第30話/三章-⑤
「この……ウンコ製造機がぁぁぁぁぁあ!」
薄暗い教室に銀髪少女の怒号が響き渡る――
純文学作家を目指すも挫折し、国内でも珍しい文学科を備えた高等学校『高村学園』に就職した和久井耀は、文芸部の顧問を任される。しかし、待っていたのは通称『ラノベ窟』。ライトノベルをこよなく愛する変人の巣窟だった。
新進気鋭の女子高生プロライトノベル作家に囲まれ、『ラノベ窟』の非常識な活動に翻弄されながら、耀は至高の作品を書き上げることができるのか――!?
【登場人物】
和久井耀 高村学園常勤講師
那津川紗里緒 執筆ジャンル:王道ファンタジー
紺野響 執筆ジャンル:男性向けラブコメ
ユピテル 執筆ジャンル:MMORPG中心
卍風理 執筆ジャンル:異世界転生モノ
小早川優奈 執筆ジャンル:女性向け恋愛小説
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「じゃ、行きましょう」
紗里緒は優奈の手を引き促すように、後部座席へ乗りこむ。俺は運転席に腰を下ろした。
「え、でも、こんな綺麗な車……」
ドアの前で優奈は立ち止まり、躊躇する。
「気にしないで。さぁ、どうぞ」
少しでも打ち解けられるよう、努めて優しい声音を心掛ける。
「……えっと……お邪魔します」
そう言うと、優奈は靴を脱ぎはじめた。
「いやいやいや、土足でいいんだよ?」
「えっ……でも……」
固まる優奈を見て俺は思った。どんだけいい子なんだよ、と。
「初日から硫黄臭まみれにしてくれた、どっかの誰かさん達とは出来が違うなぁ」
露骨な嫌味に、さすがの紗里緒もバツが悪そうだ。
「いいのよ、優奈。掃除も碌にできてない車だから。所有者の雑な性格が出てるのね」
報復かのように、あからさまな皮肉が秒で返される。
「昨日も引っ張り回されたのに、掃除なんてできるか!」
「綺麗好きなら、帰ってからスグに掃除するでしょ!」
「日も暮れて、疲れ切ってるのに無理だろ!」
「部用車の管理はアンタの仕事でしょ!」
「部用車じゃねぇ! 俺の車だ!」
「昼まで寝てたくせに!」
「それは関係ないだろ!」
「……フ……フフフ……」
罵倒の応酬を唖然と眺めていた優奈は、突然笑い出し、
「……ごめんなさい……こんな激しい紗里緒さん、初めて見たから……」
俺たちの視線をかわすように俯いた。
「なんだか、微笑ましくて……」
堪え続ける笑いは、なかなか治まらない。
一方の紗里緒は耳まで真っ赤に染めている。初めて優奈に曝け出した自らの本性を恥じているようだ。
「……ま、まぁ、確かに、いつもの私はお淑やかなキャラだから……」
「お淑やかぁ? お前が? 嘘だろ……」
運転席の背もたれに蹴りが撃ち込まれる。
その衝撃はお淑やかから一番遠い威力だった。これ以上、余計なことを言うなという脅しに混じって、照れ隠しが多分に含まれている。
「ま、まぁ、優奈の好きなように乗ればいいのよ」
「……じゃ、こうさせてもらいますね」
そう言って優奈は鞄から取り出したレジ袋に靴を仕舞うと、靴下で車内へ入り、流れるような所作で腰を下ろしてシートベルトを締める。突っ立ったままの紗里緒とはえらい違いだ。
「おい、お淑やか。真似してみろよ」
猛烈な反撃が背もたれを襲う。
ヤバい……これ以上の衝撃は内装が耐えられそうにない。
「……じゃ、行こうか。優奈ちゃんはお昼ご飯食べたのかな? ファミレスでも行く?」
「ゆ、ゆゆゆゆ、優奈ちゃん⁉」
引き攣った声で自らの名前を繰り返す優奈。赤面して口を抑えている姿が室内鏡に映る。
「あれ? ダメだった? 小早川さんの方がいい?」
俺の問いかけに優奈は、取れてしまいそうなほど首を左右に振っている。
「いえっ……す、すみませんっ! そんな風に呼ばれ慣れてなくて」
「ごめんごめん。いきなり馴れ馴れしかったよね。優奈ちゃんって、呼んでいい?」
「……はい! 嬉しいです!」
輝くような満面の笑みにこちらまで明るくなってくる。
「そっか。良かった。ファミレスでいい?」
「……あ、それは、私……お金ないんで……」
突然、優奈の笑顔に陰が差す。
「いいよ、いいよ。俺が出すから」
「いえ、それはいけません! 払って頂く理由がありません。お話はここで伺います」
それまでの朗らかな様子は一変し、毅然とした態度で拒絶する。
「……そ、そうなんだ。じゃ……」
俺は紗里緒へ目配せして助けを求める。
「……前行った公園、行こっか?」
「……はい。ごめんなさい」
紗里緒の提案に、申し訳なさそうな苦笑いで優奈は頷いた。
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