17 緑多き街、グラマト
神様の言葉に気付かされ全力でやりたいこと探しをすることにした私だが、結局皆の前では魔法を使わないことに決めた。
もし私のやりたいことが魔法の関係無いものだったら、学園に入る時間が惜しくなるかもしれないからだ。
ただ私とバレない場所では使うこともあるかもしれない。
『で?今日は何をやってみるのさ?』
神様の声が降ってくる。今私たちは、移動魔法でペリカムから離れた街に来ていた。移動してきたのは緑多き街と言われているグラマトだ。
移動魔法は基本的に行ったことのある場所にしか飛べないので今回は神様に連れてきてもらったが、次からは自分の魔法で移動することが出来るだろう。
グラマトは緑多き街と言われる通り山が多く林業が盛んだ。
ただ刈るばかりではなく植林にも力を入れていて、成長促進の魔法で伐採地域を限定し森を守っているのだとか。
そんなグラマトで今回やりたいこと。それは……。
「木彫りの熊作りです!」
『きぼりのくまづくり』
力強く言い切った私の言葉に、呆けたような神様の声が返る。
此の世界に木彫りの熊はないかもしれないが、木彫りの置物なんかは出回っている。
アルスト商会でも幾つか扱っていて、その入荷先がこのグラマトだったのだ。
確かにこの街なら原材料に困ることはないだろう。
『ふ、ふふっ、転移魔法使って、やることが熊の木彫り……!』
今回の目的を復唱した後に静かになっていた神様が小さな笑いを零して震えるのに気付いた私は眉根を寄せる。
「む。工芸品を馬鹿にしてるんですか、神様!」
『違う違う!ただ初めて街の外に出た理由が木彫りの熊で、ふふ、変なツボに……。キミ魔法使えばどれだけだって細かく木を彫れるのに』
「それじゃなんか自分でやったっぽくないじゃないですか!なんか、こう、地球でだって職人さんが作るからいいみたいなとこがあって」
こう、こう!ととぐろを回す動作をする私を眺めて、神様は『ああ』と揺れる。たぶん頷いたのだろう。
『なんとなく分かった。確かに便利な方だけで作るなら、地球だって機械で作った商品ばっかりになるもんね。手作りだからこその良さもある』
「それ!です!」
機会で作った商品も生前よく使っていた。むしろ殆どのものがそうだった。
だけど今回は自分の手でやってみたかったのだ。
神様の言葉に同意して何度も頷いてみせれば、神様は続けて『なるほど』と唸った。
『これも、やりたいこと探すってやる気出してから色々やってた内の一つになるのかあ』
「はい!って言っても、まだあんまりやれてないですけど」
そう。やりたいことを本気で探そうと思ってから、私はまず身近なことから始めた。
今までやったことがあるものでも、もしかしたら極めてみたいと思うものがあったのかもしれないと再度挑戦してもみた。
料理、掃除、裁縫、裁縫ついでに刺繍、畑仕事、生前の記憶からミサンガを作ってみたり、ひたすら走り込みをしてみたり、街の人の仕事を見せてもらったり。
謎に走り込んだこと以外は楽しいと思えるものも多かったが、まだまだ狭い自分の世界を広げたい欲の方が大きかった。
『人間は欲深いなあ。まあ頑張ってよ。僕は木彫りの熊作りだって見守る神様だからね』
さわさわと風に揺れる木々の間を通り抜け、私はグラマトの街に踏み込んだ。




