第42話/四章-④
「この……ウンコ製造機がぁぁぁぁぁあ!」
薄暗い教室に銀髪少女の怒号が響き渡る――
純文学作家を目指すも挫折し、国内でも珍しい文学科を備えた高等学校『高村学園』に就職した和久井耀は、文芸部の顧問を任される。しかし、待っていたのは通称『ラノベ窟』。ライトノベルをこよなく愛する変人の巣窟だった。
新進気鋭の女子高生プロライトノベル作家に囲まれ、『ラノベ窟』の非常識な活動に翻弄されながら、耀は至高の作品を書き上げることができるのか――!?
【登場人物】
和久井耀 高村学園常勤講師
那津川紗里緒 執筆ジャンル:王道ファンタジー
紺野響 執筆ジャンル:男性向けラブコメ
ユピテル 執筆ジャンル:MMORPG中心
卍風理 執筆ジャンル:異世界転生モノ
小早川優奈 執筆ジャンル:女性向け恋愛小説
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突如、水着姿で現れた紗里緒は、ビタミンカラーのオレンジが映えるワンピース。
大きなリボンと、腿まで垂れ下がるカーテンのようなスカートが海風に揺られ、はためいている。
「お疲れさま、センセイ」
響は落ち着いた裏葉色のワンショルダービキニ。
白抜きの花柄が彩を添える。露わになった右肩と、動きに合わせて大胆に揺れる胸のフリルが煽情的だ。
「……ゲーム……ゲーム……」
パラソルの作りだす日陰へ飛び込んだユピテルは、紺のパレオにパーカーを羽織り、泳ぐ気を微塵も感じさせない。腰布から覗く蒼白い足が唯一、海らしさを主張している。
「お待たせしました! 先生……大丈夫ですかぁ?」
心配そうに見下ろす優奈は学校指定のスクール水着……この魅力に説明は不要!
俄然、テンションの上がった俺は、疲れを忘れて跳ね起きた。まじまじと見られる機会なんて二度と訪れないかもしれない……目に焼き付けておかねば!
「そんな……じっくり見ないでください……」
顔を真っ赤にした優奈が、桃色の肢体を隠そうと身を捩る。
ここはパラダイスか!
「じゃ、俺も着替えて……」
「その必要はないわ」
前のめりになる俺を紗里緒が制止した。
「言ったでしょ? アンタには雑用の仕事があるって」
「え?」
「人を探してきて頂戴」
紗里緒は一枚の写真を差し出す。虚を衝かれた俺は無意識に受け取ってしまった。その写真には、金髪の青年が映っている。なかなかのイケメンだ。
「誰?」
「私の師匠」
紗里緒は呆気なく言い放った。
「師匠⁉ お前に……師匠がいたのか⁉」
コイツ……弟子は取らないなんて言っておいて……。
「名前は雲雀。風来坊で、根無し草……何故だか、あちこち全国を行脚してるの。携帯も持ってないから捕まらないのよ……大切な用事があるってのに……」
忌々し気に虚空を見つめる紗里緒に、薄く溜息を吐いた俺は抗議の声を呑み込んだ。
「手掛かりはたったそれだけか……じゃ、みんなで……」
「海は私たちが満喫しておくから、安心して行きなさい! 雑用!」
吐き捨てるように言い残した紗里緒は、心配そうに見つめる響と優奈の手を取って、ズンズンと波打ち際へ消えていった。
……デジャブかな? さっき、ホテルで同じ光景を目にしたような……。
残酷な白昼夢に頭がクラクラする。
「……ドンマイ……」
早速、ゲームに励むユピテルが、ポツリと言った。コンテナからパソコンとイヤホンとコントローラー、折り畳み机に卓上ファン、愛用のぬいぐるみ型抱き枕まで取り出して、パラソルの下はさながら部室の再現だった。
人間は学習する生き物だ。あの状態の紗里緒を宗旨替えさせるなんて、空海にもガンジーにもできそうにない。こうなりゃ、さっさと探しだして戻るしかないだろう。憎らしいくらいに照りつける陽光の中、人ごみを指してトボトボと歩きはじめる。
あぁ、俺のパラダイスが遠ざかっていく。
人探しって言われてもなぁ……。
そんな物語の中でしか発生しないようなイベントは、やった試しがない。とりあえず、足で稼いでみるか。
海水浴客で満たされた海岸を、ついつい女性の水着にフォーカスする己の視線を何度も修正しながら歩き回る。海岸を三往復した所で、結論へ至る。この人ごみの中から、一人の人間を探し出すなんて不可能だ、と。結局のところ、女性の水着を窃視したに過ぎない。
指先で写真を弄び、途方に暮れる。できれば避けたかったが、聞き込みをしてみる事にした。道行く人へ写真を見せては、怪訝そうに首を横に振る姿を何度も見送る。途中、新手のナンパにも間違われた。心が折れても、成果は無い。折り損だ。そもそも、圧倒的に情報が足りない。
心と喉が渇いた俺は、目的の人物ではなく自動販売機を探すことに決めた。浜辺を離れ、コンクリート堤防の切れ目に設えられた階段を昇ると、レジャー客の車が所狭しと並んだ広い砂敷きの駐車場へ出る。鮮やかな緑を放つ松林の先に、茶屋らしき平屋が目についた。軒先には『氷』の赤字が映える旗が、呑気に揺らめいている。
「……一休みしよう」
自らに言い聞かせながら独り言を呟くと、軒の作り出す陰へ吸い寄せられた。
茶屋はまさに書き入れ時の様相を呈している。夏は海の家として生計を立てているのだろう。威勢のいい兄ちゃんが途切れることのない客を、手際よく捌いていく。店内の小上りは満席だ。溢れた客は店の隣に張られたテントの下で、無造作に並べられたベンチを埋めている。
「ラムネ、ちょうだい」
氷水を満々に張った青いアイスボックスに浮かぶ、いかにも涼し気なラムネを指して請う。
「あいよ!」
威勢の良い掛け声とともに、秒速で商品が手渡される。
独特の素早いテンポは焦りを生んだ。小銭を取り出そうと手を突っ込んだポケットから、写真がヒラリ舞い落ちる。
「あぁ! その写真の人!」
いかつい兄ちゃん店員が上げた咄嗟の一言に、俺の動きは止まった。
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