第21話/二章-⑧
「この……ウンコ製造機がぁぁぁぁぁあ!」
薄暗い教室に銀髪少女の怒号が響き渡る――
純文学作家を目指すも挫折し、国内でも珍しい文学科を備えた高等学校『高村学園』に就職した和久井耀は、文芸部の顧問を任される。しかし、待っていたのは通称『ラノベ窟』。ライトノベルをこよなく愛する変人の巣窟だった。
新進気鋭の女子高生プロライトノベル作家に囲まれ、『ラノベ窟』の非常識な活動に翻弄されながら、耀は至高の作品を書き上げることができるのか――!?
【登場人物】
和久井耀 高村学園常勤講師
那津川紗里緒 執筆ジャンル:王道ファンタジー
紺野響 執筆ジャンル:男性向けラブコメ
ユピテル 執筆ジャンル:MMORPG中心
卍風理 執筆ジャンル:異世界転生モノ
小早川優奈 執筆ジャンル:女性向け恋愛小説
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
☆毎日、朝11時に定期更新☆
↓完結済みの過去作品もどうぞ↓
『国宝級イケメンの俺様が幼馴染彼女のストーカーに襲撃されたら、稀代のブサメンに生まれ変わっていた件 ~かくも人生は美しい…… ※ただし、イケメンに限る~』
https://ncode.syosetu.com/n0781ha/
『JK空海、吉備路を駆ける』
https://ncode.syosetu.com/n2890gw/
俺は意を決し玄関へ近づくと、震える指を抑えつけるようにインターホンを鳴らす。
「どちら様でしょう?」
落ち着いた声が返ってくる。どうやら響ではない。
「私、高村学園の講師で、和久井と申します。響さんの事でお話が……」
やや間があり、……少々お待ちください、と聞こえたのも束の間、玄関の引き戸が開け放たれた。姿を現したのは、和装に身を包んだ妙齢の女性だった。その凛とした透明感から察するに、響の母だろう。どうやら顔は父親似、雰囲気は母親似らしい。
「初めまして。響の母です。和久井先生、ようこそいらっしゃいました」
深々と頭を下げた響の母は、雰囲気そのままの落ち着いた調子で言った。
「突然すみません。響さんが学校へ来ないものですから、心配で……」
「それは……ご心配をお掛けして、申し訳ございません」
鷹揚にお辞儀するその麗しい姿に、思わず見惚れてしまう。
「えーと……響さんとお話をさせて頂きたいのですが……」
「響はもう、ここには居ません」
「え?」
「全寮制の女子高へ転校させました」
ました? 過去形、なのか……
「それは……」
「残念ながら、話し合いは折り合わず、この神社を継ぐという生まれ持っての宿命を諭された響は結局、納得して転校に応じたのです。私にも、これ以上の肩入れは……」
宿命……? 納得……?
「そんな馬鹿な⁉」
無意識に俺は叫んでいた。脅かすような大声を出したことを後悔し、咄嗟に手で口を塞ぐ。
「……確かに馬鹿な事だとお思いでしょう。しかし、賢いあの子の事です。既にこうなる覚悟をしていたのかもしれません」
俺の大声にたじろぐ事もなく、響の母は静かに告げた。
「お母様は……それでいいんですか?」
食い下がる俺を諭すように、
「……あの子の決断を支持してあげたいと考えております」
淀みのない声が答える。
「そんなの……響の本心な訳ないじゃないですか! 聞き分けがいいのは彼女の美徳かもしれない。でも、色々なものを抑圧された結果が彼女の作品なんです。書く事だけが唯一、彼女を解放させる救いだった……。それを奪われた今、苦しんでいるに違いないんだ!」
「……わかっています……!」
漆黒の瞳が真っすぐに俺を射抜くや、否や、
「……私は響の母親なのですから……。それでも、生まれもった宿命には逆らえないのです。あの子もわかっています。私も夫も、間違った判断はしていないつもりです」
昂った感情を恥じるように、響の母は目を伏せた。
「宿命……宿命って何なんだ! 定めに抗う生き方を教えるのも、大人の責任でしょう!」
「簡単に言ってくれますね……あなたにはそれができますか? あの子の背負っている重さを取り去ってやれますか?」
重さ……か……。
それはきっと、神主の家に生まれたが故の宿命なんかじゃない。現実への諦め……。幼い頃からその型を破れないと決めつけている、響の価値観そのものに他ならない。
響は常に内なる自分と闘っていた。たった一人きりで……。愛情に満ちた環境で優しく育てられた彼女だからこそ、家族を裏切れないに違いない。そんな少女のSOSを俺は見落とした……。顧問としても、部員としても、雑用としても、失格だ! 絶対に響を救ってみせる!
「取り去ることはできません……しかし、一緒に背負うことはできます! あの子には仲間がいる! 絶対に、独りにはさせない!」
響の母は微動だにすることなく、じっと俺の目を見据えている。
「……わかりました。そこまでの覚悟があるのならば、娘をあなたに託します。明日、響は荷物を取りに戻ります。わずか二時間ほどですが、猶予を差し上げます。なんとか夫を遠ざけましょう。娘と話してやってもらえますか?」
様々な想いを巡らせるように目をみはった響の母は、
「あの子が別れを告げなかったのは、その方が辛くなるからです。それでも、会いますか?」
薄い溜息のあと、小さく呟いた。
「絶対に行かせません……引き留めてみせます!」
お読みいただき、ありがとうございます。
皆様の応援が執筆の糧です。
「☆☆☆☆☆」を押して評価をお願いします。




