。逆光で、その姿は定かでない。
しかし、大きなとんがり帽子と黒マントのシルエットが、その正体を明かしている……。
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