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39 語手:チェン


早朝、『私』はまだ夢の中。



その日俺は師匠であるワン、そして弟子見習いのパキラが作業場に来るよりもずっと早くに此処へ来ていた。

とはいえこれは今日に限った話ではない。このところ暫くワンおじからの課題を成す為、一人で作業出来る早朝に作業場へ来ているのだ。

ワンおじが居る間も作品作りは進めているが、課題に関しては早朝かパキラが居る間に制作するようにしている。作品作りに熱中し過ぎてしまうと周りへ気が配れなくなってしまう為、その内ワンおじに作りかけの作品を見られてしまうと思ったからだ。

パキラが居る間は、パキラが気を効かしてワンおじからの言付けを預かって俺との橋渡しをしてくれているからあまり心配は要らない。出来た妹分を持ったものだと思う。


妹分というには普通の少女たちより髪が短いどころか男と変わりないくらいだったり、一度もスカート姿を見たこともないが、俺はパキラが『男』でないことを知っている。

ワンおじが男女問わず木彫りを教えるだろうと伝えても普通の少女らしいことをてんでしないパキラには、きっと何か事情があるのだろう。だからパキラが『男』でないことはワンおじにも、他の誰にも話さないと約束したのだが……。なぜかパキラは気まずげに笑うばかりだった。

気を使われて恐縮していたのだろうか。ワンおじが言っていたが、パキラは変に遠慮してしまうところがあるらしいから。

とはいえ遠慮されてばかりではこちらも面白くない。いずれ、何故『女』だと言わないのか質問攻めにしてやろうとぼんやり考えながら作業の準備を整えてゆく。



ふと、作業に必要な道具を取る中で件の妹分が完成させた梱包品が視界に映った。

それは木彫りのネコを布に包んでカゴに入れ、リボンを巻いたものだった。

パキラの彫ったネコは、……素人の作品だ。味がある、愛嬌がある、とも言えるが、どうしても処理が甘く良作とは判断出来ない。

だが俺やワンおじでは作品を梱包だのラッピングだの考えたりもしないから、こうして綺麗に贈答用に用意された作品を見ると素直に感心した。

これなら、昨日来訪した女の子も喜ぶだろう。


そう考えた俺の心に返事するように、作業場の扉が叩かれる。


コン、コン。

控えめなノックだが、早朝に扉を叩く音は異質で俺は扉を凝視した。



「おはようございます。朝早くから、大変申し訳ございません。どなた様かいらっしゃいますか?」


扉越しに小さく、可愛らしくも艶のある声が聞こえた。その声が誰のものか理解するや、俺は扉へ向けて足を進める。

扉を開ける前から、昨日彼女と会った時と同じように頭へ靄がかかっているようだった。

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