Act.6
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エリシアちゃんとポステルの街を回った日から、数日が経過する。わたしが買って片方を渡した髪飾りをエリシアちゃんは、毎日つけてる。
わたしの方も、付けてるんだけど既にアクセサリーが付いてるんだよね、わたし。この黒いリボンカチューシャを。
髪飾りはそこまで大きくないか付けられるっちゃ付けられるけど。
「今日も結構稼げたわ!」
「ティアさんも順調そうですね」
「ええ。これもアリスのおかげよ。本当にありがとう」
素直にお礼をするティアさん。
ティアさんも大分、ポステルで安定して稼げてるようで安心できる。わたしは相変わらず、魔物の素材を売ってるだけだけど。
「それで、そろそろ稼げてるから、宿を取ろうかなって思ってるのよ。本当にお世話になりっぱなしで申し訳なくてね」
「わたしは別にどれだけ居ても大丈夫ですよ?」
「そう言ってもね……このまま迷惑かけっぱなしっていうのも」
「迷惑だとは思ってないよ」
ティアさんがそんな事を言ってくるので、正直に自分も口にする。
「ティアさん、居なくなっちゃうんですか?」
そこへエリシアちゃんも参戦。難しい顔をするティアさんに向けて破壊力抜群の上目遣いの涙うるうる攻撃……何か、エリシアちゃん次第にあざとくなってない?
いやまあ、可愛いは正義という言葉があるけどね。
「うっ……」
こうかはばつぐんのようだ!
「それに、また奪われたらどうするんです? まだここに居たほうが安全ですよ」
「それはそうなんだけどね……いや、次あった時は絶対にコテンパンにしてやるわ」
両手をグーにして掲げ、瞳に炎を宿すティアさん。どうやらまだお怒りのようだった。
「そう言えばティアさん、前言ってましたよね。盗賊なんかじゃないって」
「ええ。動きもそうだけど、あれは盗賊じゃなくて冒険者だと思ってるわ。心当たりはいくつかあるけど……」
「ティアさん、何かやらかしたんですか?」
「何も無いわよ……パーティー勧誘がしつこすぎてきつい言葉を浴びせたくらいしか」
「……それじゃないですか?」
でもまあ、しつこすぎるのも問題ではあるけど。
きつい言葉で断っただけで、荷物を奪うっていうのも何か……単純と言うか、幼稚というか。やってる行為は略奪と同じだし。
「冒険者ギルドに訴えるとか出来ないの?」
「訴えてもね……心当たりがあるだけで、証拠はないから言っても多分動かないわよ」
「それもそうですね……」
何処の組織も証拠が不十分だと中々腰が上がらないのは一緒のようだ。仕方がないのかもしれないけど。
「今の所、また襲われたりはしてないから大丈夫だと思うわ」
「やっぱり、ここに居ましょ、ティアさん」
「そうね……もうしばらくお世話になるわ」
ふっ、引き止め成功である。
これでしばらくお風呂はティアさんに任せられる。街とか村まで行ってわざわざ水を貰ってきてるって言ったらティアさんがお風呂に水を出してくれるようになったんだよね。
騙して申し訳ないけど……。
なので、ティアさんが居なくなったらまた創造魔法に頼るようになっちゃうし……申し訳ないけど、もうちょっとお願いします、ティアさん。
……あわよくばこのまま一緒に暮らしてくれないかな? などと黒いことを考えるのだった。
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「<タイム・ストップ>」
最早慣れた手付きで、ワンダーデスサイズを振り下ろす。時間が動き出せばたちまち、首が落ちては絶命する。
「首狩族とか言われそう……」
いやだって、時間止めて首落とした方が早く倒せるから仕方がない。倒した魔物を簡単に解体してはストレージへ放り込む。
結構魔物の素材を売り続けてるから懐もホカホカである。創造魔法から次第に、こっちの世界に合わせるようにシフトさせて行ってるからお金も結構必要になってくる。
野菜も、庭の畑でちまちま取れるようになってきたのだが、一番の問題はやっぱりお米だろうか。
