29 弟子見習い開始
「きてるな、ボウズ」
チェンと二人で隠した紙束に気付かなかったらしいワンさんが私を見下ろして満足げに頷く。
もしかしたら気が付いていてはいるが追求しないでいてくれているのかもしれない。そうなら、ワンさんの為にも是非そのまま気が付かなかったふりをして欲しい。
私の絵はともかく、チェンの絵は中々虫の特徴を捉えていてリアルだから……。
「今日からお世話になります!」
「まあそこまでオレに教えてやれるこたねえんだが。とりあえず道具のことはチェンに聞いとけ。……挨拶は済ませてンだろ?」
「「はい」」
チェンと揃って頷いてみせれば、ワンさんはまた一つ頷いてみせた。
それから一言も無く歩き出したので私が立ち尽くしているとワンさんの後に続いたチェンに手招かれる。慌てて小走りで後を追うと、ワンさんが積み上げられている木材から一つを手に取るところだった。
木材は大体が四角く切られており、正方形のようだったり長方形だったり大きさもまちまちだ。
「ここにあるのは建築屋から貰った端材でな。手慣らし用に使ってるもんだ。コレなら幾ら使っても構わねえ」
「ありがとうございます!」
「これ、偶に良い木材混ざってるぞ」
横から手を伸ばして積み上げられた端材の幾つかを手に取り確認するチェンが、言葉にしながら『ほら』と一つを差し出してくる。……が、残念ながらながら他の木材との違いが分からない。
沢山ある他の木材より色味が濃い、だろうか。
「お。いいのあったなチェン、よこせ」
「いやだ。ワンおじ前に黒の上物取ったろ」
俺だってあれ使いたかったのに、とチェンが恨めしそうにワンさんを睨む。
なお私はビギナーズラックでレア木材を手に入れる夢を抱き端材を漁ったが、何となく色が違うと思い選んだ木材はただ日焼けしてしまった普通の木材だった。残念。
木材を選んだ後は、完成品やら散らかった木材やらゴミやらを少し整理して私も作業が出来るスペースを作った。
とはいえ私のやる作業は大人の手のひらにギリギリ乗るサイズ木材での木彫りなのでそこまで場所を取るわけではないのだが、その作業をワンさんかチェンが常に確認出来るように二人が作業出来る場所も確保したという具合だ。




