第24話/二章-⑪
「この……ウンコ製造機がぁぁぁぁぁあ!」
薄暗い教室に銀髪少女の怒号が響き渡る――
純文学作家を目指すも挫折し、国内でも珍しい文学科を備えた高等学校『高村学園』に就職した和久井耀は、文芸部の顧問を任される。しかし、待っていたのは通称『ラノベ窟』。ライトノベルをこよなく愛する変人の巣窟だった。
新進気鋭の女子高生プロライトノベル作家に囲まれ、『ラノベ窟』の非常識な活動に翻弄されながら、耀は至高の作品を書き上げることができるのか――!?
【登場人物】
和久井耀 高村学園常勤講師
那津川紗里緒 執筆ジャンル:王道ファンタジー
紺野響 執筆ジャンル:男性向けラブコメ
ユピテル 執筆ジャンル:MMORPG中心
卍風理 執筆ジャンル:異世界転生モノ
小早川優奈 執筆ジャンル:女性向け恋愛小説
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時計の針は午後四時を指している。
そろそろ二時間が経つ頃だ。もうすぐ響の両親が帰ってくるに違いない。
応接間には俺と響だけ。紗里緒とユピテルには車で待っているようにと言い含めてある。二人がいると話が拗れそうだからな。響には自信満々で言い聞かせたものの、両親を説得できる可能性は五分五分と言っていい。全ては俺の覚悟に掛かっている。何度も何度も頭で想定問答を反復し、試行錯誤を繰り返す。
「……センセイはなんで私にここまでしてくれるんですか?」
「へ?」
意識を破る突然の問いかけに、俺は間抜けな声を洩らす。
「シャルちゃんやユピさんは付き合いも長いですし、わかるんです。でもセンセイは……。私たち、出会って間もないじゃないですか? そこまでしてもらう程の仲でもないような……」
「頭から離れないんだ、響の声が……」
「声……?」
『……遠くへ……行きたいな……』
「いつだったか、遠くへ行きたい、みたいな事、言ってただろう」
「そんな事……言いましたっけ?」
苦笑いで虚空へ目を逸らす響。……本当に、無意識だったんだな。
「言ったんだよ……。それがやけに哀し気で、でも自分の境遇に耐えているような……。なんだか生きていく強さみたいに感じて、頭から離れないんだ。きっと、お前を救う事に俺は救われてるんだと思う……それが絆、っていうもんなんじゃないのかな」
我ながら歯が浮く。鼻の頭を掻いて誤魔化した俺は、恐る恐る横目で響を見た。
「センセイ……ちょっとクサイです……」
泣き腫らした目を真っ赤に染めながらも微笑む強かさに思わず、見惚れてしまう。
「でも、好きかも……」
何気なく洩れた甘い声に、俺は少しドキリとした。その時、
「響―? 帰ってるのかー?」
響の父が放った声に胸の鼓動が塗り替えられる。早鐘がテンポを上げる。
心の準備とほぼ同時に、扉が無遠慮に開かれた。
「響――って、お前は! 高村学園の講師じゃないか⁉ なぜここにいる!」
「響さんを取り戻しに」
俺は敢えて澄ました顔で、さも当然という風を装って座っている。
「ふざけるな! 出ていけ! 出ていかんと、警察を呼ぶぞ!」
脅かすような怒鳴り声にも耐え、平静を装い続ける。
「……警察ねぇ……ま、私はただの講師ですし、失うものなんて何も無いですからねぇ……」
「なんだと! それなら望み通りにしてやる!」
響の父が胸ポケットからスマホを取り出す。
「まぁまぁ、お父様。落ち着いて下さいよ。警察が来たらマズいのはお父様の方かもしれません。これに見覚えは無いですか?」
俺は目の前の卓に置かれた箱の包みを解いた。
「これは……」
響の父が絶句する。
「どうやら見覚えがあるようですねぇ」
俺は薄く笑った。
「これを……どうして……」
清廉な父親なんて存在しない……
「やだなぁ……お父様が言われたんじゃないですか。家族であれば、家族の部屋に入るのに許可なんて要らない、と」
存在するはずがない。
「そ……んな……ならば……響が……」
「えぇ、そうです。それにしても驚きました。かなりいい趣味されてますねー。SM……それもハードコア系……ですか……」
俺は箱の中から一冊の本を取り出し、ヒラヒラとはためかせた。
そう。
目の前の箱の中には父親の寝室から押収したエロ本とエロDVDが並々と満載されている。我ながら思う。史上最悪な作戦だ、と。
「神社の面子を持ち出して響は執筆を禁止されたうえ転校までさせられるのに、お父さんは見境なくハッスルハッスルしているみたいですねぇ」
「それ、は……大人の趣味じゃないか……未成年とは違うだろ……法律とか……倫理とか……」
声は尻すぼみ、次第に力を失っていく。
「あれー……このDVD……ラベルが無いなぁ……もしかして、違法な奴だったりして?」
「……それ……は……」
勝った……
「……法律がどうしました?」
「……」
敵の無言が敗北を認めている……
「倫理がどうかしましたか?」
「……う……い……」
「はぁ? なんですか?」
征服の愉悦に胸を躍らせながら、わざとらしく聞き返す。
「……うるさい……」
「え?」
やり過ぎた……そう気づいた時には手遅れだった。追い詰められた鼠は、高慢な猫に噛みつく……。そんな簡単な事すら忘れていた。
「うるさい、うるさい、うるさい! これは家庭の事情だ! 他人が口出ししていい問題じゃない! 今すぐお前の所の校長と警察を呼んでやる! お前の息の根を止めてやる!」
完全に我を失っている。俺は失敗した。調子に乗り過ぎた。これでは共倒れだ。なんとか対話のテーブルにつかせようと思った刹那、
「……ククク……」
扉の陰から噛み殺した笑い声が聞こえてくる。
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