第38話/三章-⑬
「この……ウンコ製造機がぁぁぁぁぁあ!」
薄暗い教室に銀髪少女の怒号が響き渡る――
純文学作家を目指すも挫折し、国内でも珍しい文学科を備えた高等学校『高村学園』に就職した和久井耀は、文芸部の顧問を任される。しかし、待っていたのは通称『ラノベ窟』。ライトノベルをこよなく愛する変人の巣窟だった。
新進気鋭の女子高生プロライトノベル作家に囲まれ、『ラノベ窟』の非常識な活動に翻弄されながら、耀は至高の作品を書き上げることができるのか――!?
【登場人物】
和久井耀 高村学園常勤講師
那津川紗里緒 執筆ジャンル:王道ファンタジー
紺野響 執筆ジャンル:男性向けラブコメ
ユピテル 執筆ジャンル:MMORPG中心
卍風理 執筆ジャンル:異世界転生モノ
小早川優奈 執筆ジャンル:女性向け恋愛小説
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「ご苦労さま……確かに、勧誘しろとは言ったわよ……でもね……」
翌日の放課後、部室へ出頭し、事の成り行きを報告する。
誤解を受けそうな一部の内容……主に、許嫁絡みの顛末については誤魔化そうと試みたが、既に優奈から紗里緒へ連絡があったらしい。
観念した俺は、全てを洗いざらい白状した。
「許嫁になれなんて、言ってないわよ!」
「許嫁(仮)、だ!」
不機嫌なオーラを放ち続ける紗里緒の怒鳴り声に対し、俺は猛然と抗議した。
「そんなのどっちでもいい! あー、やだやだ。やっぱり性的に接触してきちゃって……」
「話を聞いてたか⁉ 優奈の母にされるがままで……なぁ、響なら分かってくれるだろう?」
縋るように助けを求めたものの、腕を組んでそっぽを向いた響は押し黙ったままだった。
「……響……さん?」
恐る恐る呼び掛けるが、
「……私をのけ者にして、他の女の子に唾をつけに行った訳ですね。しかも、許嫁なんて……」
返ってきたのは空気をピリピリと震わせる威圧的なオーラだった。
「だから、許嫁(仮)だって……」
「黙りなさい! センセイ! そこに正座!」
響の指し示すがまま、肩をすくめて素直に床へ正座する。
「許嫁ってのは、優奈の母の冗談で……俺は紗里緒の依頼を成し遂げようと……」
「やり方ってもんがあるでしょうが⁉」
狂気に満ちた叫びで、激昂する響。今は何を言っても火に油、だ……。
「ホントだよねー、響……」
「シャルちゃんは黙ってて! そもそも、シャルちゃんのせいでしょ! そこに座りなさい!」
軽薄に賛同を示した紗里緒を一喝し、並んで正座させると、
「……謝って……」
光彩を失った漆黒の瞳が、突き破らんばかりに俺を射抜く。
「……謝りなさいよ!」
「ごめんなさい!」
反射的に、土下座してしまった。何故、俺がこんな目に……
「許さない……」
しかも、許してくれんのかい!
「待ってください!」
勢いよく開かれた扉から駆けこんできたのは、見知った制服を着た少女だった。
「優奈……ちゃん……?」
俺を庇うように立ち塞がった優奈は、力強く、一つ頷いた。
「遅くなって、ごめんなさい。先生の事、見張っとかないと盗られちゃうよって、お母さんが脅すから……居ても立ってもいられなくなって……私……」
「ほぅ……あなたが噂の小早川優奈……。自ら死地に飛び込みますか……」
鷹揚に告げる響は、獲物を捉えた狩人の目をしている。
「あなたが響さん……ですね? 和久井先生は私の許嫁です! 絶対に渡しません!」
両者の視線は雷光を放つが如く強烈に交錯する。しかし、睨み合いは長くは続かなかった。
「……はぁ……ま、中学生相手に本気は出せないね……」
突如、頭を振った響は気の抜けた息を吐いた。
「余裕、ですか……?」
「決めるのはセンセイだから……。あまり困らせてもいけないでしょ?」
唖然としつつも未だ構えを解かない優奈から視線を逸らして、響は静かに呟く。
「大人……なんですね。勉強になります。また一つ小説のネタができました」
「ちゃっかりしてるよ、まったく……って、小説の、ネタ……?」
言葉の意味に気づいた響の揺れる声に、固い意志が煌めく瞳で応じた優奈は頷き、
「私……書きたいんです……今度こそ、作品を完成させたい……私の世界を、皆さんに読んでもらいたいんです! お願いします! この部へ入れてください!」
不退転の決意を高らかに謳い上げると、深く頭を下げた。
「……それに、私、許嫁、なので……」
顔を上げた優奈は、頬を淡く染めて俺を見た。その初々しい仕草に、思わずドキリとする。
「わかりました……その根性、気に入りました! 入部を許可します!」
「ありがとうございます!」
俺たちに一ミリの相談もなく、話は滞りなく進んでいく。
「負けませんよ!」
「こちらこそ!」
固く握手を交わす二人。
「あのー……そろそろ……」
おずおずと紗里緒が割って入る。俺も紗里緒も、未だ床へ正座されられたままだった。
「お二人は今日一日、その格好で反省してください。さ、優奈さん、こちらへ」
「ありがとうございます! 響さん」
風理の席に優奈を座らせた響は俺たちを置き去りにして、部のルールを説明し始める。
顔を見合わせた俺と紗里緒は、苦笑いで小さく溜息を吐いた。
こうして、小早川優奈はラノベ窟の廃人へ名を連ねる事となった。
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