30 ネコの木彫り
先ずはワンさんの作った木彫りをお手本にネコを彫ることになった。貸してもらったお手本はデフォルメされたずんぐり丸い形をしており、あまり細かい掘り込みは無い。
聞けば、チェンを弟子に取った時に幾つか共に作って学ばせた時のものらしい。
「オレのとそっくり同じにしろとは言わねえから、好きに彫ってみろ。他に彫りたいものが出来たらそっちでもいい」
「はい!」
初めに大きく木材を削る平刀の使い方だけ教えられ、下絵と併せて終われば声をかけろと告げてワンさんは自分の作業へ移った。放任だが、きっと質問すれば嬉々として何でも教えてくれるのだろう。
ワンさんが離れると、今度はチェンが寄って来て平刀へ木槌を打ち付ける時の注意点を教えてくれた。
試しに木槌を片手で持って教えをこなしてみせようとするが、思ったより六歳の腕力は非力で少し木槌が重く感じる。
「木槌がフラついてて危ない。待ってな、もう少し軽いの持ってくるから」
「……ごめん」
不甲斐ない、と少し悄気た私にチェンは木槌を見繕いながら笑った。
「兄弟子らしく指導するの、ちょっと夢だったんだよな。その調子でどんどん頼ってくれよ」
仄かに笑みを浮かべながら此方が安堵するようなことを宣うチェンは、まだまだ子供ながらスパダリの未来が約束されているのが見てとれる。
容姿も整っているし、これは無自覚に好意の矢印が刺さりまくるだろう。
「頼りにしてるよ!チェン兄、って呼んだ方がいいかな?」
「なんかむず痒いな、チェンでいいって」
「ふふ、じゃあせめて面倒見てもらう御礼はしないとね!……虫探し、手伝うってのでどう?」
後半はワンさんに聞こえないように声を潜めて問いかける。
悪戯に笑ってみせれば無言のチェンが少し距離を詰め、肩が軽く触れ合った。
「……言ったな。色んな虫を観察してみたいから、よろしく頼むぜ?」
小声で呟きを返しながら笑うと、チェンはかなり小ぶりな木槌を手渡して作業に戻っていった。
流石に私の腕力への過小評価が過ぎる木槌を平刀の底に打ちつけ木材を削っていく。存外使いやすいそれに、まだまだ私は子供なんだなと再認識した。




