第43話/四章-⑤
「この……ウンコ製造機がぁぁぁぁぁあ!」
薄暗い教室に銀髪少女の怒号が響き渡る――
純文学作家を目指すも挫折し、国内でも珍しい文学科を備えた高等学校『高村学園』に就職した和久井耀は、文芸部の顧問を任される。しかし、待っていたのは通称『ラノベ窟』。ライトノベルをこよなく愛する変人の巣窟だった。
新進気鋭の女子高生プロライトノベル作家に囲まれ、『ラノベ窟』の非常識な活動に翻弄されながら、耀は至高の作品を書き上げることができるのか――!?
【登場人物】
和久井耀 高村学園常勤講師
那津川紗里緒 執筆ジャンル:王道ファンタジー
紺野響 執筆ジャンル:男性向けラブコメ
ユピテル 執筆ジャンル:MMORPG中心
卍風理 執筆ジャンル:異世界転生モノ
小早川優奈 執筆ジャンル:女性向け恋愛小説
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「知ってるんですか⁉」
驚きが叫びを生み、集まった周囲の視線に思わず口をつぐむ。
「今朝、来たイケメンさんじゃねぇか!」
動揺し挙動不審な俺にも、相変わらずの笑顔と快活な声が応じた。
「ここへ来た……? 今はどこに……」
差し出されたラムネと交換に代金を支払いつつ、恐る恐る核心に触れる。
「さぁねぇ……」
他の客の焼きそばとおでんを手早く袋詰めしながら、兄ちゃん店員は軽く頭を振った。
「連絡先は⁉」
やっと邂逅を果たした手掛かりだ。諦めきれない……。未練がましく食い下がる。
「こっちが教えて貰いてぇよ。いい客寄せになりそうだし。それに……俺のタイプだ」
フヒヒと下品に笑う兄ちゃん……いや、兄貴店員……。
「……他に何か情報は……」
「お客さーん……後ろのお客さんが待ってるから、注文が終わったら場所を空けて、ね」
兄貴の背後から店主らしき老親父が顎をしゃくり、捌けるように促す。
「焼きそばとおでんを二人前ずつ! 持ち帰りで!」
「へへっ、毎度! 二千二百円ね」
財布から千円札を三枚取り出すと、兄貴店員に突きつける。
「釣りは要らない。どっちへ行った?」
「……そういえば、南の岩場の方へ下りて行ったなぁ……」
またしても秒速で提供される、焼きそばとおでん。
「ありがとう!」
袋詰めされた商品を受け取った俺は思わぬ収穫に足取り軽く、岩場へ向かった。
頭の直上に輝く太陽が、爛漫と正午を主張している。
あれだけ混雑していた波打ち際は今や閑散として、日陰に陣取った人々が思い思いに栄養補給に勤しんでいる。昼飯時だという事は、時計を見なくてもわかった。
結局、岩場に例の青年はいなかった。というより、人の気配すら全く無かった。切り立った崖を回り込むように佇む岩の入り江は、浜辺の喧騒すら遮られている。静かだった。あったのは、荒涼と苔生した岩の塊と、その群れを絶え間なく洗い続ける波だけだった。
「おかえりー。どうだった?」
呑気に弁当を突つきながら、紗里緒が声を上げる。
「戦利品だ」
焼きそばとおでんの入った袋を差し出す。
「頼んだのは人間なんですけど?」
「わかってるよ。手掛かりはあった」
不機嫌そうに焼きそばを物色していた紗里緒が顔を上げる。
「手掛かりって?」
「浜茶屋の店員が目撃していた。南の岩場へ行ったらしい。この付近にいる事は確かだな」
「そう……じゃ、もうすぐ見つけられるわね!」
紗里緒がひと際明るい声を上げる。
「……おいおい、俺にもバカンスさせてくれよ」
「見つけたら、ね」
鬼畜め!
「午後はみんなで行きましょうよ、ね」
水筒から注いだばかりの冷たい麦茶を差し出しながら、優奈が請う。
「人数が多いほど、見つけやすいでしょうし」
助け舟とばかりに響も賛同を示した。
「まぁ、海遊びに飽きてきちゃったのも事実……」
紗里緒が憎らしいほど贅沢な悩みを吐露する。
「……私は……パス……」
カロリー摂取メイトを、ビタミンをインするゼリーで流し込みながら、ユピテルが呟く。
「喉に詰まりそうな組み合わせだな……。ここでじっとしてて暑くないのか?」
「……心頭滅却すれば……なんとやら……」
暑いらしい……。しかし、その視線は相変わらず、タブレットの画面から微動だにしない。
「じゃ、ご飯を食べ終わったら、岩場へ行ってみましょう! ユピさんは荷物番をお願いね」
紗里緒の朗らかな提案に、ユピテルは親指を立てて応えた。
食事を終えた俺たちは、パラソルを出た。
道すがらの海水浴場は、昼食を終えたであろう遊泳客で騒がしさを取り戻しつつある。
「こっちは賑やかねー」
スキップに近いステップを踏みながら小気味よく歩く紗里緒に反し、
「私は……静かな方が好きだな」
人気にあてられたように、響が目を細める。
「ねー! オネーサン! 俺たちと泳がない?」
今時珍しい、直球ストレートなナンパの声も飛び交っている。
若いなー。その威勢の良さを羨ましく聞きながら、自らの老化を感じずにはいられない。
「ちょっと、ちょっと! 無視しないでよー」
大声に振り返ると、ナンパされていたのは紗里緒たちだった。
「ごめんなさい。先約がありますので」
ガン無視の紗里緒を横目に、響が控えめに断っている。
「そんなこと言わないで! 可愛いねー! いくつ? どこから来たの?」
矢継ぎ早の質問に、優奈が怯えた表情を見せる。声を掛けようとした、その瞬間、
「今日は彼氏と来てますから、間に合ってますぅ」
俺の腕に自らの腕を絡めて、紗里緒が言い放った。
柔らかい感触が熱とともに伝わってくる。
「ね♪ ダーリンっ♪」
俺の顔を覗き込んで輝く笑顔を放つ、コイツは誰だ⁉
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