3 おっけー
異世界。
小説や漫画、ゲームでの知識しかないが、いったい其処はどんな世界なのだろう。
魔法が使える?竜や魔物がいたりする?
正直な話、とても興味はあるのだ。ただ自分では恐らく神様の見たいストーリーは見せてあげられない。
「なら、私以外の人を転生させた方がいいんじゃないですかね?」
神様が私を選ばない、それは私の命がここで終わるということに他ならない。
転生ということは姿形も変わるのかもしれない、しかも生まれる先は異世界、それでも生きることに未練が無いわけじゃない。
未練があるのに、私はそう聞いてしまう。
『ここで消えたくないくせに』
「ゔ……」
『大丈夫ダイジョーブ、僕は寛大な神様だって言ったでしょ?さっきはちょっとビックリしちゃったけどさ。主人公が無性でも、ノンセクシュアルでもいいじゃん』
「ええ?」
今度は私が困惑の声を零す番だった。
だってそうだろう。物語の主人公といえば、大多数が共感できる人物であるべきなのでは。
『そんな決まりありっこないよ。主人公は一人ひとり違うんだから』
でもそれにしたって其れが私で、いいのだろうか。
『いいよ。僕が許すよ』
……私は私のままで、いいのだろうか。
『神様が認めるんだから、それでいいんだよ』
家族にも、友人にも、その他大勢が見る『性』を求められた。
それでも自認する自分を主張し続けたが、誰かに認められたのはこれが初めてだった。
全ての人に拒絶される程、酷い差別を受けた訳ではない。
家族にはどちらかの『性』を求められた。
一部の友人と知人は、私を理解できないと離れていった。
一部の友人は理解をしてくれようとした。でも、その先にあったのは私へ恋情を抱いたと心も体も求む言葉で。それを受け入れられない私は今度こそ認められなかった。
無性で、人に性的欲求を持たない。
そんな私を初めて認めてくれた相手が神様とは、なんとも光栄なことではないか。
人の魂を『地球の記憶を持ったまま転生した物語がみたい』という理由だけで留める傲慢で寛大な神様。
そんな神様が認めるのなら、私も今までよりもっと我儘に生きてもいいのかもしれない。
私は神様相手に笑ってみせた。取り繕わず、少し滲む視界を細めて歪に。
「私は消えたくない!異世界でもどこでもいい、私の思う性のまま転生して生きていきたい!」
そう言葉にすれば、神様はなんとも軽い調子で『おっけー!』と答えるのだった。
✴︎
そうして私の世界は暗転した。
意識はある上、両の目も開いているのだけれど何も見えない。
先程までの真っ白な世界も如何なものかと思うが、真っ黒の世界というのも困りものだ。
『白でも黒でもないグレーなキミには好まない世界かな?まあ人間で一色の世界が好きな人は稀だけどさ』
神様の声が聞こえた。
その声は上から下から前後左右様々な方向から聞こえたようで、なんだか不思議な感覚だ。
『もうすぐ転生が完了するよ。僕に楽しい物語を読ませてね』
それ以上は何も聞こえず、私の意識も途切れていった。