13 お仕事の話
お仕事の話。それは勿論『神の遣い』のお役目のことだ。
だが先程、此のお役目は『特別な役割がある人間は魅力的だから』というただのステータスとして与えられたものらしいことを神様は語った。
果たしてやるべき業務はあるのだろうか。
『今考えてるのはねえ、パキラくんが祈りを捧げなければ異界から来ている僕の力が暴走してしまうって感じ。パキラくんのお仕事は一日一回祈ること!今日まで五年間僕は休眠状態で、これからはパキラくんが祈れるようになったから此方の世界の加護に加わるのだー!まあパキラくんが祈れる間だけだけど』
『……それ今考えまシタ?』
『そだよ?あ、たまーに僕の言葉を代弁してもらうこともあるかも』
いや、五年もあったのに突貫工事過ぎる。
というか無くても神様は別に暴走しない祈りを捧げるお役目って、名ばかりの『神の遣い』もいいところだ。
「……せめて本当に何かお役目があれば……、あっ。ダンジョンの管理とか!」
『なんと神様すごいので此のダンジョンは自動でモンスターが湧くし、冒険者が瀕死になったら入り口に戻される仕様になっておりま〜す。ダンジョンの管理人とか案内人になりたいって話なら此の山の所有者から雇ってもらえたらどうにかなるだろうけど、それは『神の遣い』のお役目とは関係なくなっちゃうね』
「ゔ……」
思いつきでダンジョン管理などと口にしてはみたが、もし本当に管理が必要な場合でもそれは結局駄々を捏ねて神様から仕事をもらっただけとなる。
まあそもそも管理の仕事すらなかったようだが……。
『うーん。お祈りだけじゃ不満かあ。でも意味のあるお仕事を増やしたらキミ、そこに時間使っちゃうでしょ?』
「それは、まあ。それがお仕事ですから……?」
『その真面目さが要らないの。『神の遣い』は勝手に僕がキミに付けたステータス!性別と一緒。『〇〇だからこうすべき』は前世で懲りたでしょ?まあ神の遣いのフリはしてもらわなきゃ困っちゃうけど、基本キミの生き方を縛るつもりはないんだよ僕は』
勝手にステータスは付けたが特にそれに縛り付けるつもりはないと宣う神様はとても放任だが、なんでもアリの姿勢は私を受け入れてくれた日から何も変わっていない。
確かにそうだ。前世では幾ら理不尽なことがあっても神様が助けてくれることはなかったが、どんな突飛なことをしても神様が止めることもなかった。
地球の神様というのは人間に干渉してこないもののようだ。……今はガッツリ私に干渉してきてるけど。
『慈悲深い神のような発言をしマスね。まあ此の適当神の為に貴方が何かすべきとは私も思いまセンが』
『そうそ。好きなことをしたらいいよ。祈る場所は何処でもいいから、此の街を離れてもいいし。魔法も今日から使えるようになるから、王都の学園に行ってもいいし!』
「それモテモテハーレム学園生活編狙ってません?」
『冒険に出てモテモテハーレム作る方でもいいよ!』
自分の欲を隠さない神様は布の下に隠された手をもぞもぞ動かしている。
うん。オッケーマークでも作っているのか、親指を立てているのか、それ以外なのか全く分からない。
私はなんだか気が抜けて机に突っ伏した。
「……通いどころかリモートでのお勤めかあ。皆と離れて暮らすことにならなくてよかったけど」
あれだけ泣いて見送ってくれた皆からしたら肩透かしもいいところだろう。
でもあの日常からまだ抜け出さなくていい現実に私は安堵の息を吐いた。




