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16 がむしゃら



神様のおかげで魔法を使えるようになって良かったことは、隠れて魔法の練習を出来る様になったことだ。

魔法練習の為に魔法を使えるようになってよかったというのもなんだか変な話だが。


今私は周りから魔法を使うことが出来ないと思われている。

だから堂々と魔法の練習は出来ない為、神様から貰った腕輪のおかげで神様の居る場所へ行くことの出来る転移魔法は使えるのだと嘘をついていた。

『祈りは何処でも捧げられるが、神様も人間相手にお話ししたいことがあるようだ』と言えば皆信じてくれる。嘘をついてしまい心が痛いが、嘘ばかりでもない。

転移魔法が腕輪のおかげは嘘だが、神様が私とお喋りしたいのはきっと嘘じゃない。だって毎日のように話にくるし。

昨日も帝都の学園を覗きに行ってきたと話しに来て、教師の一人がヅラだとか、校舎二階に隠し部屋があって密会している令嬢がいたと楽しそうに教えてくれた。

他にも恋愛ごとをメインに色々王都のことを見てきては逐一報告してくれるが、そのおかげで私は若干後ろ暗い恋愛事情なども知ってしまった。……魔法と合わせて、こちらも秘密にしておかねば。




「それっ!」


鈍いゴガッという音が延々と反響して道の奥に響き続ける。

私から前方十メートル程のところにあるのは、正方形の鉄の檻だ。

一辺が五メートル程の大きさで作った為に私が暮らしていた一人暮らしアパートの部屋よりも大きい気がする。

というか一辺を五メートルにしてしまったせいで天井に檻の上部分が三分の一ほど埋まってしまっている。先程の鈍い音は岩の中に鉄が打ち込まれた所為で鳴ったものなのだろう。


魔法というのは想像力が大切なもので、どういったものをどんな理由で出すのか確り頭の中で組んでおいた方が精度と威力の高いものを出すことが出来る。

今私はこのダンジョンの天井を考慮に入れずに、ただ檻を作ろうと魔法を出した。今後は建物や洞窟内ではメートルで考えず目視で『このくらい』と判断した方がいいかもしれない。

檻を消して、檻のせいで空洞が出来てしまった天井が崩落しないように修復を行う。


今いるのはダンジョンの最下部付近だ。ダンジョンに踏み入る冒険者は数多くいるが、まだ十五階より下に降りてきたものはいないと聞いているので魔法の練習をしていても問題はないだろう。

此の階は神様の計らいで、最下部付近にもかかわらずモンスターの姿は無い。魔法は使えるといっても、実践経験は0なので実際とても安心した。

目の前にモンスターが来たら恐怖で固まって何も出来ないとかありそうだし。


「まあ実際問題モンスターと戦う予定はないんだけどね」

『あれ?そうなの?』


いつの間にか私の魔法練習を見学しに来ていたらしい神様に声をかけられる。ゴツゴツした岩肌を背景に立つ布おばけのような姿はなんともミスマッチだ。


「だって王様に言われてるじゃないですか。健康に長生きしなさいって」

『あ〜。あの子いいよね、王様なのに実は恋愛結婚なんだよ。一目惚れした令嬢と結婚したかったからって令嬢の功績を増やす為に裏で暗躍してたの中々見応えあったなあ』


え。そうだったんですか王様。王族だけでなく、貴族も恋愛結婚とは無縁だと思っていたから驚きだ。

というか暗躍って……?

また一つ神様経由の秘密のお話が増えてしまった……。



『ていうかさあ。キミ性には縛られてない割に、他のものに縛られすぎじゃない?』

「……ぅ、えっ?」


王家の闇にほんのり触れて、墓まで持っていく秘密がどんどん増えるなあと心内で苦笑していると飛ぶ指摘に心がチクリと刺される。

動揺から変な声が漏れた。


『『神の遣い』で健康に生きろって言われたから平穏に生きて、『王城』に居たら貴族と関わらなきゃいけなくて腹芸と人間関係が不安だから魔法を人前で使いたくないとか、自分でいっぱい選択肢潰してるんだもん』


つまんなくない?

そう付け加える神様の顔は見えないが、きっと呆れたと顔に書いてあるのではないかと思う。



「……でも、まだやりたいこと見つかってませんし」


『やりたいこと見つからないと好き勝手しちゃいけない?』


「そん、なことは……」



ない。

なんとなく、やりたいことがある人はがむしゃらに頑張るのだと思っていた。

やりたいことだってがむしゃらに探していいのか、……と、漸くそんな簡単なことに気付いて私は知らず俯かせていた顔を上げる。



「……神様」

『うん?』


「ありがとうございます!」


お礼を言いながら頭を下げると、神様は嬉しげに笑いながら揺れてみせるのだった。

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