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決意

「あの時母さんの足を引っ張った挙句、死なせてしまった。これが俺が妖魔を一人で狙い続けた理由です」


 そう言って龍臥は説明を終える。自分の命を顧みない敵討という、現代社会には似合わないその価値観を、千代には理解できてしまった。

 過剰なる自信のなさは、母親を救えなかったから来るものだというのも理解できた。その上で、どうしようもなかったとはいえ友人も守れなかったのだ。

 怒りもあるがそれ以上に自分への侮蔑を感じてしまうのもわかった。

 親子と主従では重みが違うが、自分を助けた龍臥を殺されたならば間違いなく損得勘定を抜きにした千代も対象に殺しを行うだろう。だが同時に、龍臥の母親の気持ちもわかってしまう。大切な存在には生きていてほしい。ただそれだけの当たり前な感情なのだから。


「主人様、敵討には私も全力で助力をさせていただきます」


 だからだろう、自分の思っている以上に動揺は出ずに龍臥に手を貸す決意をさらに強める。


「この命、囮にでもなんでもご自由に」

「ありがとう、千代さん。でも囮とかには使わないよ」

「知っております。あなたはそういうお方ですから」


 ニコッと笑って返す。彼女も龍臥のことを知ったのだ、彼女の命を粗末に扱う人間ではない。だからこそ千代は龍臥に命を簡単に預けられるのだ。

 対して炎は「素晴らしい理由じゃないか」と手放しに褒めていた。

 炎の気持ちは素直なもので、敵がいるなら自分の手で討ち取りたいのは当然だろうというものだった。彼から見ても幸いなことに、力があるのだ。

 その過程で他の市民も守っているのだから、なおのこと。理由はどうあれ気骨のある男として映った。


「僕も君の敵討には手を貸させてもらうよ。どちらにせよあの妖魔は放っておけないんだ。忍者としても、個人としてもね」

「……どうも」

「うーん、まだ警戒されてるねぇ」

「まぁ炎姉様ですから」

「どういう意味だい!?」

「そのままの意味ですが。主人様、これより主人様の体力回復のために料理を作らせていただきます。炎姉様もついでですのでお食べください」


 そう言ってキッチンへ行く千代。久方ぶりに妹の手料理をたべれるということで炎は小さく「やったー!」と喜んでいた。今更ながら周囲の住民への配慮をしてくれたらしい。


「凰くん」

「あ、はい。なんでしょう」


 一瞬で千代に見せていた雰囲気がなりをひそめ思わず身構えてしまう。


「……君のお母様のことだが、まずは謝らせてほしい」

「え? 急にどうしたんですか。炎さんは別に関係ないでしょう。当時の俺もガキだったし、そっちもそうでしょう?」

「だとしてもだ。私たち忍者がしっかりとしていれば君のお母様が妖魔と戦うようなこともなく、犠牲になることもなかった」

「それは……どうでしょうか」


 龍臥も頭はいい方ではないが、考えることはできる。

 忍者という組織が仮に当時からいたとして、被害をゼロにできるのかといえば正直激減はするとしても不可能だろう。


「溢れる命ってどうしてもあると思いますよ。だからあまり自分を責めないでくださいよ」

「そう言ってもらえるとは思わなかったな。ありがとう、君は優しいんだね」

「優しいっていうのとは違うと思いますが」

「いや、優しいさ。千代もきっとその優しさに救われているんだよ。私の立場としてはこういうことをいうのも本来違うんだが、千代の「姉」としてお礼を言わせてもらうよ、あの子の笑顔をここ数年は見れなかったから、本当に僕は嬉しいんだよ。ありがとう」

「……ど、どういたしまして」


 自分でも珍しく、と思いつつ龍臥は炎からの感謝を受け取る。きっと彼女たちにも事情はあるのだろう、とは察することができた。

 龍臥の印象だと千代は表情豊かな方だ。そんな彼女の笑顔を身内が珍しいというのであれば、きっと忍者としての彼女は感情を押し殺していたのだと想像するのは容易だった。

 それから少しして千代が三人分の夜食を用意し、机に並べていく。


「うん、うまい。さすが千代さん」

「自慢の妹だねぇ。いや、ほんとに美味しい」

「ありがとうございます。あ、ところで主人様」

「ん? どったの?」

「鋼鉄兵器は元は母君様のものであるのは此度の話でわかりましたが、そういえば母君様もどこから入手されたのでしょうか?」

「ああ……母さんが学生の頃に親父様からプレゼントされたものだってことらしいんだ。母さんも最初はアクセサリーとして喜んでたらしいんだけど、まさか鋼鉄兵器だとか普通は思わないよ」

