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6 神の遣い



『神の遣い』という肩書きがあることで、街の人たちは私を受け入れざるを得なかったのだと思う。

なにせ神様の遣いだ。異分子として排除すればどんな咎が降るか湧くかもわかったものではない。

神様のお言葉がなかったら、今頃私は見世物小屋にでも居たのではないだろうか。


服を着ている為直に見える事はない自分の体を見下ろす。

今世での私の体には産まれたその日から、男性器も女性器もついていない。

まだ幼いから胸の膨らみもないが、恐らく今後成長してもそちらも育つことはないだろう。



なんと神様は正しく『私(無性の心を持つもの)を私(無性の体をもつもの)として』生まれ変わらせてくれたのだ。ブラボー!

そのままでは見世物小屋行きだろうと、『神の遣い』なんていう役割と言う名のお護りまで持たせて。


至れり尽くせりの現状を理解出来た日には、幼いながらに歓喜のガッツポーズをしてみせたものである。

……改めて今噛み締めてもサービスが過ぎる。美味しい話には裏があると相場が決まっているが、それはそれとして今一度私はガッツポーズをするのだった。


「……パキラ、御像の前ですよ。控えなさい」

「あ……、すみません。神父様」


突如崇める対象である神様像の目の前でガッツポーズを決めた私を神父様が嗜める。

神様に対して不敬もいいところだ。


「それで、……本当にダンジョンが生まれたら直ぐに入るのですね?」

「はい」


神父様の問いに、私は間髪入れずに頷く。

神父様も、メリアたちのように私が神様に会いに行って帰って来られるのか心配してくれているのだろう。

白髪とたっぷりの白髭を蓄えた顔を翳らせる神父様の手に自らの手を重ねた。

自分の手ながら小さい。代わりに強く其の手を握る。

今世で一番同じ時間を過ごしたのは、間違いなく彼だ。せめて少しでも安心してほしい。


「きっと大丈夫。私の帰る場所は此処だと思っております」

「……両親のところではなく、此処ですか?」

「両親のことは勿論好きです。でも、私を育ててくれたのは神父様ですから!」


いつか女か男かどちらかになるだろう。両親からはそういった期待と興味の視線が、顔を合わせるたび絶え間無く浴びせられる。

一方で神父様は無性である私を無性のまま認めて育ててくれている。

帰りたい場所が此処になるのは必然だ。……期待してしまう両親の心も分からないでもないから嫌えはしないが。


繋ぐ手を引かれ、神父様に其の儘抱き上げられる。ふわふわの口ひげが擽ったい。


「……そうですか。ふふ、ありがとう。パキラ、貴方の帰りを待っていますよ」

「はい!神の遣いがどういったお役目になるか分かりませんが、通いでオッケーな業務内容にしてもらいますよ!」

「貴方は本当に4歳ですか?どこで覚えてきたのやら……。ああ、アルスト商会でしょうか?」


商会の子供たちとお友達だから商会の大人に色々教えてもらっているのでしょうかね、と首を傾げる神父様に頷いてみせる。

実際、イセンとメリアがいるアルスト商会には何度か顔を出しに行ったことがある。

将来は二人のいずれかが商会を継ぐのだろうか?

ラナンはどんな仕事につくのだろう。まだまだ未来は分からないことだらけだ。


一先ず私は今の『神の遣い(仮)』から『神の遣い』になる未来だけは確定させようと改めて心に決めるのだった。

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