11 APPたぶん8以上11未満
女神プリザが腰を落とすと、そこにも当然のように真っ白な椅子が出現して均衡の取れた其の体を支えた。
彼女の前に置かれたカップに入る液体は私の飲む玄米茶とは色味が違うようだ、別の飲み物なのかもしれない。
「女神プリザ様、こんにちは。パキラと申します。此の体を無性にしてくださったそうで……ありがとうございます!」
『……プリザだけでいいデス。別に良いのデスよ、願いは正しく叶えられるべきもの。そこの無責任神と私は違うのデス。神に伸ばす手は全て救われるべきでショウ?そこの神は違うようデスが?』
『プリザのは責任感があるんじゃなく、自己満足だと思うけどなあ』
責めるような声の女神プリザと、それを全く気にしていないようなのんびりとした神様の声……。
これは目元が羽とバシネットで目が隠されていても分かる。女神プリザは憎々しげに神様を睨み付けているようだ。
然しその言葉を更に買って文句を続けることは出来ないようで……。
なんで神様間の喧嘩の現場にいるんだ私は。
いや女神プリザからは神様に敵意を感じるが、神様からは女神様へ敵意を持っているようには見えないから喧嘩というよりは一方的に確執があるのだろうか。
暫し女神プリザが無言で神様を睨む時間が続いたが、その空気は神様により破られた。
『はい、このお話はパキラくんが混ざれないからおしまーい。それよりプリザさあ、パキラくんのAPPもうちょこっと上げてよ。今のままでも悪くはないけどさあ』
『……ふん。悪くないならよいではないデスか。この子は貴方の加護と祝福が恐ろしく詰まっていマス。私の祝福はこれ以上ビタ一文も差し上げまセン』
『そんなあ』
ええ〜ん、と、わざとらしく泣き真似をする神様を尻目に女神プリザはカップに口をつけた。
急激にぬるい空気になった二柱に安堵を覚えながら私は首を傾げる。
「APP……ってクトゥルフの?」
『あ。知ってる?いあいあクトゥルフ〜』
「いあいあ〜!って言っても、ちょこっとだけですよ。やったことはなくて、APPが見た目を示すのは分かるくらいです」
クトゥルフ神話TRPGは探索者を作成してシナリオをクリアする為にサイコロと対話を使い探索していくロールプレイングゲームだ。
私は実際に遊んだことはないが、幾つかこのゲームで使う特殊な言葉は聞いたことがある。
先程出た『APP』もその一つで、これは外見の良さを示しており高ければ高いほどいいとされているものだ。
探索者は自分で作ることが出来るのだが、このAPPも自分で決めることが出来る。ただし好きな数値に出来るわけではなくAPPは六面ダイスを三回振って決めることになっており、その数値は3〜18となる。
高い方がいいと言った通り、APP18が一番『顔が良い』。
『その認識でオッケオッケ。せめてあと2……1は上げたいんだよねえ。よく見たら顔が良いな、ってレベルが主人公っぽいよね。今の、まあ、……まあまあ悪くないかな〜、レベルでもいいんだけどさ〜』
「本人目の前にしてド失礼過ぎません?」
悪い、とは言われていないがあまりにも包み隠さない神様の言葉はとても心にグサグサくる。
私は私のままでいいと言ってくれたくせに勝手な神様だ。
『…………』
「……同情でAPP上げてくれたりしなくていいですからね?」
『……そうデスか……』
なんとなく視線を感じた気がして女神プリザを見れば、どことなく気遣わしげに私を見つめているようで、……私は小さく首を振った。
『同情するならAPPをくれ!』とは言わない。見目が良くなりたい欲はなくはないが、それより欲しいのはハーレムじゃないストーリーだ。




