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Act.4


「こんな感じでどうでしょうか」


 そう言ってくるのはポステルにある、服屋の女性の店員さん……名前はリラさんと言うらしい。

 その隣にはリラさんの手によって服を着せられたエルフの少女……ティアさん。あの後、直ぐに支度をしてポステルにやって来た。


 アルタ村にも服屋はあったけど、小さい故に種類が少ないのでポステルの方にやって来た訳だ。こっちは交易都市でもあるので、服屋と言う物は複数店舗存在する。


 そんな服屋の一つであるお店にやって来たのだ。わたしにコーディネイトのセンスは無いので店員さんとティアさん本人に任せた。


 エリシアちゃんは家で色々としてくれてるので、やっぱりこの場にはいない。本当、あの子凄く良い子だと思うよ。

 家事も一通りできるし、頭も良いと思う。両親の記憶がないって言うのが悲しいけど、どうしようもない。それにエリシアちゃんにとっての家族はクルトさんだろうし。


 さて、そんな店員さんと一緒に姿を見せたティアさんと言えば……

 白と緑の混ざったフード付きマントに、袖なしの膝丈までの白い(若干薄緑が混ざってる)ワンピース、その上に濃い目の緑のコルセット。

 コルセットはX字に紐が通ってて、腰の部分には白と緑を基調としてウエストポーチを、手には白い短めのグローブを付けている。

 足は太ももまで伸びる白いニーハイソックスに、靴は薄緑のショートブーツ。


 何というか……緑と白を多く使われていて、エルフだ、って分かるような感じだった。わたしはあまり分からないけど……服なんてワンピースで良くないか?

