40 金貨五十枚
「え!?もう例の女の子が来た!?」
つい声を荒げてしまったが、許して頂きたい。
まさか木彫りのネコを売って欲しいと願いに来た翌朝に再来訪するなんて全く想像の範囲外だったのだ。
しかも、チェンに聞けばかなり朝早くに訪ねて来たという。
女の子は誰も作業場に居ないとは考えなかったのだろうか……?
それとも急いで此の街を離れなければならなくなって駄目元で来たとか、作業場に誰かいると知っていたとか。……既に女の子は帰ってしまっているから疑問の答えは何も与えられることはない。
とりあえず言えることは、昨日のうちにカゴ編みもラッピングも何もかも済ませておいてよかったということだけだ。
女の子に会えなかったのは残念だが、きちんとラッピングしたものを渡せてよかった。
然し女の子は問題も幾つか残していっていた。
「…………悪い」
「……こりゃあ、驚いたな……」
謝るチェンと、机の上に置かれた袋の存在に頭を掻くワンさん。
私は、何度中身を確認しても結果は変わらないと知りながら袋を開いた。
作りのしっかりした皮の小袋だ。紐を解けば、中からぎっしり詰まった金貨が顔を出す。
……一枚の銀貨も銅貨も混じってはいない。それが小袋にいっぱいだから、五十枚は入っているだろうか。
金貨五十枚。それは私の木彫りの対価にはあまりにも多過ぎる。
ワンさんが力を入れた木彫りならわからなくもない額だが、素人の作った歪なネコの木彫りに支払う金額としては到底あり得るものではない。
金貨どころか、銀貨一枚だってもらいすぎなくらいなのだ。
「あの子が来て、そこからなんか頭がフワフワしてな。……お代だって渡されたこれも、何でか何も考えずに受け取ったんだ」
「まあ。きちんと代金として払われたンなら貰って支障ないだろうが……」
「いや、いやいやいや!金貨一枚だって頂けないですって!私、その女の子にこれ返してきます!」
チェンがまた名前を聞けなかったらしいから、顔も名前も分からないけれども!
どうしても見つからなければ神様パワーで何とかしてもらおう。
「あー、……いや。代金は返すもんじゃねえ。それは相手にとっての価値だ。それを否定するな」
「でも」
「その子供にとっちゃ、それだけ支払う価値があるンだろうよ」
ただし作り手のつけた価値を否定して低く見積もる相手には反論して良し、とワンさんは付けたす。




