第35話/三章-⑩
「この……ウンコ製造機がぁぁぁぁぁあ!」
薄暗い教室に銀髪少女の怒号が響き渡る――
純文学作家を目指すも挫折し、国内でも珍しい文学科を備えた高等学校『高村学園』に就職した和久井耀は、文芸部の顧問を任される。しかし、待っていたのは通称『ラノベ窟』。ライトノベルをこよなく愛する変人の巣窟だった。
新進気鋭の女子高生プロライトノベル作家に囲まれ、『ラノベ窟』の非常識な活動に翻弄されながら、耀は至高の作品を書き上げることができるのか――!?
【登場人物】
和久井耀 高村学園常勤講師
那津川紗里緒 執筆ジャンル:王道ファンタジー
紺野響 執筆ジャンル:男性向けラブコメ
ユピテル 執筆ジャンル:MMORPG中心
卍風理 執筆ジャンル:異世界転生モノ
小早川優奈 執筆ジャンル:女性向け恋愛小説
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「……先生はなんでそんなに優奈の事を気に掛けてくれるの?」
深い逡巡を続けていた俺は、不意の質問に我に返る。
「それは……放っておけないからです……教師として……」
紗里緒から小説のアドバイスを貰う交換条件とは、口が裂けても言えない。
「ふーん。そっか、そっか。先生は優奈に進学してほしいんだよね?」
「まぁ、そうですが……」
うんうんと笑顔で頷く優奈の母。
なんだろう……急に雰囲気が変わった気が……
「先生、ご結婚は?」
「……独身ですが、それが、何か……」
突然の踏み込んだ質問に、思わずドキリとする。
「いやいや、深い意味じゃなくてね。ご飯食べていかないかなー、って。あ、彼女さんが家で待ってるとか?」
「いえ、そんな事は……ないですが……」
「じゃ、決まりだ! 腕によりをかけて作るそー!」
強引な人だ。しかし、どこか憎めない。
「……私が全部なんとかしてあげるよ……」
缶ビール片手に立ち上がった優奈の母は小さく呟く。
「……それって、どういう……」
「ただいまー」
質問を断ち切るように、玄関から聞き覚えのある声が響く。
「……って、和久井先生! 何故、ここに……」
「おかえり……高校の資料をね、持ってきたんだ」
目を見開いたまま立ち尽くしている優奈へ、プリントを掲げて言い訳する。
「そ、そうだったんですね。わざわざ、ありがとうございます。でも私、高校は……」
「その話はあと! 優奈、晩御飯の用意を手伝って! 先生も食べていくから!」
辛気臭い空気を有耶無耶にするように、台所から優奈の母の快活な声が響く。
「え……先生も⁉」
「あー、なんだかそんな流れに……。悪いね」
「いいえ! 腕によりをかけて作ります!」
腕まくりをはじめた優奈は、母と同じ口調で台所へと消えていった。
「……」
隣の部屋から頭だけを出しているかなたが、こちらの様子を覗っている。
「宿題は終わったの?」
うんうんと無言で頷く。
「じゃ、遊んで待ってよっか?」
待ってましたと言わんばかりに、笑顔が輝く。
しりとりや三目並べ、いわゆる〇×ゲームに興じて、晩御飯ができるまでの時間を過ごした。
小学生とは思えない語彙力で、しりとりは二回負けた。
聞けば、かなたの愛読書は国語辞典だという。しりとりの全国大会があれば、代表を狙える逸材だ。続いての〇×ゲームで必勝法を駆使して星を取り戻したものの、大人げない俺と負けても爽やかなかなたとの人間性の差が浮き彫りになっただけだった。試合に勝って勝負に負けた俺は、改めて、この家族の強かさと、自らの器の小ささを思い知った。
「できましたー!」
優奈が大皿を手に姿を現す。
制服にエプロンという新妻スタイルが、食欲とは別の欲を刺激する。と、バカなことを考えている間にも、目の前には白米とみそ汁と箸が並び、着々と食事の準備が整っていく。
「いただきまーす」
食事の開始を唱和すると、各々が思いのままに箸を振るう。
メニューはもやし多めの野菜炒めと餃子が、それぞれ大皿に盛られている。久しぶりに大人数で食卓を囲む光景は、実家へ帰省した錯覚を呼び起こす。小早川家の気兼ねなさがそうさせるのだろう。
「うん! 美味い!」
最近はコンビニかスーパーの総菜ばかりだった。家庭の味が五臓六腑に染み渡る。
「たくさん食べて下さいね! おかわりもありますから」
言われるまでもなく、箸が止まらない。
「この餃子は……」
形は個性豊かだが、美味い。野菜多めで、優しい味付けが滋味深い。
「私の手作りです。この間、作り過ぎたので冷凍していたんですが……」
「これ、優奈ちゃんが作ったの⁉」
「ええ、まぁ……」
照れてはにかむ優奈の様子が料理の味と相まって、胸を熱くする。
「先生、どうよ? 結婚したくなった?」
優奈の母に不意を衝かれ、みそ汁を取り落としそうになる。
「け、結婚って⁉ そりゃ、お嫁さんとしては理想的、だと思いますが……」
不意打ちの質問に、思わず本音が零れる。
「あたしは優奈と結婚とは言ってないけど?」
とぼける酔っ払いをひと睨みして、恐る恐る優奈の顔色を窺うと、耳まで真っ赤にして俯いている。何か気の利いた言葉を探したが、茶化せるような雰囲気ではなかった。
「美味しい。ホントに美味しいよ、ウン……」
そんな毒にも薬にもならないような言葉を洩らすだけで精いっぱいだった。
優奈は無言を貫いている。
そんな俺たちの様子を酒のアテにして、優奈の母は終始ニヤニヤと笑っていた。
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