第27話/三章-②
「この……ウンコ製造機がぁぁぁぁぁあ!」
薄暗い教室に銀髪少女の怒号が響き渡る――
純文学作家を目指すも挫折し、国内でも珍しい文学科を備えた高等学校『高村学園』に就職した和久井耀は、文芸部の顧問を任される。しかし、待っていたのは通称『ラノベ窟』。ライトノベルをこよなく愛する変人の巣窟だった。
新進気鋭の女子高生プロライトノベル作家に囲まれ、『ラノベ窟』の非常識な活動に翻弄されながら、耀は至高の作品を書き上げることができるのか――!?
【登場人物】
和久井耀 高村学園常勤講師
那津川紗里緒 執筆ジャンル:王道ファンタジー
紺野響 執筆ジャンル:男性向けラブコメ
ユピテル 執筆ジャンル:MMORPG中心
卍風理 執筆ジャンル:異世界転生モノ
小早川優奈 執筆ジャンル:女性向け恋愛小説
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「……アンタに仕事を持ってきたの」
仕事……だと……?
「それは、執筆の……?」
ゴーストライターでもさせるつもりか? なんだかんだ俺の文才を買っているんじゃないか、えぇ? 紗里緒さんよぉ。
「そんな訳ないじゃない。雑用の仕事、よ」
思考を読み取ったように、さらりと断言される。
そんな訳ないですか。そうですか。
「なんて言えばいいのかしら。ある女の子をおとしてほしいの」
おとす……落とす?
「殺人の手伝いは御免こうむる」
「違うわよ! 勧誘してきてほしいって事!」
「勧誘ぅ? なんでそんな必要がある?」
「豊かな人生こそ良い作品の土壌よ。彼女なんていないに決まってるアンタに、人生経験を積ませてあげるわ」
彼女……がいないのは事実だが……
「もうその手には乗らないぞ……いい作品を作るため、なんて餌をぶら下げても、碌なことが起きない。この間から、失って、苦しんで、追い詰められるばかりじゃないか」
「……どうやら人並みの学習能力はあるようね」
こいつは人を苛つかせる天才なのか?
「わかった……交渉方法を変えましょう。私の命令を受けなさい。さもなくば、ユピさんの持ってるアンタのバブバブ赤ちゃんプレイ動画を流出させるわよ!」
脅迫かよ⁉
「……構わない。流出させればいい。俺にやましい点は無い。それは動画を見ればわかる事だ」
目の前の少女は悔しそうに息を呑み、
「アンタに断る権利があると思ってるの⁉ 私に借金だってしてるじゃない!」
今度は、恩着せがましい恫喝に打って出た。
「無い金は返せん。どうしてもっていうなら、外のレクサスを売って返してやるよ。その代わり、部の車は無しだ」
「くっ……」
苦々しく歯噛みする紗里緒。
この少女がいくら神の如き稀代の才能を有しているとしても、そこは一人の女子高生。無条件に甘やかして、お互いにいい事は何も無い。これくらい毅然として突き放す方が正しい。今までが素直に従いすぎていた。主導権を取り戻すべきなのだ。
「……わかったわよ……本当は避けたかったけれど……」
目を伏せた紗里緒は、拳を固く握る。
「私……」
私……? 何をするつもりなんだ。思わず身構えてしまう。
「私、がっ……」
震えている。あの那津川紗里緒が震えている。
絞り出す声に混じる悲壮を振り払うように、紗里緒はシャツのボタンを握り締める。まさか……私が報酬……とでも言うつもり、か……?
「くぅっ……」
ひどく逡巡している。
確かに目の前の少女は美しい。キツい性格にさえ目を伏せれば……。長い銀髪が揺れる小さな顔には切れ長で大きな瞳。その瞳には今、悲壮な覚悟が輝き煌めいている。気高い魂を内包したこの美しい器を手にすることができるのならば、それは何ものにも代えがたい報酬と言えるだろう。たとえ人の道を外れたとしても……。
「やっぱ無理!」
ボタンから手を離した紗里緒は自らの意思を拒絶するように頭を振る。一方の俺は、落胆を自覚する。手中に収めたはずの宝が指の隙間をすり抜けて、零れ落ちる錯覚に囚われる。
「じゃ、話は終わりだ。帰ってくれ」
俺はわざと突き放すように言い捨てた。自分でも驚くほど冷たいのは、紗里緒を手に入れられない焦りなのだと知っている。俺は今、教師として有るまじき狂気に支配されている。
「……アンタの……わよ……」
その瞳から光彩を消し、観念したように項垂れる紗里緒が呟く。
「何だって?」
もう一押しでコイツを奪える。湧き上がる邪な歓喜を抑え込んで、わざと鷹揚に聞き直す。
「……アンタの……して……あげるわよ……」
紗里緒の諦めにも似たか細い声が俺を昂らせる。
「何だ? ちゃんと言え!」
追及に耐えかねたように、拳を握り締めた紗里緒は天を仰いで叫んだ。
「アンタの原稿を読んで! アドバイスしてあげるわよ!」
「……は?」
なんだって? 俺の原稿を読んで……は?
「アンタの駄文の羅列を読んであげるっていってるの! うおぇ……考えただけで吐きそ……」
……え、いや、紗里緒さん……? 報酬ってそれ? すげぇ嫌そうなんですけどー?
「……何よ、その顔……どうせ、また良からぬことでも考えてたんでしょうけど」
そうですけど……そうですけども!
「大人を揶揄うな!」
ようやく理性を取り戻した俺は、激しく抗議する。
「揶揄ってなんていないわ。本心よ。心の底から嫌なのよ」
ひでぇ。冗談の方がまだマシだ。救いが無さすぎる。
「で、どうするの? 私としては最大の譲歩。アンタが私からアドバイスを受けるチャンスなんて、今後一生ないと思いなさい」
一生かよ! どんだけ嫌なんだ!
「……どうせ、俺を小馬鹿にした適当なアドバイスなんだろ?」
「……やっぱりアンタは私の事を分かっていない……。毒は吐いても、嘘は吐かない。ちゃんと読んで、的確にアドバイスするわ。私の矜持に賭けて」
貫くような眼光が俺の瞳を見据えている。
分かってない、か……。確かにそうかもしれない。俺はこの少女が怖い。怖くて怖くて、仕方がないのだ。自分自身にさえ誤魔化している真実を、いとも簡単に白日の下へ晒してしまう、この少女が……。それでも今、この二人だけの部屋では、向き合わずにはいられない。逃げ出すことは、できそうにない。
「……はぁー……わかったよ。お前がそこまで言うって事は、非常事態なんだな? 手伝うよ。手伝えばいいんでしょ」
「最初から素直にそう言いなさい! 使えないわね……」
本当にコイツは……神経を逆撫でする天才だ……。
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