 元男としてはそっちの方が着やすかったし仕方がない。シンプルで派手さもない。勿論派手なワンピースもあるんだろうけど。


「良いね。それ購入で。あと、それに似た感じの服をあと2着くらいかな?」

「え、ちょっと! 1着で十分だから!」

「でも、替えの服無いと困らない?」

「こっちの服とこの服を交互に着れば問題ないわよ」

「……そう? じゃあ、最後のそのシンプルな若草色のワンピースを一着お願いします」

「畏まりました」


 さっきの服1セットを、目に入った若草色のワンピースを購入し、店を後にする。ティアさんは購入した服のままだよ。


「えっと、そのワンピースは何? アリスのでもエリシアのでもないサイズよね?」


 店を出てポステルの道を歩いていると、ティアさんが聞いてくる。その通りでさっき買ったワンピースはわたしやエリシアちゃんでは大きいサイズだ。

 では誰のか? 決まっている。目の前のティアさんの物である。私服はあれで良いとして寝るときの服も必要だと思って、何も言わずに購入した。


「はい」

「え?」


 そんな訳でワンピースの入った袋をティアさんに差し出すと、困った顔をする。


「これはわたしとかエリシアちゃんのではなくて、ティアさんのだよ。ほら、私服はそれで良いとして寝るときの服は欲しいでしょ」

「貴女って人は……これじゃ受け取るしかないじゃないの」


 それはそうだ。返されないようにしたんだし……受け取らないという選択肢を取りにくくしたというのもある。

 不本意と言った表情ではあるけど、袋を受け取るティアさん。


「アリスってさ、損する性格なんじゃない?」

「そう?」

「出会ったばっかりの私にここまで普通はしないわよ。寝るところを提供してくれるだけでもありがたいのに」


 それはわたしの性格なのかもしれない。困った人は放っておけないっていう、そんなやつ。偽善者? まあ、それも当てはまるのかもしれないね。


 自分でも理解しきれてないから、何とも言えないけど。


「まあ、わたしの事はそう言う人だって事でよろしく。……そう言えば、ティアさんは武器とかはあるの?」


 一つ思い出すと、連続して他の事も思い出すよね。

 服は買ったから良いとして、武器とか道具とか。道具は良いとして、武器は無いと困ると思うんだけど。


「うーん、私は基本魔法を使うから、武器は無いのよね。強いて言うなら弓を使ってたけど、同時に奪われちゃったし」

「魔法、ですか? あ、そう言えばティアさんでどんな魔法使うの?」

「私は水と風ね。精霊魔法なら風が得意よ」

「ん? 精霊魔法?」

「知らない?」

「いや、聞いたことはあるけど見た事は無いかな」


 本の知識で魔法と精霊魔法があるっていうのは知ってたけど、実際使ってる人を見た事は無い。森の中に基本引き籠ってるからなのかもしれないけど。


「私たちエルフは生まれた時から精霊と共に暮らしてるのよ。だからエルフなら誰もが一つは精霊魔法が使えるわよ」

「へえ……」

「精霊魔法だけじゃ、痒い所に手が届かなかったりするから、私は魔法も使うようにしたんだけどね。自分が使えるのは水と風だけだったわね」


 水魔法か……今欲しい魔法の一つだ。水魔法が使えれば、お風呂を沸かすときに水をわざわざ創造魔法で用意する必要がなくなるんだし。


「見えないかもしれないけど、私の精霊は今肩に乗ってるわよ」


 ティアさんが自分の左肩を指差していたので、そこを見てみる。確かに小さな女の子のような子が乗ってるな。


「女の子みたいな子ですかね」

「え、見えるの!?」

「うん、薄っすらだけど」


 完全に見えてると言う訳じゃなく、半透明な感じでうっすら見えるだけだ。ただ、それでも女の子っぽいように見える。手を振ってみると、向こうも返してくれる。


「凄いわね……精霊が見えるなんて。あなた本当人間かしら?」

「紛れもない人族だよ。耳も尖ってないでしょ」

「そうよね……」


 わたしの事をじっと見るティアさん。どうやらエルフなんじゃないかと疑われてるようだ。キャラを作った時にも人族を選んでたし、間違いないはず……。


「不思議ね」

「念の為もう一度言うけど、わたしは人だからね?」

「分かってるわ」


 本当かな? さっきから凄いじろじろ見てくるけど。


「とにかく! ティアさん、もしもの為に武器も買いましょ!」

「服だけでもオーバーなのにさらに武器って、そこまでお世話になる訳には……」

「後で恩をきちんと返してくれるんでしょ?」

「そのつもりだけど……返しきれるかしら」


 という訳で半ば強引にだけど、武器屋にやってきた。武器屋も何店舗かあるけど、何となく選んだ場所がここだった。


「いらっしゃい。おや、これはまた可愛らしいお客様だこと。おーい、ルアお客様だよ!」

「今行く~」


 店に入ったまず出迎えてくれたのは、40歳くらいの女性だった。わたしたちを見た後、奥にもう一人居るみたいでそっちに声をかけていた。


「お待たせしました。えっと、今日はどういったものが御用入りですか?」


 奥から出てきたのは何と毛がもじゃもじゃな、小学生高学年くらいの身長の女性。ドワーフだ! 本物のドワーフだ。エルフの次はドワーフまで見れるとは。


「こんにちは。えっと、この人……ティアさん用の武器が欲しくて。得物(えもの)は弓なんだけど」

「弓ですね? あ、申し遅れましたが私一応鍛冶師をしてる、ルアって言います」

「ルアさん、か。よろしくお願いします」


 ドワーフの子はルアさんと言うらしい。

 そんなルアさんに案内されるまま、わたしたちは弓がたくさん並んでいるコーナーへとやってくる。


 かなりの種類の弓があって結構驚いた。デザインも豊富だ。良く分からないけど、このお店はもしかすると大当たりなのでは。


「凄いわね……こんなにたくさん」

「うちは、デザインと質をウリにしてますからね。えっと、そちらの方の武器として弓が欲しいという事ですね?」

「ええ。基本は魔法だけど、念の為にね……あ、私はティアよ。ティアって呼んで」

「お客様を呼び捨てにするのは……と言う事でティアさんとお呼びしますね」


 ティアさんとルアさんは、簡単に自己紹介をした後、一緒に弓のコーナーを回り始める。何か聞いたりしてるみたいだけど、正直武器にも詳しくないのでわたしはわたしで適当にお店の中を回らせてもらう。


 ショートソードとか、槍とか一通りの武器種もあって尚且つ、デザインが多い。ウリにしてると言うだけある。

 ふと、鎌は無いのかなと思い探してみる。自分の武器はワンダーデスサイズ……大きな両手鎌なので、他のはどんな感じなのかっていう好奇心なんだけども。


「おや、さっきのお客さんじゃないか。何か探してるのかい?」

「あ、さっきの……」

「そういや自己紹介してなかったね! あたいはカルマって名前だよ」


 何というか元気な人だと思う。近所のおばちゃんみたいな、そんな感じだ。


「わたしはアリスです。探してるというか、気になってるんですけど、こう両手で持つ大きな鎌ってありますか?」

「アリスって言うだね、よろしく! それで、鎌だっけ? 鎌ねえ……」

「無い感じですかね?」

「いや、武器としては存在してるさね。バトルサイズって言うんだが、使う人がめったに居ないから置いてないんだよ。アリスはそれを使うのかい?」

「まあ、使うと言えば使いますかね?」

「そうかい。人は見かけによらないって事ね」


 何でもバトルサイズって言う武器はあるんだけど、使う人が滅多に居ないみたい。使いにくいっていうらしいし、それならバトルアックスを使うって人が殆どだそうだ。

 まあ、鎌って三日月みたいな刃の形してるからなあ。扱いは難しいのかもしれない。しかも、両手と来たら余計にね……。

 でも、殴るも良し刺すも良し斬るも良しな武器だし、使い慣れた人が扱えば、それはそれは猛威を振るうみたい。


「すまないね、うちにはおいて無さそうだ。バトルアックスならあるんだが」

「いえ、自分の鎌しか知らないから、他はどうなってるのか見たかっただけですし」


 カルマさんにお礼を述べた後、向こうも何か終わりそうな感じだったのでわたしはティアさんと合流するのだった。




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