第29話/三章-④
「この……ウンコ製造機がぁぁぁぁぁあ!」
薄暗い教室に銀髪少女の怒号が響き渡る――
純文学作家を目指すも挫折し、国内でも珍しい文学科を備えた高等学校『高村学園』に就職した和久井耀は、文芸部の顧問を任される。しかし、待っていたのは通称『ラノベ窟』。ライトノベルをこよなく愛する変人の巣窟だった。
新進気鋭の女子高生プロライトノベル作家に囲まれ、『ラノベ窟』の非常識な活動に翻弄されながら、耀は至高の作品を書き上げることができるのか――!?
【登場人物】
和久井耀 高村学園常勤講師
那津川紗里緒 執筆ジャンル:王道ファンタジー
紺野響 執筆ジャンル:男性向けラブコメ
ユピテル 執筆ジャンル:MMORPG中心
卍風理 執筆ジャンル:異世界転生モノ
小早川優奈 執筆ジャンル:女性向け恋愛小説
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軽い電子音を響かせたナビが、目的地の周辺である事を告げる。
地図上にピンで示されたスーパーの駐車場へと入っていく。黄色地の看板には店名よりも大きく『二十四時間営業』と赤文字が躍っている。近所にあったら便利だ、なんて他人事のように考えた。
「ここは……?」
「優奈の親戚のお店。手伝う代わりに、家計を援助してもらってるんだって」
「親は何してるんだ!」
俺は思わず叫んだ。
「……転職を繰り返してて収入が安定しないみたい。弟もいるから、なんとか家計の足しにって、優奈が望んで働いてるの。朝は新聞配達してから学校へ通ってるし」
「そんな……」
思ったよりも状況は暗い。
「アンタみたいに恵まれてる人ばっかりじゃないよ、この世の中……」
「才能があるんだろ? お前のコネで小説家デビューさせてやればいいじゃないか」
「簡単に言ってくれるわね……それができれば苦労しないって」
歯痒い想いを抑え込むように、紗里緒は目を細めて言った。
「才能があるのは確か。恋愛小説が得意で、家庭環境に裏打ちされた不幸描写は秀逸。でも……致命的な欠点がある……」
「どういう事だ?」
「未完なのよ。完成させられないの」
小さく呟いた。
「は?」
どんなに才能があろうとも、作品として完成させられなければ作家として意味がない。
「構想はある……見せてもらったけど、名作になることは確実……。でも、それを形にすることができない。日々の生活が精いっぱいで、目の前の現実に抗う事しかできなくて、書くことができない。完成に至らない。諦めちゃってるんだ。未来を……」
「そんな……」
「……だからさ……アンタの作品を読んだ時ははらわたが煮えくり返った。許せなかった。悪いけど、これ本音。才能があるのに書けない優奈。才能もないのに書けるアンタ。書ける環境が与えられてるなら、もっと、もっと! 魂込めて書きなさいよ! そう思った……」
なにも言えなかった。
言うべき権利を俺は持ち合わせていない……。
「……怒らないの? 怒ってもいい所よ。つまり、私はアンタに八つ当たりしたんだから」
そっぽを向く紗里緒を横目に、俺は……加害者意識に囚われていた。
事情を聞いた今、恵まれた温い境遇に甘んじて、作家ごっこをしてきた俺は悪でしかなかった。
今なら紗里緒の気持ちが少しだけ理解できる。自分の生みだした作品にこそ、怒りを覚える。
「認めるよ……俺が思考停止してたのは確かだ。怒ってくれたこと、今は感謝してる。言い方はともかく、お前の罵倒で目が覚めたからな。でも、才能がないかどうかは、次の作品を読んでから判断してくれ。絶対にお前を見返してみせる!」
「……打たれ強いのね」
「お前は意外と打たれ弱いんだな。その子の未来を諦めてるのはお前自身なんじゃないか」
「私は……」
その時、助手席のガラスを小さく叩く音が響いた。
見慣れない制服の少女が、窓の外で小さく手を振っている。
「優奈……」
俺と紗里緒はほぼ同時に車を降りた。
「朝から仕事だったんでしょ? ごめんね」
紗里緒のカラ元気に少女は両手を小さく振った。
「いいのいいの。日曜は配送も少ないし、あとはパートさんの仕事だから」
朗らかな少女だった。
小柄で華奢な身体は年齢よりも幼く見える。撫で肩まで伸びる長めの、おかっぱボブに切り揃えられた黒髪が、更に幼さを助長する。その陽光のように明るく透き通った笑顔は、自らの境遇を一切悟らせることなく輝いている。街ですれ違えば、何不自由なく育てられた幸せな少女だと錯覚するだろう。
「……そちらは?」
「あぁ、これは部活の『雑用』、兼、顧問の和久井。一応、教師」
雑用の部分を強調するな!
「一応じゃなくって、教師な! 和久井耀です、ヨロシク」
「和久井……先生……? 小早川優奈です。宜しくお願いします」
優奈はおずおずと、しかし丁寧に頭を下げる。
近年稀に見る、礼儀正しい子だ。
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