15 異世界進路希望
進路選択。これは前世もひどく悩まされた。とはいえ悩んだ割に何も決めきることは出来なかったのだが。
何かを極めたいと思えないまま高校を卒業し、半端な時期に募集のあった事務の仕事に就いたものの無性を隠しきれずに人間関係が崩壊して退職。最終的にフリーターに落ち着いて、見知らぬ誰かに刺されて人生を終えることとなる。
……こんな経歴だからか、私は魔法を自在に使えるのがバレて王城に縛り付けられるのは避けたいと考えていた。
短絡的な考えかもしれないが、王城イコールお貴族様いっぱい。お貴族様イコール腹芸、人間関係大変!こんなイメージだ。
事務の仕事、これは薬局での事務だった。とはいえ資格の要る医療事務ではない。その医療事務員や薬剤師たちがその仕事に集中して務めることが出来るようにする為の、その他の事務だ。
掃除から備品補充、職員駐車場の管理、会議準備や来客対応、やることは色々とあったが、そこに不満はなかった。
ただその職場で私がXジェンダーであると知られた時、全てが変わった。
小規模な会社だったから、力のある人が私を気持ち悪いと判断すれば全員がそれに染まる。陰口だけでなく物理的被害やら私に上げられる報告に虚偽が混じり続けたことで退職を決めた。
なにせ真面目に仕事をしていても嘘の期限と嘘の報告数で意図的に私の評価が落ちていくのだからやる気も落ちるというものだ。
その後のアルバイト生活では人間関係の深入りを避けた為か、幸いにも厄介ごとはなく平穏に、……いや最後の最後に人違いで刺されるド厄介に巻き込まれてしまったのだが。
最期以外は概ね平和だったように思う。
今は無性である言い訳が効くとはいえ、平和に生きるのなら学園や王城は避けて生きていくべきなのだろう。
神の遣いとはいえ、性を持たない此の体は噂話のネタに事欠かない。
なのに何故スッパリ学園を進路の選択肢から消していないのかといえば、純粋に前世にはなかった魔法学校への憧れもあるからだ。未知のものを知るのは楽しい。
それに、そんな逆境すら押し退けてやりたいと思えるものが見つかる可能性もある。
前世では結局最期まで見つからなかったのだが。
✴︎
「あーあ。イセンとパキラも学園に行けたらいいのに……」
池に小石を投げ入れながら呟くのはラナンだ。
ラナンは全属性の初歩魔法が使え、規定の年齢になれば首都にある学園に通うことが既に決まっている。
初歩とはいえ、まだ八つなのに複数の属性魔法を使うラナンへの街の人からの期待は高い。
ちなみに、メリアも学園へ通う予定となっている。適正は強くないらしいが、商会の人間に学園卒業者がいるというのは『箔がつく』そうだ。
一方メリアの兄であるイセンは魔法適性が全く無く、また本人の希望で学舎には通わずに商売を親に叩き込んでもらうという。
私だけ何も決まらないままだ。まだ六つだというのに、学生時代に知り合いが私を置いて次々夢の為に進学や就職の道筋を立てていっていたのを思い出す。
「俺は学園に行っても学ぶことがないからな!ラナンが卒業後にうちの商会に来てくれるんならメリアを入学させる必要だってねえくらいだしよ!」
「兄様!私は学園で学ぶのを楽しみにしてるんですよ!それに、ラナン!まだ学園入学まで五年以上あるし、パキラだって可能性はありますぅー!」
ピシリとメリアの人差し指がラナンの眼前に突き立てられる。眼前というか、最早眼鏡に指が押し付けられている状態だ。これは眼鏡の人にやったら間違いなく怒られるやつだ。ラナンはメリアに弱いから怒られることはないけれど。
「おう、パキラ。学園に行かないってなったら俺と一緒に父様に経営学ぶか?神様が儲け話がお嫌いじゃなければだけどよ!」
「異界の神様は寛大だからね!儲け話もきっと好きだよ。経営を学んだら、協会のバザーでも大儲けできるかな?」
「ハッハ!出来る出来る!そうだな。『神様の遣いクッキー』なんて出したらどうだ?多分馬鹿みたいな値段で売れるぜ?」
学園に行かないかもしれない仲間がいるのが嬉しいのか、イセンは私の背を強めに叩いて笑う。とても痛い。
あとそのアイドル商法みたいなのをやるには私だとAPPが足りていないのだが。いや存在だけで客寄せパンダにはなれるのかもしれないなと、私のやりたいこと選びは更に暗礁へ乗り上げるのだった。




