9 ダンジョンへ
19時に投稿設定をするの忘れておりました…!
とうとうダンジョンへ潜る時がやってくる。
挨拶を済ませたい人にはもう確りと話をした後なのでさっさとダンジョンへ入りたいところなのだが、ダンジョンの前で行われている私のお見送り式は中々終わらない。どこの世界でもお偉様の話は長いようだ。
ダンジョンが生まれたのはペリカムから南西へ向かった先にある山の麓だった。
街道が途切れて少し歩いた先に直ぐ山肌が有り、ダンジョンはそこへガパリと口を開けるように発生していたそうだ。
入り口は大人が二人並んでも通り抜けられるのではないだろうか。
私へ激励を送るお偉方様たちの言葉を笑顔で、然し殆どの言葉は取りこぼしながら教会からダンジョンへ通うには子供の足だと難しいかもしれないと思案する。前世のように自転車があればまだ……。いや街中はともかく舗装が十分でない道が多過ぎるか。
いっそ教会の隣にダンジョンができてくれたらよかったのにな……。
通勤計画を練っている間に漸くダンジョンへ入る手筈が整い、私は一人その入り口へ立つ。
振り返れば胸に手を当てた神父様や、悲痛な顔をした両親、大きく手を振ってくれる友人たちが見えた。メリアは頑張って泣くのを我慢しているようだが、離れていても表情が歪んでしまっているのが分かる。
私は大丈夫だと伝わるように、大きく手を振り返して笑う。
「行って参ります!」
✴︎
ワッ、と集まった人々が歓声を送ってくれたようだったが、ダンジョンへ一歩踏み入ると全ての声は掻き消えてしまった。
そして、
『やあ。また会えたね。誕生日おめでと〜』
あの真っ白な空間で出会った神様がそこにいた。
いや、居たどころか、此処はあの真っ白空間そのものでは!?
あれ!?ダンジョンは!!?
私は目を白黒させながら辺りを見回す。辺りは白!白!白!白!…………なのだけれど、
「ん?前の場所じゃない……?」
前回の真っ白空間は、奥行きもなにも分からない程に白一色しかない場所だった。しかし今私が居る場所は、奥行きがわかる。大体十畳くらいの真っ白い部屋のようだ。なんと今回は奥に真っ白な扉まである。
『ま〜たキミは神のお言葉をスルーする〜。「また会えて嬉しいです神様!へへ〜!」ってなるトコだよ?』
まったく!と揺らめく白布は相変わらず中身が見えたりはしない。
自分のアルバも真っ白だからお揃いみたいだな、と関係ないことが頭をチラついて少し落ち着いてきた。
私はアルバの裾を片手で軽く摘んで、片手を胸に当てて礼をする。礼の作法は存じ上げないので思いつきのポーズだ。
「ではリクエストにお応えして……また会えて嬉しいです、神様!」
『お。ノリ良くなったじゃん!いいよいいよその調子〜』
頭を上げていいとは言われていないが、勝手に顔を上げて神様を見る。
「それから、『私』を私として此の世界に転生させてくれてありがとうございます」
『うんうん。心からの感謝は良いことだよねえ。姿は見せてなかったけど、聞いてたよ』
「えっ、近くにいたんですか?」
『そりゃあそうさ。神様だもの。僕は何時でも何処でも近くにいるタイプの神様なんだ』
「まるで別タイプの神様がいるかのようなお言葉ですね」
『いるいる。こっちの世界の神様は僕と全然タイプが違うよ〜。後で話したげるね。まあとりあえず座って』
神様が何も無い空間に腰掛けようとすると、何時の間にやら真っ白な机と椅子が出現していた。
しかも机には白いマグカップが二つあり、緑茶のような色の液体が入っている。……そこはホットミルクとか真っ白なものじゃないのか。
私の為に用意された足の長い子供用の椅子をよじ登れば、既に神様はカップを手にしていた。布に覆われているのにどうやって飲むのだろうと気になって観察してみるが、顔らしき位置で傾くカップから中身が溢れることも、布が汚れる様子もない。
なのに下されたカップからはしっかりと中身が減っていた。まじまじとその様子を確認していると今度は急にお煎餅やら和菓子の乗った皿が現れる。
『キミもどうぞ〜。違う飲み物がよかったら取り替えるよ』
「いえ、いただきます」
不躾に見つめる私を咎めもせず飲み物と菓子を勧める神様に、私はやや急かされるようにしてカップを取る。口にしたそれは、前世でよく飲んでいた玄米茶の味がした。どこかお茶漬けのような香りがする。
「美味しいです。これは、あっちの世界から?」
『ん〜。そうなるかな。僕の力で再現して作ってるって感じ。あっちの世界のものは大体再現して作ることが出来るよ』
なんせ僕神様だから、そう胸を張っているように見える。……いや布に隠されているからただ平坦に事実を述べただけかもしれないが。
「あっちの世界ってことは、こっちの世界のものは再現できないんですか?」
『そうだねえ。全く同じものは作れないかな。魔石とかこっちにしかないものは無理。ちょっとした干渉なら出来るだろうけど』
「へえ……」
神様といえど万能ではないようだ。管轄する世界が違うからだろうか。
『だから、キミへの干渉も完全ではなくなっちゃったんだよね』
「……はい?」
『ほら、キミこっちに転生したじゃん?魂は地球産だけど肉体はこっちだからさあ。僕の加護は付けれるけど、肉体への加護はイマイチっていうか。こっちの神の加護がついて漸く最強っていうか?』
「ははあ」
成る程分からん。




