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ラノベ窟のヘヴィーな廃人  作者: 広江宇一
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第32話/三章-⑦

「この……ウンコ製造機がぁぁぁぁぁあ!」

薄暗い教室に銀髪少女の怒号が響き渡る――


純文学作家を目指すも挫折し、国内でも珍しい文学科を備えた高等学校『高村学園』に就職した和久井耀は、文芸部の顧問を任される。しかし、待っていたのは通称『ラノベ窟』。ライトノベルをこよなく愛する変人の巣窟だった。


新進気鋭の女子高生プロライトノベル作家に囲まれ、『ラノベ窟』の非常識な活動に翻弄されながら、耀は至高の作品を書き上げることができるのか――!?


【登場人物】

和久井耀わくいよう     高村学園常勤講師

那津川紗里緒なつかわしゃりお  執筆ジャンル:王道ファンタジー

紺野響こんのひびく     執筆ジャンル:男性向けラブコメ

ユピテル      執筆ジャンル:MMORPG中心

卍風理まんじふうり     執筆ジャンル:異世界転生モノ

小早川優奈こばやかわゆうな  執筆ジャンル:女性向け恋愛小説


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


☆毎日、朝11時に定期更新☆


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『JK空海、吉備路を駆ける』

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「ちょっ! 待っ……」

 優奈を引き留めようとする紗里緒を、手で制する。


「家まで送るよ」


「……そんな……すぐ近くですから、大丈夫ですよ」

 やはり目を逸らす。


「そっか。またお話できるかな?」


「……えぇ、いつでも……では、失礼します」

 ペコリと可愛くお辞儀すると、駆け去っていく。


 今にも噛みつきそうな表情で睨んでいる紗里緒に小声で聞いた。


「……優奈ちゃんの家、どこか知ってるか?」


「……知らない、けど」


「尾けるぞ!」

 少女の姿が見えなくなったのを確認して、俺は駆け出す。


「ちょっ!」

 慌ててついてくる紗里緒が、


「尾けるって、なんで⁉」

 声を落として叫んだ。


「あとで説明する!」

 短く言うと、速度を上げる。見失っては意味がない。


 角をいくつか曲がると、優奈のスカートに施されたタータンチェックがちらついた。向こうも早足で移動している。一刻も早く俺たちから離れたいらしい。見失わないよう細心の注意が必要だ。肝に銘じると、角々の電柱に身を隠しながら移動する。ものの一分ほどの尾行で、アパートの外階段を伝って二階に姿を消す優奈の姿を捉える。家が近いというのは本当だったようだ。しばらく物陰からアパートの外観を観察するが、動きはない。俺は黙って踵を返す。


「……説明しなさいよ」

 後ろをついてくる紗里緒が息を切らせながら、小さく抗議の声を上げる。


「あの子は嘘を吐いている」


「……嘘?」


「たぶん、な。今日、俺たちは問題の核心に触れる事さえできなかった」


「優奈が嘘なんて……」

 悪意は、無いのだろう。


「俺たちを騙すというよりは、自らを誤魔化すための嘘だな、きっと」


「なんでそんな事がわかるのよ」


「あの子に入れ込んでるお前は気づかないかもしれないが、客観的に見れば違和感がある。辻褄が合っていないんだ」


「辻褄?」


「あれだけ素直でいい子なんだ。親もしっかりしていて、愛情を注いで育てているに違いない。そんな親が娘の高校入学を、傍観するはずはない。好きにしていいなんて言うはずがないんだ」


「……あ……」

 紗里緒も気付いたように口に手を当てる。


「それに、お金の問題を強調してはいたが、高校は無償化されている。所得が少ないほど、公的補助が手厚い。すぐに就職して、母親を助けたいというのは理に適っているように聞こえるが、あの子には弟がいる。優奈ちゃんが進学しなければ、弟にも同じ悩みを背負わせることになるだろう。当事者の彼女がそれを分かっていないはずはない」


 優奈が親と折り合いが悪く、家出を繰り返しているなんてことがあれば家庭環境に起因する問題とも考えられる。しかし、家族の事を話す彼女は優しい目をしていた。愛情に包まれた家庭であることを疑う余地はないだろう。


「進学を拒む原因がきっと他にあるはずだ。本当の理由が」


「でも、優奈が話さないんだから、どうしようもないじゃない……」


「聞くしかないな」


「でも、本心を打ち明けるかしら……?」


「だから、本人にじゃない」


「え?」


「母親に、だ」

 紗里緒は目を丸くする。


「明日、優奈ちゃんの母親に会ってみるよ」




 翌日、月曜日の放課後。

 定例の職員会議を体調不良と偽って抜け出した俺は、車で優奈のアパートへ向かった。どうせ毒にも薬にもならない教頭のウンチク話だろうし、いいだろう。公園の駐車場へ車を停めると、後部座席へ移りスーツに着替える。コンタクトを外し、眼鏡にした。少しでも真面目に見えるよう悪足掻きを済ませておく。


 紗里緒もついてくると言い張ったが、断固拒否した。優奈が嘘を吐いてまで隠したい事だ。聞かれたくない話もあるだろう。ついてくるのなら、これ以上協力はしないと言い放つと、暴れていた紗里緒も多少、大人しくなった。


 日暮れにはまだ早い住宅街。道行く人の姿は皆無。目的のアパートの外階段は手すりに赤錆が目立つ。築三十年以上は経っているだろう。豊かな経済状況でない事は事実のようだ。


 四軒並びの一番手前に『小早川』と手書きの表札が取り付けられている。シングルマザーなのだから親と子で苗字が違う可能性もある。だが、ココで間違いないだろう。間違っていたとしても、謝れば済むことだ。


 自らをなだめるように言い訳しつつ、震える指で呼び鈴を押す。


お読みいただき、ありがとうございます。

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