第40話/四章-②
「この……ウンコ製造機がぁぁぁぁぁあ!」
薄暗い教室に銀髪少女の怒号が響き渡る――
純文学作家を目指すも挫折し、国内でも珍しい文学科を備えた高等学校『高村学園』に就職した和久井耀は、文芸部の顧問を任される。しかし、待っていたのは通称『ラノベ窟』。ライトノベルをこよなく愛する変人の巣窟だった。
新進気鋭の女子高生プロライトノベル作家に囲まれ、『ラノベ窟』の非常識な活動に翻弄されながら、耀は至高の作品を書き上げることができるのか――!?
【登場人物】
和久井耀 高村学園常勤講師
那津川紗里緒 執筆ジャンル:王道ファンタジー
紺野響 執筆ジャンル:男性向けラブコメ
ユピテル 執筆ジャンル:MMORPG中心
卍風理 執筆ジャンル:異世界転生モノ
小早川優奈 執筆ジャンル:女性向け恋愛小説
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「……雑用……荷物運んで……」
促されるままに歩み寄った俺に、ユピテルはボソリと呟く。
「荷物?」
「そこの台車に積んである……運んで……」
講堂の壁に寄り添うように止められた台車には、折り畳み式のプラスチックコンテナが四つ積まれている。台車にもたれかかって汗を拭う優奈とともに。
「あ、先生! おはようございます!」
「なんだ? このコンテナは……?」
訝しげに問う俺に、
「これはユピさんの旅道具です。ゲームの機材だそうで」
優奈が嬉々として説明する。
「おい、海へ行くんだぞ!」
俺はユピテルの身体を揺さぶった。
「……ゲームのない生活なんて……考えられない……運んで……」
相変わらずスマホの画面から一切、視線を逸らさないユピテル。
「ブレないな……ホント……」
溜息を一つ吐いた俺は、黙々と荷物を運びこむ。
「先生……私、車に慣れていなくて酔いやすいので助手席を希望します……」
控えめな挙手とともに、優奈が弱弱しく呟く。
「あら……優奈さんはナビ使えないでしょ? スマホも持ってないから地図も見れないし。センセイ、助手席は私が適任ですよねぇ?」
既に助手席のドアへ手を掛けていた響が応じる。両者の間に火花が散った次の瞬間、
「「じゃんけん! ぽん! あいこでしょ!」」
軽快な掛け声を上げて、争奪戦が始まった。
「やったー!」
数回の掛け合いの末、歓喜の声を上げたのは響だった。
「う、う、う……」
項垂れながら後部座席へ収まる優奈。
「……こんなポンコツのどこがいいの……理解に苦しむわ……」
白けた瞳で一部始終を観察していた紗里緒が呟く。
おい、聞こえてるぞ……。
響の設定したナビが、軽快な電子音で案内をはじめる。車は一路、南を目指して走り出す。
「先生、これ……」
信号待ちのタイミングで、優奈が後部座席から銀色の包みを差し出した。
「サンドイッチです。寝坊するって聞いたから、朝ごはん食べてないかな、って……」
アルミ箔を開くと、ハムときゅうりのサンドイッチが顔を覗かせる。
「ありがとう! 胃が空だったから、助かった!」
俺は大口で頬張った。
「良かったです……お茶も飲みますか?」
「あぁ、頂くよ」
蓋をコップ代わりに、レトロな水筒からキンキンに冷えた麦茶を注ぐと、手渡してくれる。喉が渇いていた俺は、それを一気に飲み干した。
「ありがとう。……そうだ。お礼に今度、スマホをプレゼントするよ」
「ホントですか⁉ スマホがあれば、先生と連絡し放題……一緒に選んでもらえますか?」
水筒の蓋を受け取りながら優奈は、後光が差すほど輝く笑顔で応じた。
「あぁ、もちろん。今朝なんて、遅刻の連絡に困ったもんなぁ」
女子の家の固定電話へ掛けるドキドキを、久しぶりに味わった。優奈の母が電話口に出ていれば、謂れのない冷やかしを受けた事だろう。
「あれ? あれ? あれー? 他人の施しは受けない方針って聞いてたけど?」
