第34話/三章-⑨
「この……ウンコ製造機がぁぁぁぁぁあ!」
薄暗い教室に銀髪少女の怒号が響き渡る――
純文学作家を目指すも挫折し、国内でも珍しい文学科を備えた高等学校『高村学園』に就職した和久井耀は、文芸部の顧問を任される。しかし、待っていたのは通称『ラノベ窟』。ライトノベルをこよなく愛する変人の巣窟だった。
新進気鋭の女子高生プロライトノベル作家に囲まれ、『ラノベ窟』の非常識な活動に翻弄されながら、耀は至高の作品を書き上げることができるのか――!?
【登場人物】
和久井耀 高村学園常勤講師
那津川紗里緒 執筆ジャンル:王道ファンタジー
紺野響 執筆ジャンル:男性向けラブコメ
ユピテル 執筆ジャンル:MMORPG中心
卍風理 執筆ジャンル:異世界転生モノ
小早川優奈 執筆ジャンル:女性向け恋愛小説
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「ただいまー!」
快活な声とともに扉を開ける優奈の母に続いて、
「……お邪魔します」
恐る恐る家へ上がり込む。
家の中は物で満ちている。かといって、散らかっているわけではない。掃除も行き届いている。どちらかというと、住みはじめて間もない俺の部屋の方が乱雑で汚い。単純に、親子三人で暮らすには狭いのだろう。リビングは子供の生活用具で埋まっている。
「あ、さっきの先生!」
見知った顔の弟が声を上げて、駆け寄ってくる。
「さっきはありがとう。ちゃんと留守番できて偉いね」
頭を軽く撫でると、照れたようにはにかんだ。
「かなた、先生と大切な話があるから、寝室に行っといて」
弟は『かなた』というらしい。はーい、と朗らかに声を上げると、宿題であろうプリントとノートの一式を抱えて隣室へと入っていき、
「ゆっくりしていって下さいね」
大人びた言葉とともに姿を消した。
「よくできたお子さんですね」
社交辞令ではなく、本心からそう思った。
「うん、まぁね。私に似ず素直に育ってくれて……、助かるよ」
下手に謙遜しない姿に、好感を抱く。微笑んで見守る母は優奈と同じ柔和な瞳をしている。
「まぁ、どうぞ」
かなたが使っていた折り畳み式の机の奥側へ促されるままに座った。
「コーヒーでいい? ビールもあるけど」
「……車なので」
ケトルを使って手早く淹れたコーヒーが供される。優奈の母は本当に缶ビールを持ってきて、片手でタブを上げ開栓すると、おもむろに呑みはじめた。
「ぷはぁ……沁みる……で、今日は何の用かな? うちの優奈が何か……」
「いえいえ。問題があるわけではありません。進路についてお伺いしたくて……」
用意してきた資料を鞄から取り出す。
「優奈さんの友人が私の教え子でして、進路を心配しています。余計なお世話だとは思ったのですが、参考になればと資料を持ってきました」
高村学園の学校案内と、奨学金制度のパンフレット。それに、個人的に印刷した公的補助についての資料を並べる。
「友人って……紗里緒ちゃん?」
「そうです。ご存じですか?」
「あの子、学校の友達いないから、いっつも紗里緒ちゃんの話ばっかしててさー。昨日も会ったらしいね……って、あ! その時の先生って……」
「たぶん、私です」
「あぁー、そっか、ふーん、へぇー……」
品定めするような視線を感じる。何を話したんだ、優奈……
「先生はうちの子をどう思う?」
「あれだけ素直で礼儀正しい子に育つのは、親御さんの愛情の賜物ですよ。ご立派なもんです」
リップサービスのつもりはない。素直な気持ちだった。
「え、そう、かな。ありがと……」
はにかんで俯く仕草は優奈とよく似ている。
「高校進学を躊躇っているとお聞きしましたが……」
「そうなのよ。私は高校行ってほしいんだけど、優奈は就職したいの一点張りでね。あの子、妙なところで頑固だから。お金の心配なんてないって、何度も言ってるのに」
やはり、お金以外の理由がある。
「……大変申し上げにくいのですが、中学でいじめられていて、学校が嫌い、とか……」
「それはないね」
一番可能性が高いと思っていた懸案を、優奈の母はいとも容易く却下した。
「優奈は友達少ないけど、私はママ友多いのよ。そんな話は全然聞かない。皆勤賞だし、成績も悪くない。学校嫌いってわけじゃないと思うんだよね。やっぱり、仕事してるから周りから浮いちゃってるのかなー。私の仕事も今は順調だし、もう辞めなさいって言ってるんだけど、本人が続けたいって聞かないのよね」
本当にウンザリしているように、溜息を吐く。
優奈の母が嘘を吐いている様子はない。原因の探求は振出しに戻った。いや、振出しよりも後ろへ戻ったかもしれない。
「では、なんで高校進学をかたくなに拒んでいるんでしょうか。心当たりはないですか?」
「うーん……」
腕を組んで頭を揺らす優奈の母は、否の意を示す唸り声を上げる。
「最近変わった事とか……」
「んん……あ、そういえば、最近はスマホ貸してって言わないなぁ」
「スマホ、ですか?」
「私のスマホなんだけどね。あの子、絶対にスマホなんて要らないって言うくせに、貸すと寝るまでずっとスマホにご執心で、中毒かと思う程だったけど。半年くらい前からかな? ここ最近はとんと触ってないねぇ」
半年前……ちょうど小説の投稿が途切れた辺りか……
「この部屋にパソコンは無いんですね?」
「仕事でも使わないし、スマホがあれば充分かなぁって思ってね」
となると、作品の投稿には母のスマホを使っていたのだろう。
「優奈さんが、その……小説を書かれていることはご存じですか?」
「知ってるよ。スマホに履歴が残るし。でも、ちゃんと読んだことはないなぁ。私、頭悪いから、文字読んでるとスグに眠くなっちゃうんだよねぇ」
タハハとバツが悪そうに笑う優奈の母。
「あの子は小さな頃から、図書館へ行っては本ばかり読んでたねぇ……うちは娯楽も少ないし。ほら、ゲームも漫画もないじゃない? 家に帰ってきてからも、ぼーっと何か考えてるかと思ったら、憑りつかれたようにノートへいっぱい、詩とか物語を書いてたね」
優奈らしいエピソードだと思った。
書くことは彼女の人生そのものだ。今更、やめることなどできるはずがない。しかし、行き詰っているのも事実。逃げているのか……目の前の現実から。遠ざけているのか……書くことを。確かに、優奈の家族を想う気持ちは本物だろう。しかし、母の話を聞いた今となっては、尤もらしい言い訳としか受け入れられない。
「特に、シンデレラが好きでねぇ……何度も繰り返し借りるから、買ってあげたらすごく喜んだのを覚えてる。あの頃の優奈……可愛かったなぁ……って、今も可愛いんだけどね!」
「シンデレラ……」
その単語が脳裏に引っ掛かった。
確かに、優奈の小説は童話の要素を排しているものの、シンデレラのストーリーをなぞっているように感じられる。不幸な少女と、王子様。そして……
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