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38/42

38 完成


ターニャさんが昼食を持ってきてくれる報告とその経緯を説明すれば、チェンはよくやったとばかりに私の頭を撫でて笑った。

こういうスキンシップが多いのも、女の子がチェンに落ちる要因の一つだと思う。などと関係無い考察が過ぎる。



「これでワンおじもターニャさんの気持ちに気付けばいいんだが」

「あ、チェンも知ってたんだ?」

「まあなぁ……。ワンおじ以外、街のみんな知ってるんじゃないか?」


流石にそれは大袈裟では、とも思ったが、ターニャさんの熱視線を考えれば否定も出来ない。

ということは、街全体がターニャさんとワンさんを生温く見守っていたりするのだろうか……?

そうだと知っているだけで、別に応援はしていないのかもしれないが。


「ワンさんはターニャさんのことどう思ってるんだろ?」

「さあ?俺が弟子に来る前からよく知ってるみたいだけど、親子程年が離れてるし。娘みたいなものだと思ってたりしてな」


私としては好きならば歳の差があったって、同性同士だって、身分差があったって、結ばれていいとは思う。

その気持ちを押し付けるつもりはないが、お互いの気持ちがお互いに向いているのならば報われて欲しいものだ。




✴︎



それから程なくして、ワンさんが作業場に帰ってきた。

『ターニャには勝てねえ』と言っていたから、お安く昼食を作ってもらうことになったのだろう。

労働の対価を値切って安くしていくことが多いのに、其の逆を求めていたのだから中々面白い話だ。


「男所帯だから助かるンだが、ターニャはお人好し過ぎる」

「ワンおじが確りしないからだろ」

「お前もだろうが。んで、パキラ。そこ通す順番が違え」

「ええっ?」


ワンさんとチェンが軽口を言い合う中、私はカゴ編みに悪戦苦闘していた。隣から時折ワンさんの指示が飛ぶ。

お客様に売る作品の為に作業場にあったカゴと同じものを作りたいと進言してみたところ、凝ったものでないならワンさんが教えられると言ってくれたからだ。

早くから木彫りに出会ったワンさんだが、木彫りを極めながらも他の手仕事技術も木彫りに応用出来るかも知れないと吸収していったらしい。

流石の木彫り馬鹿だ。


「……パキラ、俺が代わるか?」

「だ、大丈夫ですぅー!出来るから、チェンは自分の作品やって!」


私が手間取っているのを見かねたのかチェンが立ち上がって歩み寄ってくるが、不出来だと自分で理解している作品を見られるのは中々に恥ずかしい。

片方の掌をチェンへ向けまるで犬に待てを命じるようにして制そうとする私に、チェンは渋々といった顔で元の位置に座る。

それはまあ、チェンが作った方が綺麗なカゴは出来上がるだろう。だが私の作品を欲しいと言ってくれた初めてのお客様相手だ、ここは自分でカゴも用意したい。



結局その日は午後いっぱいカゴ作りにかかりきりになってしまったが、ワンさんの教えのおかげで帰宅時間までに木彫りの猫をカゴに納めてラッピングすることが出来た。

これでいつ天使な女の子が訪ねて来ても大丈夫だ。

多少結んだリボンがヨレていたり、よく見ればカゴの目が荒いところもあるが、パッと見は中々贈り物らしく仕上がったのでご愛嬌というやつで願いたい。


「よかったな」

「はい!」


完成した満足感に浸っている私は帰り際にワンさんからそんな言葉を貰って、強く頷くのだった。


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