幕間=過去3=
――時は戻り、怜奈と妖魔の戦い。
一進一退の攻防は続いていたが、幾度目かわからない打ち合いで大きく弾かれ距離ができる。
怜奈の表情には余裕はない。身体のところどころにかわしきれなかった傷ができており、肩で息をし始めている。
(距離をとれたのは、幸いだ。呼吸を少しでも整えれる)
すでに怜奈は疲労困憊。
しかし対する妖魔も当然ながら無傷ではすんでいなかった。
ハサミの一本は折れ、中途半端な長さになっており鎧である甲殻も殴り壊されたあとがいくつもある。
『あ、ハハ……! あはははははははは!』
「……ぁあ? 何笑ってんだ」
妖魔は不気味に、楽しそうに笑った。
ただでさえ理解が及ばない妖魔であるというのに、なおさら不気味だった。
『楽しイんだもノ! 強イ人間、強い! 楽しイ! もっと、もっと殺しアオウ!』
「こっちはちっとも楽しくはないんだけどな!」
『キキ、そしテ、食べテもっと強くナる!』
「わかってたけど話が通じないなおい!」
されでも回復の時間は多少なり稼いだ。弱っているのもお互い様、状況は怜奈の方が分が悪いが、それでも覆せないものではない。
(それにしても、ドンパチしてるうちに場所も移動しちまったか)
視界に映るのは公園の遊具。
この公演には小さい頃の龍臥を連れて遊ばせていた。
遊んでいた時は平和な時間だった。どうしようもないくらいの、幸福な時間だった。
それは今の生活にも続いている。
「……テメエの好きにはさせねからな。ど畜生が」
その時間を奪わせない、そう強く心で呟く。
『さぁ、続きダ! 続き、ダ!』
「かかってこい、このドサンピン、が……」
決意した。決意してしまったからこそ、見えてしまった。
懐中電灯と片手に物干し竿を持ってこの場に現れてしまった、最愛の息子の姿を。
ほんの一瞬だが、怜奈は動揺してしまった。
なぜ龍臥この場にいるのか、そもそもなんでこんな深夜に出歩いているのか。それは息子の性格を考えたらすぐにわかった。
――オレがいなかったからか!
怜奈は息子を愛しているし、その逆もまたしかり。
普段では起こるはずのないこの動揺が、命の奪い合いの明暗をわけてしまった。
「なん……なんだこのクワガタぁ!?」
目の前の未知なる存在に対して思わず叫んでしまう。
それに気がついた妖魔は振り返った。
龍臥の背筋にゾクリと悪寒が走る。ギチギチと顎が鳴り、幼い龍臥の本能に恐怖を与える。持ってきた物干し竿など役に立たないとすぐに理解した。
『子ども……ちょうど、イイ』
栄養としては物足りないが、回復する分には問題ない獲物だと妖魔は確信している。
驚愕し、逃げようと考えるも足がすくんで龍臥は動けない。
羽根を羽ばたかせながら俊敏な動きで飛びかかる。なんの訓練も受けていない、喧嘩が強いだけの小学生の目には映るはずもない。
恐怖のあまり、龍臥は目を瞑る。
「ーー龍くん!!!」
ほんのコンマの差。
わずかな時間で龍臥を庇って妖魔の前に割り込み、妖魔のハサミが鎧を穿ち貫いた。