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24 むかしばなし


「そんでボウズは……、あー、オレぁまだ名乗ってなかったな。オレはワン、食うのに精一杯な木彫り師だ」


ワンさんは私に問いを投げようとして、名乗りに舵を切った。ここまでのターニャさんとのやりとりで彼がワンさんであることはほぼ確定していた訳だが、己の中ではじめの挨拶を欠くのは良しといかなかったのだろう。子供相手に律儀な人だ。


「私はパキラと申します!出身はペリカムで、暫くの間グラマトに滞在する予定です」


出身地については嘘を吐いても仕方がないので本当のことを言う。だが滞在というのは嘘だ。毎日夜には教会に帰るつもりでいるのだから。


「ほお。ペリカムたあ遠いな。ンなトコからわざわざ此処に?」

「ええと、色々な街を見て回るつもりなんです。私、やりたいこと探しをしていて……」

「なんだそれ」

「……今口に出してみて自分でもなんだそれなんですけど。なんか、熱中出来るものを探してて」

「……その歳でかあ?」


なんだこのガキ、と分かりやすく顔に書いてあるワンさんにジロジロと観察される。とても居心地が悪い。


「熱中出来ることには、早く出会った方が人生楽しそうじゃないですか!」

「ハッ、そうでもねえぜ?」


ワンさんは行儀悪く肘を机に乗せて茶を啜る、自嘲めいた笑いに私は首を傾げる。


「オレもボウズくらいの時から木彫りにのめり込んじまったがな。親に反対されるわ勘当言い渡されるわ、楽しいなんてモンじゃなかった」

「ワンさん……」



片手に持つカップを半端な位置で止めたままワンさんは呟く。気遣うような声音のターニャさんが呼ぶが、その瞳は伏せられてどこか此処ではない場所を見ているようだった。


「ま、オレから木彫りを取っちゃあ何も残らねえからな。木彫りに出会えて良かったとは思ってンだ。ターニャだってそうだろ」

「ええっ、私っ?」


一度は湿っぽく沈んだ空気は、カラッと笑うワンさん自らが霧散させた。

よもやここで話を振られると思っていなかったのか、ターニャさんは狼狽気味に自分を指差している。


「此の店は元々ターニャの親父さんの店でな。ターニャはガキの頃から此の店継ぐって頑張ってきたんだよ。苦労したが、それで良かったってクチだろ」

「私は反対されなかったし苦労なんて……、したけど!」

「したんですね!?」

「したよ!だってお父さんもお母さんも私が仕事覚えきれてない内に旅に出ちゃったんだもの!この五年で帰ってきたの一回よ!?」


ただ店の商品を売るばかりならターニャさんも苦労しない。お得意さんだって知っていて可愛がってもらっていたらしい。仕入れ先についても職人さんの何人かとは面識があったらしいが、仕入れ数や値段の交渉、子供が踏み込んでいなかったものについての説明も碌にされていなかったとターニャさんは文句を零す。

それでも両親を嫌ってはいないのだろう、眉を寄せて口を尖らせてはいるがターニャさんの顔はどこか明るい。



「熱中出来るモンに出会えたって楽しいばっかじゃねえってこった。それでも離れらんねえ。ボウズが探してンのがそういうもんなら、……まあ木彫りを試させてやるくらいはしてやらあ」


茶を飲み終わったらしいワンさんは目を細めて表情を和らげる。三白眼で言葉遣いは少し荒いが、この人は優しい人なのだろう。

私は頭を下げた。


「よろしくお願いします!」


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