茶化すように明るく、しかし瞳の奥は深淵の如くほの暗い響が割り込み、揶揄う。
「他人じゃなく、許嫁ですから。先生には私の一生を捧げていますので……その対価はありがたく、頂戴します……」
頬を染める優奈を視界に捉えた響は、対抗するように助手席から身を乗り出した。
「私だって、私自身を託していますから! なんなら、神社……いや、氏子衆の命運すべてを捧げてますから!」
勝手に氏子まで上乗せするなよ……。
「スマホを買ってあげるのは賛成だけど……」
紗里緒が冷ややかな声を上げる。
「それって……元をただせば私のお金よね」
「……う……」
俺と優奈の息が同時に詰まる。
「……響も、最近冷たいし……。脱稿、おめでとー、とか言われてないし。……ビンタ、痛かったし……。地べたに正座させられたし……」
「…………」
響も無言で動きが止まる。
「ユピさんだけだなー、原稿どうだった? とか聞いてくれたの……。なんか最近、蔑ろにされちゃってるのかなー、わたし……」
車内が一気に静かになる。いつもの打鍵音だけが響いている。
「……しゃ、シャルちゃん、お菓子食べる?」
「……紗里緒さん、よく冷えた麦茶……どうですか?」
「……紗里緒、車内の温度はどうだ? 暑くないか? ん?」
突然の手の平返しに、小さく溜息を吐いた紗里緒は、
「……三人とも! 合宿中はイチャイチャ禁止!」
天を仰いで叫んだ。
「「「えー」」」
「えー、じゃない! 私のシリーズ完結を崇め奉りなさい!」
「……ククク……シャルちゃん、本音が洩れてる……」
笑いを堪えきれない響は、身体を小刻みに震わせ続ける。
「だって……だってさ! ホントに頑張ったんだから! 合宿だけを楽しみに一週間、編集部の無機質な部屋で缶詰になってたんだから! もっと褒めてよ!」
不貞腐れたように駄々をこねる紗里緒と向き合った響は、柔和な微笑みを僅かに引き締める。
「はいはい……ホント、尊敬してる……。中学生の時、私の読書感想文を読んで声をかけてくれて……国際科志望だった私を無理矢理、文学科に引っ張ってくれた……。だいぶ強引だったけど……。おかげで、今、私は楽しい青春を満喫できてる。シャルちゃん。見たことのない景色をたくさん見せてくれて、ありがとね。……最終巻、楽しみにしてるよ」
「……」
自分から振ったくせに、照れ顔で押し黙ったままの紗里緒がルームミラーに映っている。
「……紗里緒さんがいなければ、私は今も悩み続けていたでしょう。書くことができて、皆さんと一緒にいられて、私、今、とっても幸せです。いつも感謝しています……」
優奈は傍らに座る紗里緒の手を取って、真剣な眼差しを向ける。
「……紗里緒……いい子……」
後部座席に寝転んでいたユピテルが、ふわりと紗里緒の頭を撫でた。
「……そうそう、それでいいのよ……。ちゃんと私を尊びなさい……」
俯いて強がりを言う紗里緒の口元は、言葉とは裏腹に緩んでいる。
「それで、新刊はいつ読めるんだ?」
感謝の念を述べ損ねた俺は、埋め合わせるように期待を込めて聞いた。
「来月、完結を祝うお披露目会があるの。みんな、来てくれる?」
「それは、楽しみだな」
嬉々として答えたつもりだったが、
「え……アンタも来るの?」
『みんな』の中に俺は含まれていなかったようだ。
「俺とお前の仲じゃないか」
懲りずに馴れ馴れしく返してみるものの、
「……呼ばない」
紗里緒にこの手の冗談が通じる筈はなかった。
「嘘、嘘! お願いします。連れて行って下さい!」
「……アンタは運転手、兼、荷物持ちね」
「俺だけ扱いがひどくないか……」
そんな紗里緒の姿は普段より弱弱しく見えた。
シリーズ刊行なんて未経験の俺には知る由もないが、完結を控え、少しナーバスになっているのかもしれない。
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