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ラノベ窟のヘヴィーな廃人  作者: 広江宇一
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第22話/二章-⑨

「この……ウンコ製造機がぁぁぁぁぁあ!」

薄暗い教室に銀髪少女の怒号が響き渡る――


純文学作家を目指すも挫折し、国内でも珍しい文学科を備えた高等学校『高村学園』に就職した和久井耀は、文芸部の顧問を任される。しかし、待っていたのは通称『ラノベ窟』。ライトノベルをこよなく愛する変人の巣窟だった。


新進気鋭の女子高生プロライトノベル作家に囲まれ、『ラノベ窟』の非常識な活動に翻弄されながら、耀は至高の作品を書き上げることができるのか――!?


【登場人物】

和久井耀わくいよう     高村学園常勤講師

那津川紗里緒なつかわしゃりお  執筆ジャンル:王道ファンタジー

紺野響こんのひびく     執筆ジャンル:男性向けラブコメ

ユピテル      執筆ジャンル:MMORPG中心

卍風理まんじふうり     執筆ジャンル:異世界転生モノ

小早川優奈こばやかわゆうな  執筆ジャンル:女性向け恋愛小説


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


☆毎日、朝11時に定期更新☆


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 どうすれば響を救えるのか……?


 そればかりを考えていた。

 神社を出て、何の疑念も抱かず車を学校へ向けるが、途中の赤信号ではたと思い出す。そういえば体調不良で早退したことになってるんだっけ。それでも行先は変わらない。俺一人では解決の糸口さえ見いだせそうにない。車を路地裏のコインパーキングに停め、人気のない通用門を通って、こっそりと旧校舎へ入る。授業中だけあって、誰とも擦れ違うことなく部室への侵入を果たした。


 部室は真っ暗だった。誰もいないのだから当然だと思った矢先、聞き慣れた打鍵音が響いていることに気づく。


「おい……授業中だぞ……」


「……知ってる……」

 薄暗闇の中、ユピテルがいた。


「サボりか?」


「……やる気……出ない……」

 言葉の通り、ゲームに向かう姿には普段の覇気が感じられない。


「教師の前で堂々とサボってんじゃねぇ!」


「……こんな所で……職務放棄してる人に言われたくない……」

 うぅ……確かに。仰る通りです。口をつぐんだ俺を一瞥したユピテルは、


「……なんで……響は来ない……?」

 震える声で呟き、小さな瞳に今にも零れ落ちそうな涙を溜めている。そこでやっと俺は気づいた。ユピテルがここにいる理由に。待っていたのだろう、響を。ずっと、この部室で。


「……部活……嫌になっちゃったのかな……」


「そんなわけねぇ! 響は俺が連れ戻す! 絶対だ!」


「……和久井……」

 ユピテルは初めて俺の名を呼んだ。それだけで心がよじれるような衝撃を受ける。


「約束だよ……?」


 響の大切さと、彼女を取り戻す責任の重みを痛感する。響……お前を待ってる奴がいるんだ。帰ってきてくれよ……。


 俺は無感動にゲームを続けるユピテルの隣で、天井を眺めながら思案を巡らせる。しかし、心にぽっかりと穴があいたような喪失感が邪魔をして、考えがうまくまとまらない。


 終業の鐘が鳴って間もなく、勢いよく扉が開かれた。


「いるし! アンタねぇ……戻ってるならメッセージくらい寄こしなさいよ! こっちはずっとヤキモキしてるんだから! さっさと響を連れ戻しに行くわよ!」

 いつも通り、不遜な態度の紗里緒を見ると、何故だか少し元気が湧いた。


「よし! 作戦会議だ!」

 俺の掛け声に無言のままのユピテルが片腕を挙げる。


「アンタが仕切ってんじゃないわよ!」

 紗里緒の叫びが部室にこだました。




「連れ去るしかないわね……」

 響の母とのやり取りを報告すると、紗里緒は押し殺したような声で言った。


「それじゃ解決にならんだろう。捕まって終わりだ」

 物騒なやり方しかできんのか……コイツは……。


「……響の父親を……」

 珍しく口を差し挟むユピテルが、


「……ぶん殴る……」

 負けず劣らず短絡的な解決方法を提示する。


「それも捕まって終わりだ……」

 部長という精神的支柱を失った今、ラノベ窟は運転手のいない暴走特急に他ならなかった。改めて、響の大切さが身に染みる。


「二時間でできる事なんて限られてるわ! 強行突破しかないじゃない。いっそのこと両親も一緒に連れ去りましょう! そうすれば発覚を遅らせられるでしょ?」


「警察沙汰だけは勘弁してくれ……」


 二時間……。確かにできる事は限られている。ぶん殴る、か……。殴ってあの父親が改心するのならば、やぶさかではない。しかし、そんな漫画のような展開はあり得ない。むしろ、火に油を注ぐだけだ。あれだけ清廉で頭が固そうな……


 ……待てよ。清廉な……父親……か。


「閃いた!」


 二人の視線が集まる。俺は一か八かの提案を説いて聞かせた。


 ・

 ・

 ・


「……アンタ、イカレてるわね……」

 紗里緒の呆れ果てた視線が突き刺さる。


「……最低……」

 ユピテルはまるで道端に打ち捨てられた生ごみを見るかのように顔をひそめている。


「反対か?」

 恐る恐る問う俺に、僅かに逡巡した紗里緒は頭を左右に振った。


「……それしかないでしょうね……二時間しかないんだもの」


「それじゃ……」


「乗ってあげるわよ……なんとしても響を連れ戻すんだから!」


 決意の叫びが背中を押す。


 俺は覚悟した。人としての理性を捨てる覚悟を……。


お読みいただき、ありがとうございます。

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