第26話/三章-①
「この……ウンコ製造機がぁぁぁぁぁあ!」
薄暗い教室に銀髪少女の怒号が響き渡る――
純文学作家を目指すも挫折し、国内でも珍しい文学科を備えた高等学校『高村学園』に就職した和久井耀は、文芸部の顧問を任される。しかし、待っていたのは通称『ラノベ窟』。ライトノベルをこよなく愛する変人の巣窟だった。
新進気鋭の女子高生プロライトノベル作家に囲まれ、『ラノベ窟』の非常識な活動に翻弄されながら、耀は至高の作品を書き上げることができるのか――!?
【登場人物】
和久井耀 高村学園常勤講師
那津川紗里緒 執筆ジャンル:王道ファンタジー
紺野響 執筆ジャンル:男性向けラブコメ
ユピテル 執筆ジャンル:MMORPG中心
卍風理 執筆ジャンル:異世界転生モノ
小早川優奈 執筆ジャンル:女性向け恋愛小説
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翌、日曜日。
ただでさえ寝不足な日々を過ごしていた俺は、紺野一家が引き起こした騒動で溜まった疲れも相まって、泥に溺れるように眠った。久しぶりにゆっくりと寝た心地がする。目を覚ますと、時計は正午を回っていた。それでもまだまだ、身体が重い。二度寝を決めこもうと再び瞼を閉じた俺を、スマホの着信が阻止せんとする。
画面を見るとそこには『那津川紗里緒』の名前が表示されている。呆然と眺めていると、着信が途切れた。これ幸いとばかりに、電源を切る。二度寝を邪魔する奴は数え終わった羊の後ろ脚にでも蹴られてくれ。再び惰眠を貪る準備に取り掛かった俺を、今度はインターホンの連打が襲う。何度も何度もしつこく電子音が室内に響き渡る。
まさか……。こんな常軌を逸した行動を採るのは一人しかいない。恐る恐るインターホンの画面を覗いた俺は、息を呑んだ。
いる……ヤツがいる……!
「雑用! 開けなさい!」
扉の向こうにヤツがいる。
なんで……。そもそも、どうやって住所を知った? いや、職員室の引き出しから平気で判子をくすねるような手癖の悪い奴だ。不思議ではない、か……。
「居るのはわかってるんだから! 早く! 開けなさーい!」
今度はドアをガンガン叩きはじめた。
怖い! 怖すぎる!
「金返せ!」
借金取りか⁉ って、借金は事実だったか。
「ご近所の皆さーん! ここに住んでる和久井さんは、高校生からお金を借りて返さない極悪人でーす!」
俺はマッハで扉を開けた。
「やめろ! 人聞きの悪い!」
そこには見慣れぬ私服姿の紗里緒が立っていた。
首を回して周囲を確認すると、扉から顔だけ出して様子を覗うお隣さんと目が合った。俺の愛想笑いに、怪訝な視線だけを残してお隣の扉はゆっくりと閉ざされる。美人OL系お姉さんだったのに! 朝とか笑顔で挨拶を交わす仲になってたのに!
「……何しに来たんだ?」
満面の恨みを伴って、当然の質問をする。
「……やっばり居留守じゃない……アンタねぇ! ちゃんと電話に出なさいよ!」
返ってきたのは、叱責だった。
「ふざけんな! 今日は日曜だ! 休んで何が悪い!」
「休める立場だと思ってんの⁉ 惰眠を貪る暇があるなら、一文字でも多く書きなさい!」
激しい応酬の合間に、ふと視線を感じる。
お隣の美人OL系お姉さんが再びこちらを見ている。仲間になりたそうな雰囲気は微塵も感じられない。俺は再び愛想笑いを浮かべたが、拒絶の如くお隣の扉が激しい音を立てて閉じられた。
「……まぁ、入れ。このままじゃ、ここに住めなくなる」
「連れ込むつもり?」
自らの肩を両手で抱いて一歩退き、あからさまな警戒を示す紗里緒。
「そんな度胸が俺にあると?」
「確かにそうね。お邪魔しまーす」
素早い理解に釈然としないが、なんとか引っ越しは回避できそうだ。
「狭い部屋……」
壁際の椅子に許可なく腰かけた紗里緒は、作業机に頬杖をついて呟く。
「独身男の部屋なんてそんなもんだろう」
「この机が不相応なんじゃない?」
トントンと指打ちされた作業机が部屋の面積を圧迫しているのは確かだ。
「机でないと執筆できない」
「生意気ね。ユピさんを見習いなさい」
「あれは特殊過ぎる!」
寝ながら、更にゲームしながら執筆できるほど器用な人間が他にいるだろうか。
「あっ、これ……」
しまった! 突然の事で隠し忘れてた!
「……私の作品じゃない。しかも、全巻ちゃんと揃ってる……」
一冊の文庫本を手に取った紗里緒は、慈しむように表紙を撫でた。
「資料だよ、資料。ライトノベルを書くための」
やましい事なんて欠片もないが、作者本人が隣にいると思うと、何故だか非常に気恥ずかしい。
「へぇー……」
ニヤついた半眼が、顔を覗き込む。自室にも関わらず、居心地の悪さに俺は顔を背けた。
「本当にiAIが好きなのね。特集された雑誌まで買ってるし、短編集もある。私も読んだわ」
物言わぬ俺に興味が逸れた紗里緒は、本棚の下段から抜き出した雑誌をペラペラとめくる。
「あ、あぁ、初期から追っかけてるからな。作品の空気感が好きなんだ。それに、新進気鋭の覆面作家ってなんか……憧れる。格好いいよな」
「格好いい、ねぇ? ニワカ臭がプンプン……ちゃんと読んでるのか怪しいんだけど」
雑誌を片手に俺を一瞥した紗里緒は、冷めた笑いを吐き出した。
「ちゃ、ちゃんと読んでるよ!」
「じゃ、短編集で一番面白かった作品を言い合いましょう?」
その試すような瞳に見つめられると、背筋に妙な力が入ってしまう。
「いいぞ、せーの……」
「クルイザキ」
「旅立ちの日」
お互い、見事に方向性の違う作品をセレクトした。
「やっぱり、アンタとは趣味が合わないわ……。この、晴河夏彦全集が並んでるのも……」
平積みされた全集の一冊を取ろうとした紗里緒が、躊躇うように手を引っ込める。
「昔から好きなんだよ……。高村学園出身の直木賞作家だし、久しぶりに読み返してるんだ」
「ふーん。まぁ、勝手にすれば……」
打って変わって、紗里緒の表情が険しくなる。なんだっていうんだ、一体……。
「と、ところで、用事は何なんだ? 人んちの本棚に文句をつけに来たわけじゃないだろう?」
寝間着姿のまま、ベッドへ腰を下ろした俺は紗里緒を見据えて聞いた。
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