4 誕生
『私』はまだまだ闇の中。
おぎゃあ、おぎゃあ、
赤子が自身が生を受けたことを泣き声で主張する。
これが地球のドラマであったなら、ここで『元気な女の子ですよ』だの『かわいい男の子ですよ』だのと母親に宣言されるのだろう。
然しそういった宣言は為されることはなく、室内には困惑と畏怖と、様々混ざった固い静寂が流れる。
まあそれもそうだろう。
産み落とされた赤子の体が、臍の緒を切った瞬間淡く光り始めたのだから。
「……ひ…ッ、光って…、これは一体…」
震えながら漸く口を開いたのは赤子を取り上げた助産師だった。
母親は赤子が光っているのが見えないのか、出産の疲労でそれどころではないのか、ただ困惑顔をしている。然し只ならぬ雰囲気に呑まれてか、疑問を口にすることすら出来ないようだ。
『奇跡を見よ。これは神の言葉である』
僕は姿を現さぬままで真面目ぶって言葉を与えた。見当違いにそこかしこを見回す助産師の腕から赤子を取り上げる。
突如として光り始めた赤子を床に落とすことなく抱き続けていた彼女は褒めてあげてもいいかもしれない。
体が硬直してどうとも出来なかっただけかもしれないが。
『我は異界の神。この赤子を『神(我)の遣い』とする』
姿を見せない僕の抱いた赤子は、側から見ると空中へ浮いているように見えることだろう。
神への畏怖よりも目先の恐怖が見て取れる。
「神の遣い……?それは一体……」
我が子へ突如として与えられた役割。それを不安に思ったのか母親が問いを向けてくる。
だがそれに応えることはしない。
説明面倒だし。
『五年後、村の外れへダンジョンが生まれる。時が来たら、一人で向かわせよ』
それだけ告げると赤子を母親の腕の中へ下ろす。その赤子の体から僕の腕が離れると、徐々に光は薄れて消えた。
僕はそこまで見守ると、仕事は済んだと部屋から消え去る。
後には大人たちの沈黙と、状況を知らぬ赤子が残るばかりだった。