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ラノベ窟のヘヴィーな廃人  作者: 広江宇一
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第36話/三章-⑪

「この……ウンコ製造機がぁぁぁぁぁあ!」

薄暗い教室に銀髪少女の怒号が響き渡る――


純文学作家を目指すも挫折し、国内でも珍しい文学科を備えた高等学校『高村学園』に就職した和久井耀は、文芸部の顧問を任される。しかし、待っていたのは通称『ラノベ窟』。ライトノベルをこよなく愛する変人の巣窟だった。


新進気鋭の女子高生プロライトノベル作家に囲まれ、『ラノベ窟』の非常識な活動に翻弄されながら、耀は至高の作品を書き上げることができるのか――!?


【登場人物】

和久井耀わくいよう     高村学園常勤講師

那津川紗里緒なつかわしゃりお  執筆ジャンル:王道ファンタジー

紺野響こんのひびく     執筆ジャンル:男性向けラブコメ

ユピテル      執筆ジャンル:MMORPG中心

卍風理まんじふうり     執筆ジャンル:異世界転生モノ

小早川優奈こばやかわゆうな  執筆ジャンル:女性向け恋愛小説


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


☆毎日、朝11時に定期更新☆


↓完結済みの過去作品もどうぞ↓

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『JK空海、吉備路を駆ける』

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 食事が終わり、片付けが済むと優奈の母はかなたを風呂へと追いやった。

 片付いた食卓の上にコーヒーが供され、三人で卓を囲い座る。


「さて……」

 最初に切り出したのは優奈の母だった。


「優奈、高校へ行きなさい」

 直接的な物言いだった。


「……でも……」

 返ってきたのは、歯切れの悪い返事。


「今日でわかったろう? 和久井先生は頼りになる。きっと優奈にとって、いい経験になるよ」

 優奈の母は優しく微笑む。


「……でも……お金が……」


「それは大丈夫だって、いつも言ってるでしょ? なんで、高校に行きたくないの?」


「……それは……」

 優奈が目を逸らす。昨日と同じ反応だ。


「……高校へ行きたくない理由は、目を背けたいから、かな?」

 割り込んだ俺の言葉に、優奈は目を見開いた。


「……それは……どういう……」

 明らかに動揺が走る。


「俺にも経験がある。書けないと……辛いよな」

 俺なりに導き出した結論を、目の前の少女へぶつける。


 優奈は書くことから逃げようとしている。それは決して悪い事ではない。しかし、人生の岐路においては、書けない事を言い訳にするべきではない。絶対に後悔する。


「……でも……それは……」

 声にならない声は、優奈の心の中でも整理されていない事を物語っている。


「進学してから悩んでもいいんだ。あそこには優奈ちゃんと同じ悩みを抱えてる奴らがいる。決して君を追い詰めたりしないよ……」


「ダメなんです! もう……私には書けないんです! わかってるんです!」

 俺の言葉を遮るように、優奈は立ち上がって叫んだ。


「何故、そんな事が断言できるんだい?」


「……それは……」

 目を逸らす。


 どうやら核心に至ったらしい。心の中で気合いを入れ直す。


「理由があるんだね?」


「……私……」

 ゆっくりと何度も首を横に振った優奈は俯いて、目を閉じ、


「……言えません……」

 たった一言、絞り出すように呟いた。


 未完の作品……使われなくなったスマホ……目を逸らす優奈……そして、シンデレラ……

 俺の中には、ある確信があった。しかし、どう解決していいものか、それだけは未だに何の手掛かりもない。そもそも優奈の心の内を暴く権利なんてない。俺の手には負えない。


しかし……


「……王子様を待っているのか?」


 目の前で今も小さく震えている少女を、放っておくことはできない。

 俺の言葉に、優奈は顔を上げた。


「……なぜ……それを……」

 その瞳は、驚きと憂いに満ちている。


構想プロットがあって、文才もあるのに、なぜ書けないのか……疑問だった。でも、シンデレラを好きだと聞いて、腑に落ちた。君の作品には恋愛の駆け引きが書かれていない。……君は、恋をした事がないんだね?」


 悲し気に目を伏せた優奈は、小さくコクリと頷いた。


 シンデレラシンドローム……いわゆる、『お姫様願望』。

 ある日、白馬に乗った王子様が突然現れ、自分の全てを変えてくれると妄信してしまう欲求。誰だって大なり小なり持っている心理反応。しかし、意志が強く、もともと恋愛に奥手だった優奈は、空想の王子様に依存しつつある自らの心理状態に抗うため、就職に拘っていたのだろう。だから優奈は仕事を『救い』なんて言ったのだ……。王子様なんていない、妄想に囚われちゃいけない、そんな強く純粋な意思が彼女の視野を歪め、執筆にも恋愛にも舵を切ることを許さなかった。


「恋愛小説が書きたいのに……それしか書けないのに……人を好きになれない……恋愛感情が分からないんです……」

 優奈の閉じた瞳から、一筋の涙が零れる。


「……そんな作家は結構、いる。皆が皆、ノンフィクションじゃない。他愛のない妄想やあり得ない空想を物語にしてもいいんだ」


 優奈はゆっくりと頭を振る。


「人を好きになった事もないのに、恋愛小説を書こうなんて考えがそもそも無謀なんです。これ以上書いても嘘になる。物語が死んでしまう……」

 思ったより重症だ。


 書けない心が恋愛を敬遠する。ますます書けなくなる。これじゃ、負の連鎖だ。優奈の美点である意思の強さが、悪い方向に作用してしまっている。どうすれば……


「それなら、解決じゃん!」


 押し黙って成り行きを眺めていた優奈の母が、快活に声を上げた。


お読みいただき、ありがとうございます。

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