12 悪い子の結末
『まあプリザからの祝福はいいや。なんでパキラくんのAPP上げたくないかは分かってるし』
『……、ッ……』
「え?」
私のAPPを上げたくない理由、というのはとても興味を惹かれる。なんせ自分の話だし。
然し女神プリザが唇をはくはくと戦慄かせてから強く引き結ぶ姿に『何故か?』と疑問をぶつける気持ちが萎えていく。
その話を広げるかどうかの着地は神様に任せることにして神様を見ると、神様は小さく体を揺すった。首でも振っているのかもしれない。
『大丈夫ダイジョーブ、言わない言わない。僕的には悪い話でもないし』
それはパキラ的、『私』的には悪い話だったりするのだろうか。
話の流れを神様たちに委ねはしたが、この一歩引いてしまうのも前世で自分の良くないところだったのでは。
「あの」
『ところでさ』
考えが纏まる前に口を開いた私は前世に比べてだいぶ心が自由になった。然し付け焼き刃の自由さは天上天下唯我独尊な神様に効きはしない。
『キミを殺した人いたじゃん?あの人死んじゃったんだ〜』
こんな爆弾落とされてしまえば、私の質問など頭の中でパチンと弾けて消えてしまう。
五年ぶりに盛大な間抜け面を神様に晒し、開いたままの口からは『へ……?あ?』と言葉にならない声が漏れる。
そこから質問されていないのに神様は言葉を続けた。
『なんでも通り魔に殺されちゃったとか。いやあ、人を呪わば……ってやつかな?悪いことは出来ないねえ』
こわいこわい。と、恐らく布の下で腕をさすっている様子の神様の声は全く暗くない。
殺人犯とはいえ人が死んだのに、矢張り神様というのは人間と倫理観が違っているようだ。
『……まあ殺されて良かったのではないデスか?あそこで殺されていなければ、あと二人殺していたのでショウ?』
『自分をフった人とその恋人殺すって計画は立ててたね〜。実行したとして成功したかどうかは分からないけど』
「でも……、それはつまり、殺人犯を殺した殺人犯が生まれちゃったんですよね」
こんなに殺人事件が多いなんて、いつから日本はそんなに殺人無法地帯になってしまったのだろう。
存外、私が無関心だっただけで元から悲惨な事件は毎日溢れていたのかもしれないが。
『そこは心配しなくていいよ。殺人犯を殺した通り魔くんは、その後すぐ事故死しちゃったみたいだからさ。パキラくんが殺されて〜、殺した殺人犯が通り魔くんに殺されて〜、通り魔くんが事故死して〜。死の連鎖はここでおしまい!』
おしまい!
と軽く言うものでもないと思う。本当は殺人犯が逮捕されて罪を償っておしまい、が良かった筈だ。
いや、そうしたら別の人が通り魔に襲われていたのだろうか?
そうすると罪なき魂が一つ犠牲になる。然し殺人犯は憎いが人を一人殺しても死刑にはならない可能性があり安易に犠牲になってもいいとは思えず私は唸った。
今更私が唸ったところでもう殺人犯も通り魔も死んでいるのだが。
『心配しなくても、ちゃんと悪いコトした子にはそれなりの沙汰を下すよ〜。良いコトした子にも勿論ね』
「そういう心配はしてないですが、……まあもう終わったことだしいいかなあ」
背もたれに寄り掛かると、思った以上に深い溜息が零れた。人の生死に関わる話はとても重たい。
見て分かる程の私の疲弊を察してか、見えはしないが神様はパン!と布の下で手を打ったようだ。
『そうそうおしまいおしまい!じゃあ、次はお仕事の話をしよっか!』