「……ちょっと待ちたまえ。君のお母様はなくなった時おいくつだったんだい?」


 炎に聞かれた龍臥は顎に手を当てながら思い出す。


「えっと確か……二十六、七くらいだったかな?」

「そ、そうか。教えてくれてありがとう」


 どういたしまして、と龍臥は返す。なぜ炎がこのようなことを聞いたのかはわからないが、おそらく意味はあるのだろうと深くは追求しなかった。


「さて、腹も膨れたことだし俺たちの手札を確認しようか」


 龍臥は机の上に武装形態になっていない零式を机に置く。彼のいう手札とは、有り体にゆえば戦力の確認だった。

 炎も小刀の状態である蟒蛇を机の上に続けておく。


「現代科学の推を詰めた鋼鉄兵器がこんなアパートの部屋に二つもあるのってすごいことだな……そもそも表立つ品でもないだろうし」

「というか、装甲兵器はそもそも国家機密レベルの品物でございます。新型や旧型の差異などあれこそその形も様々です」

「傾向としては最新型になればなるほど小型化しているね。一般的なものでわかりやすい例でいうならスマイルフォンとかもそうだね」


 なるほど、と龍臥は納得する。

 昔の持ち運び式の電話の重量は数キロあり、そこまで便利ではなかった。

 しかしそれから技術が進歩するごとに携帯電話、スマイルフォンと軽量化して利便性が上がっていった。さらにはインターネットでの検索も昔のパソコンなど比にはならないくらいのことができる。

 そう考えると装甲兵器は龍臥の頭では、どれほどの最新鋭のテクノロジーが詰め込まれているのか想像もつかない。


「これ一つ作るのにどれぐらい金かかってるんだろなぁ……」

「最低でも数千万円はするかと……姉様の蟒蛇には一億かかっているはずです」

「お、億ぅ!?」

「重装甲になるタイプなら平気でそれくらいはするよ。僕の蟒蛇は機動力と攻撃力を優先しているからまだ抑えている方さ」

「ただそのコストの高さから配備されるのにも手間暇はかかっています。それに装甲兵器には相性で認証されないことなどもありますゆえなおさらですね」


 はえーと驚愕を隠せない龍臥は、零式に目をやる。


「じゃあ俺の零式って奇跡的に二世代続けて装備できてるってこと?」

「そうなります。技術的なことはわかりませんが、まず起きない出来事と思って差し支えないかと」

「そっか……前にちょっと聞いた時だと忍者の人たちはかなり鍛えてるからそれも相まって強いわけか。改めて忍者ってすげぇんだな」

「そう言われると嬉しいものだね。とはいえ鋼鉄兵器の所有は忍者だけじゃない」

「え?」

「君自身がその一人だね。それにお上の護衛である選ばれたボディガードや実は各地方には自衛隊などから一人二人くらいはいる。僕も出会ったことはないけどね」


 お上の護衛……それには納得だ。むしろ装甲兵器は過剰すぎるくらいの護衛と言えるだろう。

 自衛隊にも人がいるはずだが各地方で一人二人にしか配られないのなら、同じ自衛隊員も守り切れるか怪しい。

 守られるべき民に恩恵が巡ってこないのは、嘆くべきところだろう。


「表立たない武器の時点でそりゃ数はお察しなわけだよな」

「はい。なので考えれば考えるほど主人様の零式は出自が気になりますね」

「プレゼントをしたという父君が作ったと考えられるね。全くその情報がないのは怖いところではあるね」

「母さん、どっかに写真とか残してないかなぁ」


 どういう相手だったのか、ということも龍臥は聞いていない。本当にお守りの零式をもらったことしか聞かされていない。


「……いや、知っていそうな人はいるにはいるな」


 龍臥のこぼした言葉に「え」と二人は呆然とした反応をした。たった今までで知らないという話をしていたばかりだというので当然だ。ちゃぶ台返しが早すぎる。


「君ぃ、さっきまでの話の流れはなんだっていうんだい?」

「全くでございます!」

「ご、ごめんなさい」

「うん、とは言っても……マジで「かも」くらいの話なんだよ。あー……うん、でも……ちょうどいいか」


 とりあえず話すから二人とも落ち着いて、と声をかけて両手でもサインを出す。


「二人にも言っておくと、俺が考えている父親を知っているかもの人は絶対にこの話題にいい気持ちをしないんだよ」

「一体誰ですか……あ、もしやご家族様ですか?」


 千代の言葉に「正解」と小さく拍手をすると気まずそうな顔で言葉を続ける。


「今日はもう遅いから連絡はできないけど明日には聞いてみようと思うよ。あの、それでなんだけど……千代さんは隣で一緒にいてくれないかな?」


 どうしても気まずい話題だから……と言う龍臥。

 それに対して千代から出た言葉は「よ、よいのですか?」だった。


「わ、私がそのような重要な場にいても……本当によいのですか?」

「うん、いてほしい。千代さんがいいならなんだけどね。正直、父親の話題をじいちゃんにするのはめちゃくちゃ気まずいから……隣にいてくれると、心強い」

「僕は? 美少女二人になってさらにリラックスできるかもよ?」

「茶化さないでいただけます? こっちは真剣なんだから」


 茶化しているわけじゃないのに……と少し落ち込む炎だったが、龍臥はあらためてしっかりと千代に顔をあわせる。

 視線を逸らさず、はっきりと千夜の瞳をまっすぐに見つめながら。


「……わかりました。主人様の望むままに」


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