10 女神プリザ
そこから私が微妙に理解出来るところまで質問をしまくった結果、分かったことがある。
私は『魂』が地球産だからこれは私の知る神様の管轄。
『身体』はこちらで生まれたからこちらの神様の管轄。
一人の身体なのに管轄が二つあるという厄介な状態らしい。
ただこれは私に限ったことではなく、異世界に来た者は全てそうなっているそうだ。
神様は私を魔法も物理攻撃やら何もかもEX規格のスーパーヒーローにしたかったが、もう一人の神様に止められて完全無欠パキラ計画が頓挫しているということらしい。
「真っ当な神様じゃないですか」
魔法も使えて物理攻撃も最強なんてバケモノにされてはたまらない。なんかそこまで強いと悪いことしてなくても世間様にラスボス視されて倒されちゃいそうだし。
『僕はただ無自覚最強系主人公ハーレムものがみたいだけなのになあ』
諦めてなかったのかこの神様……。
私は渋い顔で甘いどら焼きを頬張る。甘いものを食べると少し心の苦さが薄まるように感じた。久しぶりの餡子の甘さが心に沁みる。
『まあ今も十分最強なんだけどね。キミという存在は【地球】無しには在り得ないからさ、僕が干渉7割出来るって感じ』
「え」
『この世界の魔法は魂の素質によって使えるかどうかが決まってくる。だから魔法に関しては最大限に引き上げさせてもらったよ!この世界で一番の魔法使いになったんじゃないかな!』
「やめてくださいよ!」
『ついでに身体も多少は干渉出来るからね!まあ最高ランクまでは引き上げられなかったけど、魔法で身体強化かけたらドラゴンとかワンパンで倒せるんじゃないかな?』
「モテとかじゃなくただの厄災じゃないですか!!というか、そこまで強いなら既に神様の計画通りでは!?」
恐ろしい力を持ってしまったらしい体を自分で抱き締める。
然し神様は『いやいや』とばかりに首を左右に振った。
『それが万事僕の思い通りって訳にはいかなくてさ〜』
「……でも、私は今。魔法最強、物理そこそこになってるんですよね?」
『そうなんだけどさあ、キミの見た目とか性別いじれなくしてくれちゃったんだよねえ。あの子』
「…………は?」
性別をいじれなくした。その言葉に私は呆然と自分の身体を見下ろす。
男性器も女性器も無い、無性の体。
この世界に来られて一番喜んだのがこの体だった。やっと自分の思う性の体を手に入れられたと心から感謝したものだ。
まあ確かに物心がついてから鏡を見た時に子供時代の自分まんまやんけ!と思いはしたが、自分が全然違う顔になっていたらそれはそれで困惑しただろうからこれでいい。
「この体、神様が無性にしてくれたわけではなかったんですか?」
『そうだよ。前と同じでいっかな〜、って思ってたんだけどさあ。あの子ってば見た目だけ其の儘通して性別いじったみたい』
それって、それって……、
「サイコーの神様じゃないですか!」
『え?僕?』
「いえ、こちらの神様のことですけど」
どちらも神様には変わりないのだが、この理想の体をくれたのはこちらの世界の神様らしい。
ああもう、こちらの神様とかあちらの神様とか今更ながらややこしいな。
あと全然関係ないが『僕だってサイコーの神様なのにぃ』と拗ねている神様は、不敬ながらちょっと可愛い。
「勿論神様だってサイコーの神様ですよ?初めに私を『私』のまま認めてくれたのは神様なんですから」
『……でもでも、あの子のこと先にサイコーの神様って言ったじゃん』
拗ねていらっしゃる。
「理想の体をくれたもので、つい」
『僕の加護と祝福たんまりあげたのに!浮気者〜!』
ワッ!とわざとらしいほど大袈裟に神様が机に伏せる。頭上にある金の輪が此方に向くが、何故か布が無い輪の中を見てはいけない気がして目を逸らした。
「その加護やら祝福やらは寧ろ欲しくなかったなあ……。というか、私の体を無性にしたのがあっちの神様なら」
『……女神プリザ』
「女神プリザ?」
『この世界の神の名前だよ。あの子のことはプリザって呼んで。僕のことだけ神様って呼んで』
拗ね拗ね神様継続中のようである。
「……分かりました。プリザ様が私を無性にしたなら、私が生まれた時に神様が私を『異界の神の遣い』にした理由は?てっきり、無性の体を持つ私が見世物小屋行きにならない為のご配慮かと思ってたんですけど」
『ああ、アレ?特別な役割がある人間ってのは魅力的だからね〜』
「うん、…………うん?それだけ、ですか?」
『それだけだよ?だって別に遣いなんかにしなくても僕キミに会いにいけるし。神の御言葉である〜!とか言えば要求なんか直ぐ通るし』
それもそうだ。
私が生まれた時、神様は『神の御言葉である』と言って私のお役目を宣言したが、あの要領で啓示を行えば幾らでも希望を叶えられるだろう。
つまり、……またこの神様は『自分はこういう物語が見たい!』の為に我儘を通したのか。
『そういう勝手は、自分の世界でやって欲しいものデス』
予期せず知らない声がして、私は驚いてそちらに顔を向ける。
そこには女性……と思わしき人がいた。いや人ではないと一拍の後に理解した。
『僕、自分の世界は基本見てるだけにしてるんだ。悲劇も喜劇も。プリザはなんでもかんでも干渉しようとするけど』
『救いを求める手を取るのは、神として当然のことでショウ?』
入ってきたらしい真っ白な扉を閉じながら、不服げに机へ歩み寄る彼女こそ女神プリザらしい。その姿は人型に近いが異質な箇所も多大にある。
想像してみてほしい。
マネキンを頭部、胴体、両腕、両足の六つにバラバラにする。首は無く、部位それぞれは繋がっていないにもかかわらず、まるでそれらが繋がっているかのように自立して歩いているのだ。
ただマネキンの如くスタイルの良い体は其の儘放り出されているわけではなく、胴体部分のみスタイルのクッキリ分かるアーマーで覆われていた。全体の形としてはスク水に近いが、鎖骨を晒すUネックではなく詰襟になっている。また、その意匠は細かく様々な花や解読出来ない文字列が並ぶ。
腕には白い長手袋をしており鎧は無く、手袋より上の肌は確認出来なかった。
足の装備は重たく、足鎧は太腿の付根までフル装備だ。
そして頭部だが、バシネットで鼻下までが覆われている。バイクに乗る時に被るヘルメットのバイザーを下ろした状態のものを全て鉄製にしたような見た目というべきだろうか。こちらも細かい模様が刻まれているようだが、後頭部から目元へ被さるように畳まれた羽で細かいところは見えない。
バシネットの下から流れる髪は青色で、これまた現実離れした色だなと、それ以上に現実離れしかない女神様の姿に釘付けになる。
暫し放心したように視線をぶつける私に、女神様は視線を向けた……ように思う。なにせ目元が見えないので正確なところは分からない。
『……貴方が転生してきた子デスね?理不尽な死を遂げたと聞きマシタ。こちらでの生はどうか楽しんでくだサイ』
告げる声はとても冷ややかだが美しく、唯一肌色の覗く口元は整っており、ほっそりとした顎のラインは美しい。
唇は薄い青のリップで濡れているようだ、……これは画面映えする。ゲームとかで主人公に力を授ける為にイベントムービーが入るやつだ。
その隣で女神様の分もお茶を置き特に意味もなくクネっと体を揺らす神様を見る。うん。こっちは間違いなくゆるキャラ。