あれは東の国に行かないと無いし、この辺りというか周辺国では一般的に食べられてないんだよね。
ポステルの店とかに稀にあるくらいだ。しかもその量も少なく、買ったとしても長持ちしないので、結果創造魔法となる。
朝ご飯の定番の目玉焼きに使う卵については、ポステルで良く売ってるのでそっちは問題ない。
味噌についても売ってるからそこは安心できる。調味料とかは結構地球と同じくらいなのかも知れない。
「まあ、このくらいかな」
ある程度狩り終えた所で、切り上げる。
次にやるべき事はミストルに行ってみよう! だ。は? とかそこ言わない。エリシアちゃんと約束したし、取り掛かるのは早い方が良いだろう。
「<転移>」
景色が切り替わり、クルトさんの馬車があった場所に飛ぶ。ミストルはこのT字路をまっすぐ進む所にあるようなのだが、地図からだと如何せん距離が把握できない。
まあ、進めばいつかは着くだろうという事で、ミストルに向けて出発するのだった。勿論、夜とかは家に戻るよ。
街道を歩き進む。こちら側はどっちかと言うと草原が多いようだ。草原が多いので視界は森よりは良好だ。自分の身長以上の高い草とかはないし。
「あれは……ホーンラビットか」
草原に多い魔物のホーンラビット。そこまで脅威な魔物ではないが、すばしっこくて小さいので、意外と厄介だったりする。
一本の長い角が目立つ魔物だが、その角は結構硬い。あれで一突きされたらぶっちゃけ、一溜まりもないと思う。だからこその防具とかなんだが。
「お」
そんなこんな、街道に沿って進んでいくと遠くの方に人工物が見える。ポステルにあったような城壁にも見える。
「あれがもしかしてミストルかな?」
思ったより近かった。馬車の場所から大体3時間くらいかな? とはいえ、そこまで遠く無かったんだ。
取り合えず、初めての街でもあるので、舐められないようにワンダーデスサイズを取り出して背負う。
これ、背負うためのチェーンみたいなのもあって、嬉しい誤算だった。
見た目にそぐわない大きな武器を持つ少女……当然目立つ。目立つけど、むしろ近寄りがたい雰囲気になるだろう。
あとは腰にでも魔物の首をぶら下げるのも良いかもしれないが、流石にそれは悪趣味な気がするのでやめておく。
ミストルであろう街に更に近づけば、その姿がはっきりと分かる。
物々しさを感じる城壁が、街を囲んでいる。ポステルと似たような感じだけど、城壁ってそんなものか。
そしてポステルよりも明らかに人数の多い門の入り口に並ぶ者たち。やはり国境が近いから結構な人が居るのだろう。
ポステルは一列で済んでるけど、ここは何と三列に並んでいるのだ。どの列も大体均等くらい。
国境が近いから審査とかも少し厳しくなってるのかな?
まあ良いや。わたしは素直に列に並ぶことにする。でも思ったより、前に進むスピードは早い。そこまで厳しいって訳でもないのかな?
「次の方、身分証お願いします」
並ぶこと約30分……ようやくわたしの番にになり、門番さんに言われたので身分証を出す。
「では次にこちらに触れてください」
「はい」
身分証の確認をした後、今度は何か水晶みたいなものが用意される。あれ、どっかで見た事あるような……。
「名前はアリス、女性、人間、15歳。そして犯罪歴は無し……問題ありませんね。ようこそ、国境の街ミストルへ!」
特に問題がないという事で、門を潜り抜けわたしはミストルへと足を踏み入れる。
「へえ……」
ポステルとはまた違った雰囲気の大きな街だ。人の数もかなり多いかも。こりゃ、ポステルより凄いかもしれない。
あっちこっちで客寄せをしていたり、広告のようなものを配っていたり……それ自体はポステルとそこまで変わらないが、ここまだ凄い活気の良い街だ。
港は当然無いが、その代わりに公園みたいな場所があったり、噴水もある。噴水ならアルタ村やポステルにもあったけどね。
あ、そっか。
あの水晶見た事あると思ったら、冒険者に登録した際に触ったものに似てるんだ。でも、門番は名前と性別以外にも、年齢や種族まで言ってたよね。
高性能なのかな? まあ、国境の街だからって事で。
さて、冒険者組合は何処だろなっと。
ようやく新たな街へ……。




