第28話/三章-③
「この……ウンコ製造機がぁぁぁぁぁあ!」
薄暗い教室に銀髪少女の怒号が響き渡る――
純文学作家を目指すも挫折し、国内でも珍しい文学科を備えた高等学校『高村学園』に就職した和久井耀は、文芸部の顧問を任される。しかし、待っていたのは通称『ラノベ窟』。ライトノベルをこよなく愛する変人の巣窟だった。
新進気鋭の女子高生プロライトノベル作家に囲まれ、『ラノベ窟』の非常識な活動に翻弄されながら、耀は至高の作品を書き上げることができるのか――!?
【登場人物】
和久井耀 高村学園常勤講師
那津川紗里緒 執筆ジャンル:王道ファンタジー
紺野響 執筆ジャンル:男性向けラブコメ
ユピテル 執筆ジャンル:MMORPG中心
卍風理 執筆ジャンル:異世界転生モノ
小早川優奈 執筆ジャンル:女性向け恋愛小説
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「他の部員は来ないのか?」
事情は目的地への道すがら、車内で聞くことにした。いつまでも部屋に籠っていて、お隣さんに通報でもされたら厄介だ。
「響は家の用事、ユピさんはゲームのイベント。風理は退院したみたいだけど、音信不通」
風理の事、完全に忘れてたよ……無事、退院できたようで良かった。
「そっか……響は来ないのかぁ……」
ヤル気メーターの急激な低下を自覚する。
「アンタって……響の事が好きなの?」
オブラートを知らないのであろう紗里緒の無遠慮な質問に、
「え。いや、その、そ、そんな事、ななななな、無いぞ」
動揺を隠しきれず、思わず声が裏返った。
「……いるのよねぇ。響のスキンシップに勘違いしちゃう童貞野郎が。でも、ダメよ。手を出したら……殺す……」
殺す……ときましたかー……コイツなら実際、やりかねない。
「そ、そんな事より、ちゃんと事情を説明してくれ。俺は何をすればいいんだ?」
藪蛇を恐れた俺は、流れを本題へ戻すことに決めた。
「……まぁ、いいわ。ターゲットは小早川優奈。中学三年生よ」
「中学生⁉ 俺なんかが接触したらアウトじゃねーか!」
「何? アンタ、性的に接触しようとしてるワケ? キモチワル!」
助手席の紗里緒が、ドアにベッタリ張りつくほど露骨に遠ざかる。
「勧誘しろって言ったり、接触するなって言ったり……」
どうしろって言うんだ……頭を抱えるしかない。
「高村学園に入学するよう説得してほしいのよ。教師として」
教師として……?
「そうならそうと言え! でも、なんで説得する必要があるんだ?」
当然の質問に紗里緒は一瞬躊躇い、顔を伏せる。
「……彼女は逸材よ。だけど、このままじゃ書くのを辞めちゃう、と思う。親がシングルマザーでね。家計が苦しいらしくて、中学卒業後は就職するって言ってんの。趣味で書き続けるとは言ってるけど……。最近、投稿小説の更新も途切れがちだし、色々と、諦めちゃってるんだと思う。就職したら絶筆しちゃうんじゃないかな……。彼女こそ、ラノベ窟で一緒に青春を送って、良い作品を生み出して欲しい。私はあの子の作品をもっと、ずっと読んでいたい……」
紗里緒には珍しく熱のこもった口調で、切実な想いが語られる。
「でもなぁ、家庭の問題だ。他人がおいそれと踏み込んでいい事じゃないだろう」
「響の親のプライバシーを暴いて、メチャクチャにしたアンタがよく言うわ」
伝播した熱に浮かされて珍しく真面目モードの俺を、紗里緒が鼻で笑う。
「茶化すなよ」
「……わかってる。私のエゴだってことは……」
窓の外へ視線を逸らせた紗里緒が、か細い声で呟く。
「どういう知り合いなんだ?」
「二年前かな。投稿サイトで知り合ってね。何度か会って話したけど、私じゃダメみたい……」
淀んだ空気はなかなか晴れない。……らしくない。こんなの全く紗里緒らしくない。
「……でも、ラノベ窟みたいな変人の宝庫に引き込んだら、普通の青春なんて無理だろ」
今度は俺が鼻で笑う番だった。
「なぁんですって……私たちのどこが変人なのよ!」
最近、ようやくコイツの扱い方がわかってきた。
紗里緒の怒りの沸点は異常に低い……俺の安い挑発に対し、簡単に声を荒らげた。
「自覚が無いのか? はっきり言って、お前らは普通じゃない。変人なんて既に通り越して、廃人の域だ。人を辞めかけてる」
飛んでくる拳を覚悟して、更に畳みかける。しかし、少し待っても、殴られることはなかった。それどころか、小気味よい笑いが車内に響き渡る。
「……クククッ……いいじゃない、廃人。さしずめラノベ廃人ね……。理性を越えた変人が廃人と呼ばれるのならば、私は廃人を目指すわ。そのくらいイカれてなきゃ、唯一無二の物語なんて書けっこないもの!」
顔を上げた紗里緒が、大きく背伸びした。そして、両手で自らの頬を二回、三回と引っ叩く。
「優奈は廃人になる資格すら放棄してる。人生丸ごと諦めているのかもしれない。私、そんなの許せない。あんなにも才能に溢れているのに……。絶対に、ラノベ窟に引き込んでみせるわ!」
やっと調子出てきたじゃねぇか。そうそう。それでいい。
「その意気だ! 有無を言わせず、ぶつかっていけよ。俺も手伝うからさ」
わき見することなく運転に集中する俺には紗里緒の表情は伺い知れない。だが、
「……アンタ……たまにはいいこと言うじゃない……」
モゴモゴと口籠る呟きが、少し照れている様子を克明に物語っていた。
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