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19 カボチャの壁


店内へ入るかどうか悩むついでにカボチャの壁を改めて見てみる。

建物の一階部分を埋めるほどの高さを持つ其の壁は、見れば見るほどカボチャだった。もしも彩色されていたのなら本物のカボチャと見紛うことだろう。

なんならこういった色の品種なのだと言われてしまえば此の状態でも信じるかもしれない。ここまで綺麗に壁になっていなければの話だが。


これだけうず高く積んで危なくはないのだろうか。こうも堂々と壁になっているのだから、ちょっとした地震や、人が触れるだけで崩れてしまうということはないのだろうが。

きっと大丈夫だろう。そう思いながら木彫りのカボチャに触れてみようと手を伸ばして、……その手を引っこめる。

万が一、万が一このカボチャの壁が崩れて木彫りカボチャで圧死なんてあまりにも悲惨だ。


「あれ?触ってもいいんだよ」

「へっ?」


横側から聞こえた声に顔を向けると、いつの間にか開いた橙の扉から女性が此方を覗いていた。

焦茶の髪を背中側で一つの太い三つ編みにしたエプロン姿の素朴で可愛らしい女性だ。髪と同じ焦茶の目には店前の木彫りを無断で触ろうとした私を責める色は見えない。



「別の街から来た子でしょう?木彫りにあんな怖々触ろうとする人なんて、この街にはいないもの」


「あ……、すいません!勝手に触ろうとしちゃって」


女性に私を責める気持ちはなさそうだが、勝手に店のものに触れようとしてしまった後ろ暗さから私は頭を下げる。

女性は『いいって、いいって』と笑いながら店外へ出てきて私の隣へ屈む。


「面白いでしょう?この大量のカボチャ!私の好物なんだけど、此のお店を私が継いだお祝いに馴染みの職人さんがプレゼントしてくれたの!」

「プレゼント……」


中々独特のセンスをした職人さんだ。

然し女性はそばかすのある顔を仄かに赤らめ嬉しそうに笑っているので、余程このカボチャ壁を贈られて嬉しかったのだろう。美味しいもんねカボチャ。私はカボチャのポタージュが好きです。


「えっと、じゃあ触ってみてもいいですか?」

「勿論!すべすべで気持ちいいよ!ワンさん腕いいから!」


ワンさん、というのが職人さんの名前なのだろう。私は女性に見守られながらカボチャの一つを撫でる。……見つめる視線が優しくてこそばゆい。

カボチャは確かに女性の言う通り少しの引っ掛かりもなく指を滑らせてくれる。そして触ってみて分かった。一つ一つのカボチャは私の頭程度なのに、其の一つに触れても周りのカボチャが揺れたりはしていない。


「これね、一枚の大きな木の板をくり抜いてカボチャの壁にしてあるの。すごいでしょう?」

「えっ!?」


私が揺らがぬ壁の正解に行き着く前に女性から答えが与えられた。

すごい、よりも先ずどうやってその巨大板を移動させてどうやって作業したんだと軽く恐怖を感じる。

しかしここまでの物理的な大作を作る人は、きっと余程木彫りに本気で取り組んでいるのだろう。



「あの、お姉さん」

「なあに?」

「私、このカボチャの壁を作った人にあってみたいです!」

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