表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/42

2 Xジェンダーでノンセクシュアル



これは神の御言葉である。



『キミ、ハーレム系男主人公と逆ハー女ヒロイン、どっちになりたい?』


「なんて?」



思わず素で聞いてしまった。


いや聞き返しもするだろう。神様とやらの口から出てくる言葉にしては、なんというか、俗っぽいというか、なんで知ってんだそんな言葉というか……。


『そりゃあ神様だもん、なんだって知ってるさ。僕のお気に入りは能力があるのに冒険パーティから外されてハーレムつくってく系かなあ。最後にざまあを添えて』

「添えものが物騒」

『まあまあ、いいじゃん。転生しちゃおうよ。ハーレムに出来るかは自分の努力だけど美形にしてあげるからモテやすいし、記憶も引き継いであげるし、能力値も盛りに盛ってあげるよ。男と女、どっちにする〜?』



そんなパンとライスどっちにするみたいな軽さで聞かれましても。

転生のお誘いとはこんな感じで行われるものなのか。というか神様のお気に入りシチュエーションといい、能力値という言葉といい。なんだかとても異世界なのだが、もしや異世界転生でも勧められているのだろうか。

私は弾む声で軽く体を揺らす神様に渋い顔を向ける。


「私どっちにもなりたくないんですが」



神様の動きが止まる。そして僅かに片側へ傾いた。首を傾げているのだろうか。



『なんで?あ。ハーレム系嫌い?まあ、そういう人間も多いよね。一途系も僕は好きだなあ。一途路線で行きたい場合は先ず子供の時から周りにアピールが大事だね』

「いやそうではなくて」

『あれ?それとも恋人いたっけ?殺して一緒に転生させる?』



めちゃくちゃ怖いこと言うな!?この神様!!!!


「そうじゃなくて!私は男にも女にもなりたくないんですよ!」



シン、……と、真っ白な空間に幾拍か無言の時が流れる。

ややあって、神様のカーテンが小さく揺らめいた。もしかすると、カーテンの中で顔を掻いたり腕組みをしたりしているのだろうか。



『……僕キミのことトランスジェンダーだと思ってたんだけど、違いそうだね?』

「Xジェンダーですね。ちなみに自分は無性だと自認している次第です」

『そっちかあ』

「更に言うとノンセクシュアルなんで、相手は作らないつもりですよ」


『ええ』と、困惑がカーテンの奥から聞こえた気がした。



神様が言った『トランスジェンダー』、私はそれにも該当すると言ってもいい。

だがきっと神様が言ったトランスジェンダーの意味合いは『他の人から見られる性別と自認する性別が違う』といった内容だろう。

それは私を示す言葉とは違う。

神様の言う内容であれば、私は『周りからは男だと思われているが自分では女だと思っている』もしくは『周りからは女だと思われているが自分では男だと思っている』このどちらかであるということになる。

この場合『トランスジェンダー』より『トランスセクシュアル』と言ってしまった方がいい。

『トランスジェンダー』という言葉が示すところは広すぎる。


しかし『Xジェンダー』はそうではない。

Xジェンダーは自分を男だとも女だとも自認してはいない。

ただこの説明でも十分ではなく、Xジェンダーにも色々いる。

大まかには4種ほど、《中性/両性/不定性/無性》だ。



自分は男と女の中間に立つと思う中性。


男でもあり女でもある、両方の性を持っていると思う両性。


ある時は男、ある時は女、場面によって性自認の変わる不定性。


そして自分は男でも女でもないと思う無性。



私はこの中の《無性》であると自認している。

お前の性別は何だと問われれば、この世界には性別を表す言葉は男か女かしかないので『性別は無い』と言う他ないのだ。

生前はアンケートに答える度に性別解答欄に悩まされた。



そしてもう一つ、『ノンセクシュアル』についても触れさせてもらいたい。

ノンセクシュアルというのは、恋愛に関するセクシュアリティのことだ。

恋愛に関するセクシュアリティもまた数が多い。

私の自認する『ノンセクシュアル』のみ語ると、これは『誰かに恋をすることは出来るが性的欲求は抱かない』というものだ。


そう。私は性的欲求を相手に抱かない。抱けない。

だから此の神様が言う『ハーレム主人公』も『逆ハー女ヒロイン』も全力でお断りしたい。


なにせ恋愛は出来たとしても、肉体関係は持てないのだ。

心さえ繋がっていればたとえ触れられなくても、という人間は結構いないもので。

たとえいたとしても、私の為に触れるのを耐えてもらうというのも心苦しい。


そんな我慢を強いるくらいならば誰とも付き合いたくはない。



『厄介な子だなあ』



神様が呟く。自分でもそれは大いに同意出来るが、それが自分のセクシュアリティだから仕方がない。

変えたくて変えられるものでもない。


「すいませんね。だからハーレムとか逆ハーとかそういうのはお応え出来ないかと。ああ、記憶を消すならセクシュアリティも変わるかもしれませんけど……」

『そんなのつまんないじゃん。僕、地球人の記憶がある異世界転生が見たい気分なんだよね』



やっぱり異世界転生なのか。

気分だけで人の記憶の有無を決める神様は暫し唸り声を上げながら揺らめいていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