42 オンとオフ
昼食がカボチャにまみれた翌日、私は作業場を休んでペリカムのアルスト商会を訪ねていた。
普段は此のアルスト商会を継ぐであろうイセンとメリアを遊びに誘うためくらいでしか訪れたことはないが、今日の目的は遊びではない。
初任給。私にとって初めて自分で手に入れた金貨五十枚はそう呼んでいいものだと思う。
手に入れた額の大きさには疑問しか残らないが、そこは答えが与えられるものではなさそうなので深く考えないことにした。本当は件の天使のような女の子と会えるのが一番良いのだが……。
「よお、パキラ!最近忙しそうだなあ」
「異界の神様ったら、パキラをこき使いすぎじゃない?今からでも神の遣いなんてやめたらどう?」
「イセン、メリア!」
並ぶ商品の前でぼんやりしていると、店の手伝い着を身に付けた二人が私の元へとやってきた。
そう。今日私は此処アルスト商会にお客様として商品を買いに来たのだ。
「さて、っと。メリア、ここからは仕事の時間だ。今日は何をお探しですか?お望みの商品は何でも、此のアルスト商会がご用意致しましょう」
やたら丁寧に腰を折るイセンの振る舞いは様になっている。きっと商会を継ぐと決めて接客も勉強してきたのだろう。ガキ大将のような姿を覚えているせいで、どうにも違和感はあるが。
「ありがとう、イセン。多分店舗では置いてないかなと思うんだけど……」
私は何点か希望する商品を上げていく。イセンはそれを口を挟まずメモに残していくが、隣に居るメリアは終始不思議そうな顔で首を傾げていた。
「なんでそんなものがいるのよ?大体、そんなに買っていいの?王様からの寄付金使うなら神父様に」
「メリア」
辛抱たまらずといった風に次々質問を飛ばすメリアの名をイセンが呼ぶ。
名前しか口に出さなかったが、それ以上口を動かすなと睨み付け威圧している。普段二人が喧嘩する時は大抵イセンもメリアも大声を上げて騒いでいたから、静かにメリアを叱るイセンは新鮮だった。
流石に兄の怒りを察したメリアも渋々と口を閉ざす。だが未だ仕事とプライベートとの境を区切りきれないのか、拗ねた様子で裏へと戻ってしまった。
そんなメリアに、イセンはチラりと目をやるが呼び止めることはなくメモに再度視線を落とす。
「確かに店舗には在庫のない商品ですね。取り寄せに掛かる日程など確認して参りますので、今暫くお待ち下さい」
「ありがとう。……お昼休みになったら説明するよ」
「それは妹も喜びます。勿論自分も」
互いの視線が合えば、イセンは一瞬だけいつもの調子で笑ったように見えた。
大変申し訳ございません、現在文章を書く環境が中々整えられず……!8月中旬頃から更新再開出来るように致します!




