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ラノベ窟のヘヴィーな廃人  作者: 広江宇一
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第18話/二章-⑤

「この……ウンコ製造機がぁぁぁぁぁあ!」

薄暗い教室に銀髪少女の怒号が響き渡る――


純文学作家を目指すも挫折し、国内でも珍しい文学科を備えた高等学校『高村学園』に就職した和久井耀は、文芸部の顧問を任される。しかし、待っていたのは通称『ラノベ窟』。ライトノベルをこよなく愛する変人の巣窟だった。


新進気鋭の女子高生プロライトノベル作家に囲まれ、『ラノベ窟』の非常識な活動に翻弄されながら、耀は至高の作品を書き上げることができるのか――!?


【登場人物】

和久井耀わくいよう     高村学園常勤講師

那津川紗里緒なつかわしゃりお  執筆ジャンル:王道ファンタジー

紺野響こんのひびく     執筆ジャンル:男性向けラブコメ

ユピテル      執筆ジャンル:MMORPG中心

卍風理まんじふうり     執筆ジャンル:異世界転生モノ

小早川優奈こばやかわゆうな  執筆ジャンル:女性向け恋愛小説


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


☆毎日、朝11時に定期更新☆


↓完結済みの過去作品もどうぞ↓

『国宝級イケメンの俺様が幼馴染彼女のストーカーに襲撃されたら、稀代のブサメンに生まれ変わっていた件 ~かくも人生は美しい…… ※ただし、イケメンに限る~』

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『JK空海、吉備路を駆ける』

https://ncode.syosetu.com/n2890gw/


 「嫌い」という声をよく聞くが、新車特有の、あの独特な香りが俺は好きだ。


 車を買った! 買ってやったぞぉ! という充足感に浸ることができるし、ワクワクして何処かへ出掛けてみようという気持ちを加速させる。


 しかし、そういう喜びは一人で噛みしめてこそ価値があるものだが、俺には一瞬たりと与えられることはなかった。結局、車の引き渡しが終わったその足で、スーツ姿のまま山奥の温泉まで引っぱり回されたのだ。観光客の少ない穴場の温泉は、確かに気持ちよかった。露天風呂の板一枚隔てた向こうに裸の響がいると思うと、妄想を掻き立てられた。湯上りの女子がやけに艶っぽかったのもいい思い出だ。


 だが、硫黄臭に上書きされた車内を消臭するには、その後、数日を要したのだった。




 週が明けた月曜日、俺は買ったばかりの車で出勤する。経緯はともかく、マイカー通勤は快適この上ない。バスや電車に乗らなくて済む。従って、今までよりも一時間は長く寝られる。朝の一時間は、灼熱の砂漠における水ほどに貴重だ。


 しかし、俺はなにも分かっていなかった。空気が読めていなかったと言ってもいい。


 学園に到着し、当たり前のように教職員用駐車場に車を停めた。隣にはシルバーの何の変哲もない軽自動車が止まっている。今まさに、その軽から持ち主が降りようとしていた。書類と鞄で片腕を一杯にしているのは、俺の直属の上司である主任だった。五十路いそじの老練である。


「おはようございます!」

 車から降りた俺は、元気よく主任に挨拶した。


「……あぁ、君か。おはよう」

 主任は怪訝そうな眼差しで俺と俺の愛車を交互に見つめたあと、静かに言った。


「中々いい車に乗ってるじゃないか……」


「あー、成り行きで買う事になってしまって……」

 真意を汲み取ることができず、愛想笑いする俺。冷ややかな視線で主任は自分の車と俺のレクサスを見比べて、一つ溜息を吐いた。


「私は気にしないけどね……ここには校長も停めるからねぇ……。裏の駐車場に停め直した方がいいんじゃないか? もちろん、私は全然気にしないんだけどね、私は……」

 呪詛の如く繰り返す主任の言葉に、俺はハッと気がついた。


 勤めはじめて間もない常勤講師が、高級車で乗り付けてきたら周りはどう思うだろう。悪目立ちするのは間違いない。場合によっては、相手の面子を潰すことにもなるだろう。


「ご忠告、ありがとうございます! すぐに移動します!」

 主任に頭を下げ、車へ乗りこもうと踵を返す。


 その瞬間、駐車場へ入ってきた車が横切り、行く手を遮る。俺の車に横付けした白いプリウスの運転席には、校長の姿があった。


 一歩、遅かった……。そんな様子を尻目に主任は、後は知らんとばかりに歩き去った。


「おはようございます、校長先生……」


「あぁ、おはよう! いやー、最近の若い人は中々豪胆だね! レクサスでご出勤とは、重役のようじゃないかぁ?」

 満面の笑顔の裏側で、校長の放つプレッシャーが圧し掛かる。


「プリウスも……いい車ですよね……」

 なんとか言葉を捻りだすものの、現状を覆すには及ばない。


「そうなんだよ! 燃費もいいしね! レクサスなんて乗ろうとも思わなかったよ! ホントだよ! 妻に反対されたわけじゃないんだよ! 決して! 高いばかりがいい車ってわけじゃないよね! そうだよね! ね!」

 うーん……地雷を踏んでしまったかもしれない。


「そうですね……」

 としか答えようがない。


「でも……今度、一緒に乗せてもらおうかな? 折角だし!」

 なんだよ……その地獄のようなドライブは……


「……なんて、冗談冗談。私はプリウス一筋だからね! 浮気はできんよ」

 ガハハと笑う校長の目は笑っていない。その時、背中に声が降りかかる。


「和久井先生!」

 振り向くと、相模原教諭が笑顔で駆け寄ってきていた。


「車! 買われたんですか⁉」


「はぁ、まぁ、これを……」

 俯き、存在感を可能な限り消し、控えめにレクサスを指さす。


「高級車じゃないですか! うわー乗ってみたいなぁ」


「……はぁ……まぁ……機会があれば……」

 歯切れの悪さを察してくれ、相模原! あまり深掘りするな!


「ハハハ……相模原先生。私の車もいい感じですよぉ! 乗ってみますか?」

 校長の余計な一言に、俺の背筋は凍った。頼む! うまく返してくれ!


「プリウスですかぁ……? 父が乗ってるんで結構ですぅ」

 俺の祈りは届かなかった。ほぼ最悪の返事に頭を抱える。


「ハハ……」

 校長は短く笑うと、


「……調子に乗ってんじゃねぇぞ……」

 俺だけに聞こえるように小さく呟くと、トボトボと歩き去ってしまった。


 それからというもの、校舎裏の端の端を選んで駐車しているのは、言うに及ぶまい。


 閑話休題。


お読みいただき、ありがとうございます。

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