安らぎのひととき
ようやくここまできました。
予定では次回、最終回となっております。
ほんとはR18なとこも書きたいですが、それは別にするか番外編で書いてみたいと思う次第です。
「……で、二人きりでの話とは?」
「千代がお世話になる時の生活費のことだよ。お金は当然こちらが出すし、こちらの手伝いをしてもらった際には相応の報酬を用意する」
ん? と龍臥は首を傾げる。
千代が龍臥のお目付け役になるというのは理解した。しかし違和感があった。
お世話になる時、というのはどういうことだろうかと。
「あの……確認したいんですけど、千代さんは俺の住んでいるアパートの隣室に引っ越すとかですよね?」
「え? いや違うけど。君の部屋に住んでもらうよ。あの子を家に匿っていたわけだから特に問題はないだろう?」
部屋を借りるとは私言ってないよ、と綾人は大真面目に言う。
龍臥は目を丸くせざるを得なかった。
「いやいや、流石にそれはどうかと思うんですけど!?」
「なんでだい?」
「だって今更ですけど若い男女が一緒の部屋とか……無事に親子和解? みたいな空気になったんですから部屋くらい借りてあげてもいいんじゃないですか!? 千代さん女の子ですよ!」
「まさか君、千代に手を出してないのかい……!?」
思い切り吹き出す龍臥。
顔を真っ赤にして慌てる龍臥に対して「嘘だろ。なんて純心なんだ……」と綾人は驚愕する。
一体自分をなんだと思っているのだろうか、と不満を持つがそれよりも父親としてどうあなんだという気持ちの方が勝った。
「若い男女だし、忍者相手に匿うなんて常人じゃ考えられないことしてるからその見返りにてっきりしてるとばかり……我が娘ながらかなり美人だと思うんだけど」
「んなことするか!」
なんて親父だ、と本気で思った。
「ははは。あらためて君が真面目でいい子だというのがわかったよ。でも、私も孫の顔見てみたいな〜」
「責任が持てませんが!?」
「責任持てるなら?」
「……」
ボフッ、とさらに顔を赤くする龍臥。
そんな彼の顔を見ながら「冗談だよ」と笑う綾人。
「でも、君たちが合意なら私は止めないよ。避妊具なんかも必要なら言ってくれ」
「な、なんでそんなに協力的なのか俺には理解できない……」
「聞いているかどうかは知らないけど、私には妻が二人いる。炎と千代は異母姉妹だ……ま、なにが言いたいかというと、色恋沙汰には前向きだよ」
笑いながら言っているあたり、本当に積極的なのだろう。
「なんなら炎の気持ち次第だけど、あの子ともいいんだよ?」
「倫理観!」
「多少はあるさ。誰にでも言うわけでないことは理解してほしいね」
「そんなに信用されるほどの人間じゃないですよ」
「理由があったとはいえ妖魔と戦う。これだけで私には信用するに値するよ」
命懸けの戦いに迷うことなく突き進むこと、それは誰にでもできることではない。
強い復讐心があったとはいえ、無力だった少年が挫けずに超常の存在と戦い続けて今生きているだけでも奇跡的なことなのだ。
そんな彼が、見ず知らずの千代や他の忍者の後始末までしてくれたのだ。綾人からすれば評価しない理由がないのだ。
(自分の価値を知らぬは本人だけ、ということか。そこは悲しいところだ)
「なにはともあれ龍臥くん、今日の夜は宴だ。しっかりと楽しんでくれ!」
「もう好きにしてください……」
体調が悪そうに見えたのはなんだったのか、龍臥に縁はないが親戚のおじさんというのはこういうものなのだろうか、と呆れてため息を吐いた。
※
「ふぅ、いっぱい食べた……」
夜の宴会騒ぎが終わり、用意されている部屋に戻って座り、左手で腹をさする。
右腕はまだしばらくまともに動かせそうになかったが、千代が横で口に運んでくれるので食事には支障がなかったのが大きい。
炎からは「いいなぁ! いいなぁ!」と羨望の視線を向けられたが、炎の部下たちである山田と山下にも顔を合わせることができて直接お礼も言えたので目的を早々に達成できたのも幸いだっただろう。
ただその後、酔った大人組には千代に食べさせてもらう場面でさんざん揶揄われたので、一発ぶっ叩きたかったとは内心で思っていた。
「俺はああいう大人にはならないようにしよう」
「ご安心ください。お酒を飲まれて潰れるようになっても私が介抱いたしますので」
「そっかぁ。千代さんがやってくれるなら安心かなぁ……って、なんでいるの!?」
あまりにも自然に会話に入ってきたので、気づくのに遅れる龍臥。
そんな彼を見ながらイタズラっぽく千代は微笑み「最初からいましたよ」と言われる。
満腹で集中力が散漫になっていた彼では、気配を消していた千代に気づけるわけがない。さすがは本職の忍者である。
「びっくりしたな、もう」
「すみません。ですが、主人様とこうやって過ごせる今が嬉しくて」
「まぁ、正直俺も千代さんとまた過ごせるのは嬉しいけど」
ポロリと本音を漏らす。
「本当でございますか!?」
「本当だよ。あ、でも綾人さんにも言ったけど戻った時の部屋は別々だからね! あの部屋は狭いし、それにプライベートな時間は必要になるだろうし……」
顔が熱くなるのがわかり、龍臥は手で顔を押さえる。
「主人様もそう思ってくださっているなんて……私は果報者です」
そう呟いて彼女は龍臥の隣に座り、肩に頭を乗せる。
ただでさえテンパっている龍臥には追い討ちで、思考がままならなくなった。
本来、龍臥は女性に対しての免疫がほとんどない。今まで平気だったのは特殊な状況下だったからだ。
顔から湯気が出そうになりながらも、なんとか気持ちを落ち着かせて頭を冷やす。
「千代さん」
「はい」
「……さっきまでああ言ったけど、今日だけは一緒に寝ようか」
「喜んで。夜伽もしましょうか?」
「そういうのはなしで。なんていうかな……今が夢じゃないかなって、確かめたい意味もあるんだ」
「そうでしたか。ですが、私も同じ思いがあります」
よかった、と二人は安堵する。
そうと決めたら行動に移すのは早く、敷いてある布団に並んで一緒に入る。
千代は龍臥の左手を掴み、暖かさをしっかりと感じ、彼もまた彼女の体温を感じて安堵した。
「おやすみ、千代さん」
「おやすみなさいませ、主人様」
病み上がりですでに疲れていたのか、すぐに健やかな寝息を立てて夢の世界に旅立つ。
しっかりと眠ったのを確認すると千代は顔を赤らめ、頬に軽く触れるだけのキスをした。
「……お慕いしておりますよ。龍臥さん」
それからほどなくして、千代も眠りについた。
※
「あれで手を出してないとか嘘でしょ……」
「父様〜……? なにをしているのかな?」
「げぇっ!? 炎!?」
こっそりと部屋を覗き見していた綾人は驚愕し、炎はそんな綾人を般若のような形相で睨んでいた。




