決着
ようやく天叢雲戦、決着です!
片手のみとなった天叢雲は明らかに脅威度が下がっており、三人になって攻めている龍臥たちには追い風となっていた。
そのおかげで息を整えたとはいえ、万全とはいかない龍臥と炎でもどうにかなっている。
だが、そんな状況でも天叢雲は互角以上の戦いを見せつけていた。
奇襲のダメージこそ受けたが、残った片方のハサミと身のこなしで三人の攻撃を的確に捌いていく。
持ち前のクワガタとしての装甲も適宜部分的に展開し、巧みにダメージを最小限にとどめている。
そして援護している狙撃にも、とうとう意に介さなくなってきた。
「片腕がなくてもどうにかなるものですねぇ!」
「そろそろ……くたばれよ!」
(着実にダメージは通っている……しかし、主人様や姉様を含めた私たち三人でこうまで膠着させるとは。私の銀狼も性能は高い方というのに!)
吠える龍臥、内心で舌打ちする千代。
千代の鋼鉄兵器『銀狼』の性能は龍臥の零式と炎の蟒蛇の中間という位置付けである。
零式ほどの攻撃力はないが、蟒蛇よりも攻撃力は高い。
蟒蛇ほど速くはないが、零式よりは速い。
よく言えばバランスが取れており、悪く言えば突出した能力がない。
間違いなく追い風が吹いているが、まだ決定的なものではない。勝率が上がっただけで、勝ちが確定したわけではない。
だからこそ、龍臥は頭をフル回転させる。
天叢雲は疑いようもなく自分たちより遥かに強い。
それは認める。しかしそれは諦めることには繋がらない、諦めることなどあってはならない。
絶対に生き残ると、先ほど誓ったばかりなのだ。仇をとれるならば命と引き換えにしてもいいと思っていたはずの彼が、先へと進むことを望んだ。
(考えろ、考えろ! 俺が、俺たちが前へ進むために!)
一歩間違えば死に繋がる状況の中、思考を止めない。
そして考え抜いたところで、つい先ほどのことを思い出した。
(アイツに、一番大きいダメージを与えたのは千代さんの不意打ちの時。その時俺がやったのは……)
考えれば単純なことだ、と龍臥は思った。
今までが拳だけで砕いたり、致命傷を与えることができたからこそ龍臥は気がつくまでに時間がかかった。
(打開策は考えた。あとは俺がやるだけだ)
龍臥の覚悟は決まっている。
そう考えたのと同時に、千代と炎は攻撃が防がれ後ろへ吹き飛ばされた。
ここだ、と龍臥は拳を握り愚直に、そしてまっすぐに踏み出した。
「直線的すぎですね! その首、今度こそもらいましたよ!」
左腕のハサミが龍臥の首へと向かう。
だが、それは龍臥にとっては『想定通り』の動きだった。
拳をすぐさま上げて、右腕の手甲でハサミを受け止めた。
勢い自体は完全に殺せず、戦いの中で摩耗していた手甲はひび割れていき、破損する。
ハサミは生身の部分にまで接触したが、完全に切り落とされるまでには至らず止まった。
その光景を、天叢雲は信じられないといわんばかりに目を見開いていた。
今のは会心の一撃であったはず、傷ついた龍臥に反応されてしまうとは思いもしなかったのか。天叢雲の考えはどうあれ、龍臥は逃さないと言わんばかりに左手でハサミを捕まえる。
攻撃の要であるこのハサミを抑えることは、すなわち逆転の一手である。
「関節!」
龍臥はただ一言、全力で叫ぶ。
彼の意図を察した千代と炎は、すぐに立て直して己の最速で天叢雲の腕へ距離を詰める。
千代の脇差と炎の刀が交差し、天叢雲の腕関節を切り裂いた。
最後の腕を落とされた天叢雲は体勢を崩し、素早く離れた二人の後に龍臥の左拳が天叢雲の顔を捉えた。
「ゴッ……!?」
「オラァアアアアアアアアアア!!」
続け様にまだ右腕に残っている手甲で、痛覚を無視して連続で殴る。
咄嗟に張られる部分的な装甲を展開するも、両腕をなくした天叢雲に全ての攻撃に反応できるほどの力はなかった。
頭を捕まえ、そのまま顔に膝蹴りを喰らわせる。
天叢雲の額が割れ、血の代わりにその存在が消えるように霧のようなものが溢れた。
討伐される妖魔は、霧散して消えていく。
(勝利が目前まで、ようやく来た!)
「もらったぁああ!」
「っちぃい!」
もう一撃、膝蹴りを叩き込もうとした瞬間に天叢雲は背中に羽を出し大きく羽ばたかせ、その衝撃で龍臥を弾いた。
「んな!?」
「ははは! 楽しませてもらいました! 両腕を取られた以上は勝てません。また回復してから食べさせていただきますよ」
「ふざけるな!」
想定外の事態になった。
天叢雲は間違いなく強く、龍臥や炎を殺して食べたいという執念は本物だ。
だから龍臥たちの命を完全に取るまでは逃げないと考えていたのだが、こんなにあっさりと退却を選ぶなど、龍臥は考えもしなかった。
「また会いましょう。鳳龍臥……!」
そのまま空中へ飛び、龍臥は捕まえようとするが今の彼の体力では届かない。
(ここまで追い込んだっていうのに……!)
宙へ飛んでいく天叢雲。
数メートルほど飛んだところで、離脱しようと身体を転換させる。
だが、天叢雲は逃げることは叶わなかった。
片方の羽が根本から、炎によって斬り落とされたからだ。
「……は?」
「逃すわけ、ないだろう」
炎の手には自前の刀と千代の脇差。その二本の刀で、最後に出せる最大の一撃で逃走経路を塞いだのだ。
蟒蛇の跳躍力は、並大抵のものではない。
全力の跳躍は常人ではありえない高さまで飛び、忍者である炎の身体能力であればその能力はさらに増す。
軽装であることは、忍者の特性を考えればベストマッチであると言えるだろう。
(とはいえ、僕はここまでだ……これ以上の戦闘継続は無理。だから)
「あとは任せたよ、二人とも……」
「に、忍者ぁあああああ!?」
天叢雲が、初めて怒りをこめた叫びを上げる。
もうこれ以上の手を天叢雲も持っていない、そう断じさせるには十分なものだ。
炎は意識を失い、この叫びが聞こえていないが、聞こえていれば皮肉たっぷりの笑顔を浮かべていただろう。
羽がなくなった天叢雲はコントロールを失い、落下を始める。
そして下では、龍臥と千代がいた。
「主人様、いきますよ!」
「おお、頼むぜ千代さん!」
助走をつけ千代に向かい、彼女はそのままバレーのトスのように彼を上空へ飛ばした。
龍臥は狂いなく天叢雲に向かい、回転をつけて右足を伸ばした。
「これで、終いだ!」
必殺の蹴りが天叢雲の胸元に直撃し、そのまま身体を貫いた。
「ば、か……な……!?」
真っ二つに別れた身体は、地面へと落ちた。




