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ラノベ窟のヘヴィーな廃人  作者: 広江宇一
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第29話/三章-④

「この……ウンコ製造機がぁぁぁぁぁあ!」

薄暗い教室に銀髪少女の怒号が響き渡る――


純文学作家を目指すも挫折し、国内でも珍しい文学科を備えた高等学校『高村学園』に就職した和久井耀は、文芸部の顧問を任される。しかし、待っていたのは通称『ラノベ窟』。ライトノベルをこよなく愛する変人の巣窟だった。


新進気鋭の女子高生プロライトノベル作家に囲まれ、『ラノベ窟』の非常識な活動に翻弄されながら、耀は至高の作品を書き上げることができるのか――!?


【登場人物】

和久井耀わくいよう     高村学園常勤講師

那津川紗里緒なつかわしゃりお  執筆ジャンル:王道ファンタジー

紺野響こんのひびく     執筆ジャンル:男性向けラブコメ

ユピテル      執筆ジャンル:MMORPG中心

卍風理まんじふうり     執筆ジャンル:異世界転生モノ

小早川優奈こばやかわゆうな  執筆ジャンル:女性向け恋愛小説


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


☆毎日、朝11時に定期更新☆


↓完結済みの過去作品もどうぞ↓

『国宝級イケメンの俺様が幼馴染彼女のストーカーに襲撃されたら、稀代のブサメンに生まれ変わっていた件 ~かくも人生は美しい…… ※ただし、イケメンに限る~』

https://ncode.syosetu.com/n0781ha/

『JK空海、吉備路を駆ける』

https://ncode.syosetu.com/n2890gw/


 軽い電子音を響かせたナビが、目的地の周辺である事を告げる。


 地図上にピンで示されたスーパーの駐車場へと入っていく。黄色地の看板には店名よりも大きく『二十四時間営業』と赤文字が躍っている。近所にあったら便利だ、なんて他人事のように考えた。


「ここは……?」


「優奈の親戚のお店。手伝う代わりに、家計を援助してもらってるんだって」


「親は何してるんだ!」

 俺は思わず叫んだ。


「……転職を繰り返してて収入が安定しないみたい。弟もいるから、なんとか家計の足しにって、優奈が望んで働いてるの。朝は新聞配達してから学校へ通ってるし」


「そんな……」

 思ったよりも状況は暗い。


「アンタみたいに恵まれてる人ばっかりじゃないよ、この世の中……」


「才能があるんだろ? お前のコネで小説家デビューさせてやればいいじゃないか」


「簡単に言ってくれるわね……それができれば苦労しないって」

 歯痒い想いを抑え込むように、紗里緒は目を細めて言った。


「才能があるのは確か。恋愛小説が得意で、家庭環境に裏打ちされた不幸描写は秀逸。でも……致命的な欠点がある……」


「どういう事だ?」


「未完なのよ。完成させられないの」

 小さく呟いた。


「は?」

 どんなに才能があろうとも、作品として完成させられなければ作家として意味がない。


構想プロットはある……見せてもらったけど、名作になることは確実……。でも、それを形にすることができない。日々の生活が精いっぱいで、目の前の現実に抗う事しかできなくて、書くことができない。完成に至らない。諦めちゃってるんだ。未来を……」


「そんな……」


「……だからさ……アンタの作品を読んだ時ははらわたが煮えくり返った。許せなかった。悪いけど、これ本音。才能があるのに書けない優奈。才能もないのに書けるアンタ。書ける環境が与えられてるなら、もっと、もっと! 魂込めて書きなさいよ! そう思った……」

 なにも言えなかった。

 言うべき権利を俺は持ち合わせていない……。


「……怒らないの? 怒ってもいい所よ。つまり、私はアンタに八つ当たりしたんだから」

 そっぽを向く紗里緒を横目に、俺は……加害者意識に囚われていた。


 事情を聞いた今、恵まれた温い境遇に甘んじて、作家ごっこをしてきた俺は悪でしかなかった。

 今なら紗里緒の気持ちが少しだけ理解できる。自分の生みだした作品にこそ、怒りを覚える。


「認めるよ……俺が思考停止してたのは確かだ。怒ってくれたこと、今は感謝してる。言い方はともかく、お前の罵倒で目が覚めたからな。でも、才能がないかどうかは、次の作品を読んでから判断してくれ。絶対にお前を見返してみせる!」


「……打たれ強いのね」


「お前は意外と打たれ弱いんだな。その子の未来を諦めてるのはお前自身なんじゃないか」


「私は……」


 その時、助手席のガラスを小さく叩く音が響いた。

 見慣れない制服の少女が、窓の外で小さく手を振っている。


「優奈……」

 俺と紗里緒はほぼ同時に車を降りた。


「朝から仕事だったんでしょ? ごめんね」

 紗里緒のカラ元気に少女は両手を小さく振った。


「いいのいいの。日曜は配送も少ないし、あとはパートさんの仕事だから」


 朗らかな少女だった。

 小柄で華奢な身体は年齢よりも幼く見える。撫で肩まで伸びる長めの、おかっぱボブに切り揃えられた黒髪が、更に幼さを助長する。その陽光のように明るく透き通った笑顔は、自らの境遇を一切悟らせることなく輝いている。街ですれ違えば、何不自由なく育てられた幸せな少女だと錯覚するだろう。


「……そちらは?」


「あぁ、これは部活の『雑用』、兼、顧問の和久井。一応、教師」

 雑用の部分を強調するな!


「一応じゃなくって、教師な! 和久井耀です、ヨロシク」


「和久井……先生……? 小早川優奈こばやかわゆうなです。宜しくお願いします」

 優奈はおずおずと、しかし丁寧に頭を下げる。

 近年稀に見る、礼儀正しい子だ。


お読みいただき、ありがとうございます。

皆様の応援が執筆の糧です。


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