第39話/四章-①
「この……ウンコ製造機がぁぁぁぁぁあ!」
薄暗い教室に銀髪少女の怒号が響き渡る――
純文学作家を目指すも挫折し、国内でも珍しい文学科を備えた高等学校『高村学園』に就職した和久井耀は、文芸部の顧問を任される。しかし、待っていたのは通称『ラノベ窟』。ライトノベルをこよなく愛する変人の巣窟だった。
新進気鋭の女子高生プロライトノベル作家に囲まれ、『ラノベ窟』の非常識な活動に翻弄されながら、耀は至高の作品を書き上げることができるのか――!?
【登場人物】
和久井耀 高村学園常勤講師
那津川紗里緒 執筆ジャンル:王道ファンタジー
紺野響 執筆ジャンル:男性向けラブコメ
ユピテル 執筆ジャンル:MMORPG中心
卍風理 執筆ジャンル:異世界転生モノ
小早川優奈 執筆ジャンル:女性向け恋愛小説
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「合宿をしましょう! 部用車が配備された今、活用しない手はありません!」
紗里緒の暑苦しい声が響き渡る。
夏休みに入っても、ラノベ窟の活動は続いている。
「だ・か・ら、部用車じゃねぇ! 俺の車だ!」
「光熱費……」
抗議する俺に、紗里緒は静かに、しかし威圧を放ちながら呟いた。
「すみませんでした! いくらでも使って下さい!」
初任給が振り込まれたのも束の間、家賃と車のローンが引き落とされ、俺の家計は絶賛、火の車だ。優奈の持ってくる弁当で飢えを凌ぎ、足りない現金は紗里緒に頼っている有様だ。
そんな俺が、逆らえるはずもない……。
「夏です! 海です! バカンスです!」
合宿というか、ただの旅行だな。明るさを取り戻した紗里緒の、高らかな宣言は続く。
「一泊二日で宿は抑えてありまーす! 響とユピさんはOKで……優奈は大丈夫?」
「えぇ、はい。仕事も無いですし、大丈夫です」
優奈は受験に専念するという名目の元、仕事を辞め、今は定期的に部活に顔を出している。
受験勉強と並行し、紗里緒に教えを乞いながら執筆を続けているのだ。部外者の出入りは良くないだろうとの判断で、紗里緒が何処からか用意した高校の制服を身にまとい、すっかりラノベ窟に馴染んでいる。遅ればせながら、普通とは言えない青春を取り戻そうとしていた。
「というわけで、楽しみにしておいてね!」
「って、俺は⁉ 俺の予定も聞けよ!」
「アンタは運転手、兼、荷物運びなんだから、参加必至よ。別に用事もないでしょ?」
確かにその通りだが、決めつけられると悔しい。
「お盆だし、実家にでも帰ろうか、と」
「あっそ。じゃ、電車で行くから。アンタに水着みられるのも癪だったし、清々するわ」
「あー、嘘、嘘です。お願いですから、俺も参加させて下さい」
精いっぱいの天邪鬼は、いとも容易く空振った。
「子供じみた虚勢を張ってるんじゃないわよ、ったく」
「私は実家でも……」
頬を染めた優奈が右腕にしがみつく。
「私もご両親に挨拶させてもらおっかな」
今度は響が左腕を引っ張る。
「俺の両親を卒倒させる気か!」
「面白くなりそうだけど、アンタの実家は次の機会ね。雑用にはちゃんと仕事を用意してるから……」
嫌な予感しかしない。
「詳しくはまた、説明するわ。ちゃんと車の整備と掃除をしておくのよ!」
吐き捨てるように言うと、
「私、来週は追い込みだから、編集部に詰めるわ。週末には必ず、帰ってくるから。土曜日の朝八時、正門で待ち合わせしましょう」
紗里緒は再びパソコンへ向き合った。キーボードを弾く音から気合いが漲っている。
「今の連載がクライマックスなの。あとは最終チェックだけ。正念場ね」
響がそっと小声で教えてくれる。
「これが……プロ作家……なんだな……」
その日は、紗里緒の気迫に圧倒されるように、各自黙々と作業を進めるのみだった。
翌週、土曜日。朝、八時半。
行楽日和の晴れ渡った蒼い空を眺める余裕は俺には無い。
「遅いじゃない!」
到着するや否や、挨拶する間もなく紗里緒の叱責が飛んでくる。
「悪い悪い……昨日、呑み過ぎてな」
長い休暇は人を堕落させる。
既知の友と会い、ついつい酒が進み、気がついたら帰って眠っていた。三十分の遅刻で済んだのは僥倖と言っていい。
「呑み過ぎた……ですって……」
今にも縊り殺さんばかりに眉根を寄せる紗里緒から、
「だから、悪かったって。酒は憂さを払うっていうだろ?」
拳が届く射程範囲の外に陣取った俺は、平謝りを繰り返す。
「憂さだぁ? アンタのどこに憂さが発生する要素があるのよ!」
「あるわ!」
主にお前絡みで、な……。
「お酒呑む暇があるなら、書きなさいよ! アンタにとって酒は百害あって一利なし! よ!」
「でも、酒を呑むとインスピレーションが閃いたりするんだぜ。酒豪の作家も多いだろ?」
真夏の日差しも凍らせるほどの冷たい瞳で睨み続ける紗里緒に、
「それは飲酒して素晴らしい小説が書けてから言ってくれるかしら」
俺の戯言は秒殺された。
「……ごもっとも……」
「そもそも、アンタ、ちょっと弛んでるわよ! ちょーっと部に貢献したからって……」
「まぁまぁ、シャルちゃん」
長くなりそうなお説教を割って、響が取り成す。
「天気もいいし、早く出発しましょ? それに……」
響は講堂へ視線を移す。
正確には、講堂の廂が作る陰に寝転んでスマホゲームに興じるユピテルを見た。
相変わらず自由奔放な行動を貫く彼女は、俺に気づくと小さく手招きした。
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